- 1スレ主25/06/12(木) 01:48:55
- 2スレ主25/06/12(木) 01:50:08
どっちが♀でも固定してないのでユゴバズ♀でもバズユゴ♀でもOK
実はスレ主もネタをあげたりしてる。
ネタを調理してくれる人々に感謝!
長文ss多くて美味しい😋
ご注文いただいたのでユゴバズ♀バズユゴ♀をスレタイにトッピングしました!ご注文ありがとうございます。 - 3二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 02:00:16
たておつ
- 4二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 02:03:23
加速いるかな?
- 5二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 02:22:02
このレスは削除されています
- 6二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 02:23:24
たておつ
前スレ、ユゴバズ♀ バズユゴ♀どちらもそれぞれ息子も娘も派生して楽しかった - 7二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 02:34:35
じゃあネタに
ユゴ♀で叔父さんにはお触りぐらいだったけどバズと暮らすようになり、街に買い出しに行く事なってその時初めて自分の容姿が人よりも整っていて異性から見て自分が狙われやすい事を知る。
叔父さんにされてたことの意味も理解していてまだ小さいからお触りで済んでたのに気が付いて自分は弱いから身を守れない→ならば初めてはバズがいいって思ってユゴ♀から誘う。
バズはそこら辺はお子様で戸惑ってるけど毎日ユゴ♀が迫ったりなでなでしてる内に出来るようになる。
ユゴ♀も他の男にされるくらいならの意識が本格的にバズと夫婦になりたいと思えるようになって生理も来るようになった。
で陛下のお迎え…からの妊娠発覚でバズはきっと入団するからその時にこの子を見せればきっとバズも受け入れて娶ってくれると思って産んだら自分そっくりで受け付けなくなり育てられずに乳母に任せてしまう。
バズが入団するとユゴ♀は自分の手で育てない罪悪感から子供の存在を教えずバズもスルー。
バズはバズで乳母に育てられてる子供を見て察してしまいユゴ♀へ距離をとってしまい子供とは交流有り。
子供はユゴ♀が母だと知らずバズが父とも知らずに成長。
バズに初恋で幼児の頃から知ってるのでと言って父であるのは伏せて振る。
ユゴ♀はそれを見て自分がバズに振られたと錯覚する。
正気が薄れたユゴ♀は身体の関係から入ったのでユゴ♀はバズを手に入れる為に夜這い
とここまで考えたけどこの先無理 - 8二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 02:35:56
- 9二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 02:45:53
バズ♀の子供がハッシュの生き写しだったらもうちょっと状況がマシにならんかな
- 10二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 03:10:06
前スレでバズ♀息子(ファルケ)の話投下した者ですが後日談的にネタを一つ
ファルケはユーゴーの生き写しの容姿 ただ髪の色がほんの少し赤みがかってる
「城も領地もなくなったから、ファルケが受け継いでいけるものは何もない。あるとすればブラックっていう名前だけだ。だからお前はファルケを第一代として新しいブラック家を自分の力で構えろ」と教えていた
子供の性別が男の場合「ブラック家を再興させること」がより上位になるので、とにかく息子を生かさないくてはいけないのでなりふり構ってはいられない
このバズ♀は結構したたかで、900年陛下が就寝中は公私共にユーゴーを支えてる
一時的にしろ安定的な内縁関係に入り息子ファルケの情操教育的にも悪くはなかった
ユーゴーのベッドで堂々と裸で書類仕事とかしてるのをお付きの人たちにも目撃されて「バズビー様は最高位のミストレス(公妾)である」なんて扱いくらいされて平気だったかもしれない
