再生可能エネルギー、世界最大の電力源に 石炭を初めて上回る

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世界の電源構成に占める再生可能エネルギーの割合が、2025年上半期に初めて石炭を上回り、世界最大の電力源となった。世界的な気候・エネルギー分野のシンクタンク「エンバー(Ember)」が7日、そう分析した報告書を公表した。
電力需要は世界的に高まっている。しかし、太陽光・風力発電の成長が非常に大きかったため、追加の電力需要を100%満たしただけでなく、発電に使用する石炭やガスの量もわずかに減少させることとなった。
ただ、再生可能エネルギーの割合が石炭を上回ったという見出しの裏には、世界各地の複雑な状況が隠されていると、エンバーは指摘している。
特に中国などの開発途上国がクリーンエネルギーの拡大をけん引した一方で、アメリカや欧州連合(EU)加盟国などの富裕国では、地球温暖化の原因となる化石燃料への依存がこれまで以上に高まった。
国際エネルギー機関(IEA)の別の報告書によると、こうした差は今後さらに拡大する可能性が高い。IEAは、ドナルド・トランプ政権の政策の影響で、アメリカにおける再生可能エネルギーの成長が予測よりも大幅に鈍化するとみている。
地球温暖化の主要原因である石炭は、世界最大の単一エネルギー源の地位を50年以上維持してきた。IEAによると、2024年時点でもそれは変わらなかったという。
中国は依然として石炭火力発電所を増設しているが、クリーンエネルギーの成長率では他国を大きくリードしている。太陽光と風力による発電量は、世界各国の発電量の合計を超えている。そのため、中国における再生可能エネルギー発電の伸びが、高まり続ける電力需要を上回り、化石燃料発電を2%削減することができた。
電力需要の拡大スピードが緩やかになったインドでは、太陽光・風力発電の導入が進んだ。石炭・ガス使用量は削減された。
一方、アメリカやEU加盟国などの先進国では、対照的な傾向が見られた。
アメリカでは、電力需要がクリーンエネルギーの供給量を上回るペースで増加し、化石燃料への依存度が高まった。EUでは数カ月にわたり、風力・水力発電が低調で、石炭とガスの使用が増加した。
IEAの報告書は、2020年から2030年までのアメリカの再生可能エネルギーの成長予測を下方修正した。昨年の時点では、主に太陽光と風力による発電容量が2030年までに500ギガワットに拡大すると予想していたが、これを半分の250ギガワットとした。
IEAの分析は、トランプ政権の政策がクリーンエネルギーへの移行に向けた世界的取り組みに与える影響について、これまでで最も徹底した評価を示している。また、アメリカと中国の劇的に異なるアプローチも浮き彫りにしている。
中国がクリーンテクノロジーの輸出を急拡大する一方で、アメリカは自国の石油とガスをもっと購入するよう世界各国に促すことに力を注いでいる。

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「重要な」転換点
こうした地域差はあるものの、エンバーは今を「重要な転換点」と位置づけている。
エンバーの上級アナリスト、マルゴルザタ・ウィアトロス=モチカ氏は、「クリーン電力が需要増加に追いつきつつあることを示す、変化の始まり」だと述べた。
太陽光発電はクリーン電力の成長の大部分を担い、電力需要の増加分の83%をまかなった。太陽光は3年連続で世界最大の新たな電力源となっている。
現在、太陽光発電の58%は低所得国が占めており、その多くは近年で爆発的な成長を遂げている。
これはコストの劇的な低下によってもたらされた。太陽光発電のコストは1975年以降、99.9%も下がっており、今では非常に安価だ。そのため、特に電力網が高額かつ不安定な国では、わずか1年程度で大規模な太陽光市場がうまれる可能性があると、エンバーは説明している。
例えばパキスタンは、2024年に17ギガワット相当の発電が可能なソーラーパネルを輸入。この発電容量は前年の2倍で、国内の発電能力の約3分の1に相当する。
アフリカでも太陽光ブームが起きている。ソーラーパネルの輸入量は、6月までの1年間で前年比60%増だった。この動きでリードしているのは、石炭依存度の高い南アフリカ。太陽光発電容量が1.7ギガワットに達したナイジェリアはエジプトを抜いて2位に浮上している。これは欧州の約180万世帯分の電力需要をまなかえる規模だ。
アフリカのより小規模な国々でも、急激な成長がみられる。エンバーによると、アルジェリアの成長率は6月までの1年間で前年同期比33倍、ザンビアは8倍、ボツワナは7倍となっている。
一部の国では、太陽光発電の急速な普及で、予期せぬ課題が生じている。
アフガニスタンでは、太陽光で稼働する水のくみ上げポンプが広く使用されるようになり、地下水が減少。長期的な利用への懸念が浮上している。開発学が専門のデイヴィッド・マンスフィールド博士と衛星データ企業アルシスの研究によると、5~10年以内に一部の地域では水が枯渇し、数百万人の生活が危険にさらされる恐れがあるという。
イギリスのエネルギー転換委員会のアデア・ターナー委員長によると、日差しに恵まれた「サンベルト」と風況に恵まれた「ウィンドベルト」の国々は、まったく異なる課題に直面しているという。
アジアやアフリカ、ラテンアメリカなどのいわゆるサンベルト地域では、昼間の冷房需要が大きい。こうした地域では、太陽光発電システムと手ごろな価格の蓄電池を導入することで、ほぼ即座にエネルギーコストを大幅削減できる。
一方でイギリスなど、いわゆるウィンドベルト地域の国々が抱える課題はより深刻だ。風力タービンはソーラーパネルとは異なり、過去10年間で3分の1程度しかコストが下がっていない。金利上昇で借入コストも押し上げられ、風力発電所の設置費用はここ数年で大幅に増加している。
供給を安定させることも、サンベルト地域より難しい。冬季は数週間にわたり風力が弱まることがあるが、蓄電池だけでは不足を補えないためバックアップ電源が必要になる。システムの構築と運用にはさらにコストがかかる。
それでも、クリーンテクノロジー産業における中国の圧倒的優位性が、世界中のどこにいても揺るがないことは、エンバーの最新データで示されている。
中国のクリーンテクノロジーの輸出額は8月、過去最高の200億ドルに達した。同国の電気自動車輸出(26%増)とバッテリー輸出(23%増)がそれぞれ増えたことが要因だ。同国の電気自動車とバッテリーを合わせた輸出額は今や、ソーラーパネルの輸出額の2倍以上に達している。













