太陽電池使用の無人機「オデッセウス」、5年間の滞空を目指す
2008-05-13, Y. Matsuo
図:(Flight International)DARPAは、北緯60度の高緯度上空を長期間飛行し、静止衛星の代わりを務める無人機計画「ヴァルチャー」に、オーロラ・フライト・サイエンセス社の「オデッセウス」機採用を決めた。開発を進め5年後の飛行を目指す。「オデッセウス」は翼幅150m、離陸上昇は翼幅50mの「基本機」の姿で行い、3機が成層圏に到達してからそれぞれ翼端を連結して「オデッセウス」を完成する。翼上面には太陽電池を貼りつめ、日中は太陽エネルギーを効率良く集められるよう[Z]字型で、夜間は効率良く飛行できるよう翼を展張して飛行する。
図:(Aurora Flight Sciences)北緯60度の高緯度上空を日中飛行する「オデッセウス」の姿、3機の「基本機」が連結されて描かれている。各「基本機」は高効率の電気モーターで駆動するプロペラ3基と、「十字型」尾翼を持つ。尾翼面で効率の良い太陽位置を感知しそれに合うように主翼面の角度を調節する。この形で飛行すると必要動力は50%増えるが、太陽エネルギーの吸収効率は4~5倍に向上する。
図:(Aurora Flight Sciences)夜間は主翼を翼幅150mに伸ばし、アスペクト比を最大にし翼端に生じる誘導抵抗を最小にすることで、消費動力を減らす。
2008年4月22日、米国の国防先端技術研究局(DARPA)は、長期間滞空を目指す無人機「ヴァルチャ-[Vulture(禿げ鷲)]計画を推進するため、オーロラ・フライト・サイエンセス[Aurora Flight Sciences]社を主契約とし、それにボーイングとロッキード・マーチンを加えた3社と「第一段階」の開発契約を結んだ。「ヴァルチャー」計画とは、太陽エネルギーを使う全く新しい構想の無人機の開発計画で、450kgのペイロードを載せ5kwの電力で情報収集、監視、偵察および通信の各装置を作動させ、60,000~90,000ft(20,000~30,000m)の高空を5年間(44,000時間)飛び続ける事を目標にしている。
「第一段階」では、12ヶ月間で機体の形状を確定し数分の1サイズの試作機の設計と実証機の設計を行い、特に核心となる太陽エネルギーの収集、光電池を使った信頼性の高い推進システム、それに高効率の燃料電池、の技術を検討する。「第2段階」では、数分の1の試作機を製作し、2012年までに3ヶ月間の飛行を行い、改善点を見出して実証機に反映させる。実証機の飛行は1年間を予定し、特に高緯度冬季の飛行性能を検証してから、5年後に実用機を完成させる。
主契約社オーロラ・フライト・サイエンセスでは、「ヴァルチャー」計画で作る無人機を「オデッセウス(Odysseus)」と呼んでいるが、これは太陽エネルギー利用で飛ぶ翼幅50mの飛行機(基本機あるいはモジュールと呼ぶ)を3機用意し、それぞれを亜成層圏に上げてから翼端をヒンジ結合し翼幅150mの機体にしようと言う構想だ。
翼をヒンジ結合することで、日中は太陽エネルギーを最も効率良く集められるように3枚の翼の角度を[Z]字型に調節でき、夜間は翼を水平に伸ばして空力的に最も効率の良い飛行をし、かつ、プロペラを回す電気エネルギーを少なくしようと言う考えである。3機の「基本機」を繋いで1機とするもう一つの利点は、各「基本機」は高空で自立的に飛行でき他機と結合できるので、飛行を続けながらほぼ2年毎に「基本機」を整備のために卸し交換できる点である。
さらに、空気力学的には、150m幅で翼面荷重が僅か1 lbs/sq-ftの弱い主翼で離陸し気流の乱れの多い対流圏を飛行しなくて済むこと、50m幅主翼の「基本機」の翼端に生じる誘導抵抗は3機結合しても変わらずそのままで、重量/ペイロードは3倍に増やせる、等の利点がある。しかし、「オデッセウス」「基本機」の結合技術はかなり難しく、シエラネバダ社の開発した無人機用の空中給油技術を基に開発を進める予定である。