バズ♀の復讐心とユーゴーとの勝負をつけたい気持ちは変わらないけど、ファルケはなくていい、自分にもし何かあったら帝国を出て現世へ行って一人で生きていけるように手を尽くして育ててきたので、
ファルケは千年血戦後は数百年ぶりに現世に帰り顔とスタイルの良さを活かして若いうちに荒稼ぎ
好みの女性を聞かれ
「私と、私のお母様と一緒に暮らしてくださる美しい方。赤毛ならなおよろしい」と公言
世の女性を絶句させるが、家柄の良いヤンキー気質の赤毛美女と恋をして結婚しさっさと引退
安く売り出されてた古城を買って修理し嫁と子と暮らす
城ではファルケの「お母様」がスローライフしてるけどなぜか彼そっくりな金髪の美青年が一緒
ファルケいわく「お母様の幼馴染で大切な人だそうです」
戦後になってようやく両親の経緯のあれこれを知り、理解はしないけど事実を受け入れる
「ファルケ・ブラック」を公に名乗れるようになって以降のブラック家の当主は自分と認識してるので
バズ♀はもちろん、戦後処理で死神側に拘束されていたユーゴーの身元引受人もみずから申し出て引き受け、隠遁生活の世話をしてる
陛下のことも「継がせる物も息子も結局は持てなかった存在」と割と同情的で個人的に弔ってるあげてるし、京楽さんとはホットライン繋いでるし、生き残りの滅却師たちの相談役にもなってる
ブラック家もちゃんと再興し割とよくできた息子になってる - 11二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 03:17:18
- 12二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 08:12:05
- 13二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 09:59:07
バズ♀も完璧な母親ではないし難儀な性格してるし、結構面倒くさい思考をしてると思うんだ
娘なら完全な自分の完全庇護下に置いて復讐だの憎しみだのを引き継がせてしまいそうだけど
息子なら「ブラック家を再興せよ」「そのためならお前は復讐などしなくていい」と教え、そうすると
少年時は訳もわからず陛下もユーゴーも嫌っているけど、物事がわかるにつれ見識がフラットになる
「騎士団長は見えないところでお母さんを守ってる」「お母さんだって悪い所がある」になれる
復讐しなくていい、憎まなくていい、この姿勢でしつけと教育を続けてたらメンタルは母譲りなので
「組織のトップやっていける男」になり、理性でユーゴーや陛下のことを受け入れられそうだと思ってる
マザコンだけど
- 14二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 12:13:46
前スレの最後の方の息子の名前が出て無いやつも面白かったけどあれ毒抜け切ってない
- 15二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 16:03:05
息子がマザコンになるのはわかる。だってユーゴーの血を引いてかつ愛情深く育ててくれるんだったらマザコンにもなるよね?ってみんな思う
- 16二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 19:05:30
ちょっと変わり種かも知れないけどユゴ♀で自分にそっくりだからこそバズの子供であることに価値を見出すユーゴーってアリかな?
あくまでバズの子供として愛しているけど、自分と血が繋がっている事でそっくりでもバズとの繋がりの証明として感じれるならと慈しめるユーゴーはあの御尊顔なら美しいと思う。 - 17二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 19:06:40
生き残ったルートでもバズ♀のこと独占しようとする父と息子が喧嘩するのかな
父子そっくりで外見年齢がほぼ同じなものだから、はたから見たら女を巡った一卵性双生児の争い - 18二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 19:08:28
- 19二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 20:01:50
- 20二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 20:53:01
- 21二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 21:46:15
>>20ありがとうございます。楽しみにしてます😊
- 22二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 22:41:47
ポテトは親になるならまずはメンタルどうにかしろ!医者に掛かれ!!と言いたくなる
今のお前が親になっても悲劇しか生まん… - 23二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 22:45:05
カッコいい
- 24二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 23:40:00
バズママ死んでる時点で抜け切る訳ないから
- 25二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 00:23:33
- 26二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 00:51:41
このスレは優れたss料理人が多いスレの模様
- 27二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 07:57:35
ユーゴ♀の自分に対する態度がおかしいのは昔父に捨てられたせいだと思い、まだ見ぬ父を恨んでいた娘だが自分にも分け隔てなく接してくれるバズを慕っていて「こんな人が父親だった良かったのに」と薄ら思っていた。後に慕っていたバズが実父であることが判明し、どちからといえば母が父を捨て、対話も拒み続けていた事を知りアイデンティティが揺らぐ回。
- 28二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 12:20:25
ユゴバズ♀の息子のメンタルタフガイ、ファルケ・ブラックとパパユーゴーの話できた
石田くんってとても頼りがいのあるお医者さんになると思うのでいざ登場
息子がしっかりしてるしバズ♀がいてくれるのできっとメンタルも安定していくとはず
テレグラフがうまく使えないので連投します。長いのでご挨拶申し上げます お覚悟を
ファルケ・ブラック 赤みがかった金髪のユーゴーと瓜二つな青年 cv梅原 - 29二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 12:21:46
彼が城どころか周辺のコミューンを含めてたったの10ユーロで買ったことは日本でも大きな話題となったことである。石田雨竜もその記事を目にしていた。「成り上がり芸能人のお遊び」と揶揄され批判の的になっていた。しかし石田は思う。自分のスキルを最大限活かして自分の力で稼いだ金くらい自由に使わせてやれと。本人も言っている、あらかた稼いだから金はもういらないと。
そのコミューンは広い丘陵地帯にある。一部の商店以外はさびれていて、その国の公式登録によれば住人たったの6人であるという。だからこそ事実上無料で城も放棄された町も手に入れることができたのだとファルケ・ブラックは石田に打ち明けていた。こういう話は彼は死神たちにはしないらしい。あくまで滅却師であるあなただから話すことができますと、いつも前置きして一人語りのように語る。待ち合わせは石田の勤務する病院近くのスターバックスと決まっている。彼がいつもスターをシュテルンと誤って発音してしまうのを聞くのにも慣れてしまった。
第一に城主として城を修理しながら年の半分はそこに住むこと。
第二に周辺の農場から積極的に食料を仕入れて積極的に消費すること。
第三に景観及び周辺の自然を保全し自然エネルギーを利用すること
ほかにももろもろあるが、それらを条件に彼はその国の国籍を正式に取得することとなった。石田は新しいパスポートを見せてもらっている。彼の両親もすでに国籍を取得しその城に住んでいる。
城はもちろんただの城。母バズビーの故郷なわけではむろんない。それは千年前に朽ちて消え果て思い出の底にあるのだとファルケは語る。