各「基本機」は高効率の電動モーター3基を備え、それでプロペラを回し日中は時速226km、夜間は162kmの速度で飛行する。
操縦は、各「基本機」後のブームに取付けた十文字型尾翼で行い、これが同時に最も効率の良い太陽電池の角度の検知もする。太陽エネルギーを効率よく集めるには光電池をできるだけ太陽光に直角に当てなければならない。NASAがハワイで行った太陽エネルギー利用の「ヘリオス(Helios)」機の場合は太陽ほぼ常時天頂にあるため、平面翼でも太陽エネルギーの収集に問題は無かった。「ヘリオス」は90,000ftの高空を24時間飛行するのに成功している。しかし「オデッセウス」の場合は、北緯60度以上の高緯度で冬の運用を考えているのでその場合の太陽の位置角度は僅か5度になり、この状態でエネルギーを集めるには翼面を傾け太陽にできるだけ直角に近くする必要があり、[Z]字型主翼を使う事になる。[Z]主翼にすると飛行に必要な動力は50%増えるが、エネルギー収集効率は4~5倍になるといわれる。太陽電池で協力しているボーイングは、太陽電池利用の無人機/UAV「ゼフィアー(Zephyr)」を作った英国のクインテック(Quinetiq)社と共同でエネルギー貯蔵法の研究に取組んでいる。「ゼフィアー」は2007年9月に54時間の滞空記録を作ったが、これを3ヶ月に伸ばそうとしている所だ。「ゼフィアー」はリチューム・サルファー電池を使っているが、これはせいぜい数百回の充電しかできない。ボーイングはこの代わりに長期にわたり再充電可能な燃料電池を検討している。
DARPAは「ヴァルチャー」計画で、軍用静止衛星と同格の情報収集、監視、偵察、通信能力を持たせる、としている。一方オーロラ・フライト・サイエンセス社は、軍用以外に、これを使って民間用の広帯域通信や地球気象観測に利用する事を考えている。
図:(NASA)2001年にNASAが行ったハワイ上空で太陽エネルギー利用の無人機「ヘリオス」の飛行実験で、3万m上空を24時間以上飛行する事に成功した。「ヘリオス」は翼幅75m、747の主翼より長くアスペクト比は31:1。殆どを各種複合材で作り、翼全面に太陽電池62,000枚を貼りその電力で14個の直流モーターを動かし各2馬力で直径2mの2枚のプロペラを回す。全体は、それぞれ12.5m幅の6個のセクションから成り、繋ぎ目にポッドを取り付け、そこにランデイング・ギア、電池、フライトコントロール・コンピュータを内蔵する。
図:(QinetiQ)英国のクインテック社が作った高空を長時間滞空できる無人機「ゼフィアー」。2007年9月に米国ニューメキシコ州ホワイトサンドにある米軍のミサイル試験場で18,000mの高空を54時間飛ぶと言う記録を立てた。
「ゼフィアー」は、翼幅18m、炭素繊維で作られた重量30kgの超軽量機で,模型飛行機と同じように人の手から飛び立つ。翼の上面は薄いアモルファス・シリコン太陽電池で覆われている。夜間は再充電可能なリチューム・サルファー電池の動力で飛行する。軍用として偵察と通信中継を目的に開発中だが、将来は民間への転用も可能としている。
―以上―
References:
Flight 22-28 Apr 2008, page 20 “Endurance trial for Odysseus”
Aviation Week Apr 28 2008, page 26 “Years Aloft”
DARPA “advances plans for 5 years non-stop flying machine” from Aero Gizmo
Defense Industry daily 22 Apr 2008, “DARPA’s Vulture: What goes up, needn’t come down”
Gizmag.com. ”Odysseus; Aurora’s radical, unlimited endurance, solar powered aircraft”
NASA, Helios prototype:
QinetiQ “Zephyr UAV