だが母バズビーの生まれた“西”の淵にはこれ幸いに、“死んでゆく町”などとと評されながらも誰かがいつかは戻るのではと期待を持たれる城が売り買いされている。石田のような東の者たちから見てすればその姿はおとぎ話にたずむ城そのもの。古城と町が風雨にさらされ一体となりながら誰かの帰りを待っている。ファルケはその一つを手に入れた。
そこは祈りを求めて旅する人々にパンとワインを供していた黙想の街でありかつては騎士の国である。人々の祈りと祝福が幾重に重なり正しき御魂に満ち満ちている。滅却師の致死毒となるホロウは清められたものは必ず避ける。だからファルケはそこを手に入れた。 - 30二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 12:23:59
彼は母の家系の血の意味を知った気がすると言っている。
「お母様の生まれた国は死の向こうに安らぎのないことを受け入れて生きていた滅却師たちの国でした。だからこそ陛下は許さなかった。陛下は“死”を何よりも厭うておいででしたから」
帝国は一枚岩ではかった話を石田は実はバズビーからも聞かされている。
「死の訪れない境遇を嘆く者を俺は知っていた。俺はそれから目を背けていた」
ファルケはコミューンに帝国民のいくらか移住させる。帝国の中でもとりわけ彼の母のようにユーハバッハに国を焼かれた「西の国生まれ」をすべて受け入れる予定である。数はわずか数百。しかし共同体を作るのには十分だ。いずれ純血の滅却師は消えねばならぬというのは家の教えだった。
「百年間は国から税金の控除を受けられることが定まっていますが、私の代で手を打っておきたいのです。お母様も手伝ってくれるというので心配はしていませんが」
彼を端的に表現するとすれば「世界で最も美しい男性スーパーモデル」ただそれ一言である。美しいことを至上とする世界に一人で飛び込んで行って、あの少女と少年のあわいの微細な時期をあっという間に過ごし、父親と同じ容姿に長じたときには世界の頂点に君臨していた。
帝国で過ごした年月を考えると現世の年齢にあてはめることは難しい。便宜上ファルケは15歳でデビューした。翌年には世界で最も美しいティーンエイジャーと呼ばれた。それからほんの3年で世界で最も美しいと讃えられる男となり、今や若きビリオネアだ。本人によれば「素材とやる気と根気と努力と素直さと謙虚さがあれば」いくらでも金を手に入れられる世界だったという。つい先日現役を引退すると表明した。
「どのような女性がお好みですか?」
不躾な質問に対してファルケは穏やかに答えて世の女性を沈黙させた。
「私と、私のお母様と一緒に暮らしてくださる美しい方。赤毛ならなおよろしいですね」
つまり彼は母と住むためにあの城を買った。
近く結婚を予定している恋人は燃えるような赤毛の女性だ。その国でも屈指の名家の令嬢でなかなかの美女だがとにかく大変な気の強さで悪名高いスノーボードのオリンピアン。彼の一目惚れだ。彼女と「お母様」はフライフィッシングで意気投合した。赤毛に彼は思い入れがある。彼の母の家系はみな炎のような赤毛。受け継げなかったこと非常に残念に思っていた。 - 31二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 12:26:13
「ブラック家の男はみな純粋に赤毛なのですが」
珍しく沈んだ声で石田になんとはなしに語ったことがある。
「私は父に似てしまったのです。陛下からそのことを責められたことがあります。なぜお前はブラックの古い血を受け継がなかったのかと。陛下は不死をお望みでしたのに、その一方で死んでいく家系の者をそばに置きたがる変なお方でした」
責められたことを両親には話さなかった。ことに父には知られたくなかった。不全ゆえに愛されていた父を否定された気がしたからだ。それ以来は父を積極的に憎まなくなったという。ただ母の愛を享受することに盲目的だったという。
ファルケ・ブラックは石田にとってあの戦争の最大の因縁となった男の実の息子である。それを知った時、共に戦った黒崎一護たちは驚いていた。「あの子の顔どうやったらあれになるんだ? いや確かにどっちも綺麗だけど顔違いすぎるだろ」
今や彼は髪の色をのぞけば父と瓜二つ、髪の長さまで同じだ。とあるポスターの撮影契約上何年かは髪を切ることができないでいる。最近ますます父親に似てきた彼を眺めると、あの戦いは実は自分の夢か妄想でしかなかったのではないかという気がする。
影の帝国の生き残りはさほど多くない。王だった男は霊王宮に封じられ、親衛隊はじめ星章文字を付与された騎士のほとんどは命を散らした。騎士団最高位にして皇帝補佐であった男は最後に石田にこう告げて敗北の道を行った。
「お前は友を助けに行くべきだ……私に傷を移していけ」
その後のことは石田はあらまししか知らず知ろうともしなかった。ただハッシュヴァルトが倒れたその場にやや赤みがかった金髪の少女……実際には少年だったファルケが駆け寄ってトリアージを行った話は聞かされた。時に命の選別に関わる仕事にたずさわる身となった今ではその判断との行動力にただ感嘆するばかりだ。
ファルケは騎士団の中ではそれほど重んじられてはいなかった。遠くから姿を見たことはあってもあの戦いの間は言葉を交わしたことは一度もない。滅却師として突出する力もなかったので衛生部門を志望し血戦当時は衛生軍曹として小隊を預かっており、現世の救急救命士に相当する知識と技術がある。医務官を希望した時期もあるがそのことがなぜかユーハバッハの不興を買ったという。 - 32二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 12:28:56
待ち合わせぴったりに彼はやってきた。店内に一斉にわっと歓声が上がる。スマホを向けてカメラを使い出す人がいる。彼は慣れているらしく軽く会釈してさっさと飲み物を買いテーブルについた。
「お久しぶりです石田先生」
「久しぶりだね。その、でも先生と呼ばれるのは恥ずかしいからやめてくれないか」
「何をおっしゃいます。あなたが私の知る中で最も医師らしい医師ですよ」
因縁の男と全く同じ姿全く同じ声をしているが、目の前の彼に対してはなんのこだわりを持っていない。
あの美しい男は終始陰鬱で残虐だったがファルケにはそうではない。
言動は常にきっぱりと明朗で表情は明るく豊かだ。
それに彼はよく笑う。ファルケが声を立てて笑うのを初めて見た時、飲んでいたコーヒーを吹き出した。
「元気そうでよかった。尸魂界へ行くなんて随分久しぶりなんじゃないのか?」
「二年ぶりです。その際はお世話になりました。なんとしても京楽総隊長のご理解を頂こうと意気込んでしまってずいぶん失礼な態度をとってしまいましたし。お礼を言う間もなく離日してしまって申し訳ありませんでした」
「気にしないでくれ。身勝手な心配だったんだ。ホットラインを繋ぎたいだなんて言い出すなんて思わなかったから。京楽さんはなんというか、話の通じる人ではあるけど決して一筋縄ではいかない人のように見えるものだから心配になってしまって、つい僕から口を挟んでしまった」
「結局システム上城の基盤に組み込んでしまうのが一番手っ取り早いだろうと涅さんが助言してくださったのでそのようにしました。とても便利ですよ」
「え? は? くろつちさん……クロツチサン!?」
「ええ、12番隊の涅隊長。ご存知でしょう? いつも化粧されてる隊長さん。今後どんな生活になるにしても常に私と密にしておくのが必須だとおっしゃってくださったので総隊長も“そうだよねえ”って……って、大丈夫ですか、石田先生?」
石田はコールドブリュ、ファルケはカモミールティーである。
「いや、大丈夫、む、むせただけ……いやその、君は12番隊の隊長と親しいのか?」
「親しいと言うか、まあ、お話しする機会がどうしても多くなるので交流は多いですね」
「実験させてくれとか解剖させてくれとか言われていないか?」
「言われました。“古き純血の子とは素晴らしい”とか。かれこれ五年前」
「言われたのか!?」 - 33二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 12:30:20
「もちろんお断りしましたよ。その代わり私が所属していた衛生班に残っていた全ての情報をお渡ししました。血液サンプルもありましたのでそれもすべて。隠したところで見つかったら引き渡さなければなりません。そうなる前にこちらから申し出た方が良い切り札になるでしょうし実際そうなりました。涅さんは今後は医療上の情報はこちらにも共有してくださるそうです」
「信頼して大丈夫なのか」
「助力を願うほかありません。今後はおそらくすべての帝国民が遅かれ早かれ老いて死んでいきます。その時を安らかに迎えるためにはおそらく涅さんや4番隊のお力が必要になります、確実に」
祖父から自身まで3代、現世で暮らしていた石田家と帝国の臣民たちでは確かに死の捉え方が違うだろうとは確かに思う。彼らが「死」を恐れているのには根源的なものだ。帝国は千年の歴史がある。そして最古参の者たちは死を迎えることもなくほとんど老いることもなく若さを保ったままだった。彼の両親であるハッシュヴァルトとバズビーはまさにその顕たる存在で、現世で緩やかながら成長した息子の方が両親の外見年齢に先にたどり着いてしまったのだ。
「穏やかな最後を迎えられるのならそれでいいという者はとても多いのです。死の先のあてのなさを心配するより生きていること自体を大切にしたい、でもそのようなことは陛下にとても申し上げられなかったという声が私のもとに届いています。それでも彼らは本当は私ではなく陛下や父を頼りたいのですよ」
ファルケはそういうことを語る時さえひたすらに穏やかである。
冷貌である父に比べるとこの息子は生き生きと血が通っている。
共に何か語り合えたら楽しいだろうと思わせる親しみやすさがある。彼の父は星十字騎士団最高位というのにふさわしく、まさしく星の光のような男だった。闇夜の中でも雲間でもただひたすらに輝く冷たい星々の煌めきそのものの男だった。だがファルケは違う。
帝国の生き残りたちは主に重霊地である現世日本各所に移り住み、これといった罪もなく害もないと判断された者は、浦原喜助によって「その外貌から思い起こされる国籍の出身者」という偽造戸籍を与えられて一般人の中に混じっていった。ファルケが差し出してきた彼ら全員の血液サンプルは涅マユリの手で管理保存され、技術開発局を介して浦原喜助と双方で情報を共有している。 - 34二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 12:33:07
生存したユーグラム・ハッシュヴァルトは軍の最高責任者として死こそ免れたが、戦後処理のため中央四十六室に数年間拘束された。そして二年前に解放された。むろん条件がある。
陛下ことユーハバッハから譲与された力を死神側の手で封印すること。
そして生涯を身元保証人の監視のもとで過ごすこと。
いずれくる死を受け入れさせること。
この条件を提示された時ファルケはその場で呑んだ。
むしろ条件を提示した京楽春水のほうが戸惑っていた。
この時点で彼はすでに母の身元保証人となっているのだ。すでに千年を帝国で生きているとはいえ今や止まっていた時間が動き出している。これからは限られた時間を生きることになる。現世年齢にしてせいぜい20歳になるかならないかの彼にすべてを負わせてよいものなのか。
「お母様に千年養ってもらってましたよ。これから数十年お母様を養ったところで大したことはありません。私たちどうせ百年経たずに死ぬ身じゃありませんか。父のことはお母様のお話し相手としてお引き受けします」
京楽は絶句したらしい。涅だけが鼻で笑っていたという。
ハッシュヴァルトは抑留中に精神的なダメージで健康を害していた。バズビーとの一切の連絡が遮断されたことがいっそう彼を病ませた。その命が無事だと聞かされても初めは信じようとしなかった。なにしろ切り伏せたのは彼自身だ。その後数時間の記憶は彼には残っておらず、その部分で何があったのか聞き出すために涅と浦原まで動員して薬剤治療を行なったが功を奏さなかった。状態が改善されたのは四十六室の許可が降りてバズビーと書簡のやり取りを許されてからのことだ。検閲で引っかかったのですぐさまファルケが呼び出された。コレクションのシーズンが外れていなかったのは幸運としか言いようがない。京楽もすまなさそうだった。
「ファルケくんごめんね、忙しいのに」
「手紙が検閲に引っかかったって本当なんでしょうか。いまさらお母様がこちらに物騒なことを書くとは思えないのですが」
「いやね、読めなくて、字が。古語の解読班も控えているんだけど読めないの、字が」
手紙は短いものだった。おそらく挨拶文と本文、そしてバズビー本人の署名。だが文字が特殊で尸魂界の識者が百人集まって頭を捻っても解読することができなかった。京楽から母が書いたという手紙を見せられてファルケは呆れた顔をした。 - 35二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 12:35:24
すなわちこれはブラック家の者にのみ伝わる秘密文字である。ブラック家の人間と何かしらのサクラメントにあずかった者にしか読めない。た者にしか読めない。
サクラメント。神の恩寵を儀式にしたもの。ブラック家は千年前にすでに途絶えてファルケ自身も現世的な宗教観をいっさい持ち合わせていないがその言葉と文字の書き方使い方は伝わっている。彼の父親はははるか昔にその何かの儀式を すなわちこれはブラック家の者にのみ伝わる秘密文字である。ブラック家の人間と何かしらのサクラメントにあずかった者にしか読めない。
バズビーとともに行った。それでバズビーの書くブラック家の秘密文字が読めるようになっている。
むろんファルケも読める。バズビーの直系の子だからだ。
「申し訳ありません。お母様は普段のメモ書きはこの文字を使うので。書き直していただくように申し伝えます。これはお返しいただいてもよろしいですか」
「いや、返せないよ。秘密だと知ってしまっては。困るよそんなことされちゃったら」
京楽は直球で聞いた。何を書いてあるのか。この期に及んで嘘をつくとも思えない。
「秘密は秘密ですがおそらく陛下でしたらおわかりでしょうね。血盃を与えた陛下とそれを受け取った二人ですから。それもまたサクラメントです」
「読んでもらってもいい?」
「Hugo、Semper ad meliora、Bazzって書いてあります」
「それは、ええと何語だ。帝国の言葉じゃないよね」
「ラテン語です。千年前の人なのであらたまった手紙を書くときはラテン語使ってます。今度からちゃんと帝国語で書くようにとお伝えしておきます。ユーゴー、ゼンペル アド メリオーラ、バズって書いてあります」
「意味は?」
「ユーゴーへ、常に良きものを目指して進もう、バズ。お母様はわかりやすい方ですけどあれこれ文字を書き綴ったりはなさいません」
結局その手紙はハッシュヴァルトの元へ届けられた。今後の手紙のやり取りは帝国語かそれに準じる言葉で行うことと、秘密文字は二度と使わないことを約束させ、ファルケ自身が父親の病室に届けさせた。
ハッシュヴァルトは自分と全く同じな息子の顔を見てもなんの感慨もなったらしい。
「お母様からお預かりしています」
その言葉でようやく手紙に目を落とした。
彼が正気を取り戻したのはそれからしばらくしてのことだった。 - 36二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 12:37:06
「お父様はお父様のことだけを考えてください。お母様は私がお世話をしますから」
その身を引き取りに行った息子にハッシュバルトは半狂乱でつかみかかってきた。
「私からバズを奪おうとするなど許せぬ所業だファルケ」
息子は冷静だった。産ませて捨て、のうのうと陛下の保護で特権を享受し、母子が現れてからは逃げ続けたのはあなただと、責めるつもりはないがとりあえず息子側からの事実だけを告げた。
「お母様はお父様のことを諦めてはいませんよ。諦めるような人だったら私はお母様のことだってお引き受けしていないでしょう」
「まさかバズを捨てようとしたのかお前は。あれほど愛されていながら」
「お母様を捨てようとしたのではなく捨てなくて済んだのです!」
「なんだと」
「諦めてしまうような人でしたら私はお母様のことだってお引き受けしていません」
「その口で何を言うか、一体どういうつもりだ」
千年生きてきてこの父と息子がまともに会話をしたのは数百年ぶりだった。以前に何を話したのかは互いに何一つ覚えてはいない。
勾留中は当然鍛錬などできはしない。おそらく剣を持ち上げることもできないだろうが、そもそも一日に一時間ほど許されていた外気浴に行くことも稀であったハッシュヴァルトの攻撃をかわすことなど大したことではなかった。どのみち聖文字持ちとしての能力は奪われている。フロイントシルトに至ってはファルケ自身がその破壊を見届けたのだ。もう滅却師としてホロウに立ち向かうことはできない。ホロウに出くわしても応戦するすべも持たない。そもそもハッシュヴァルトは元より不全の者である。
だがファルケ・ブラックが手にした城は人々の長い祈りの積み重ねと祝福の上に未だ建っており、そのような清められた場所はホロウは立ち入らない。
ファルケは母と暮らすために城を買った。そして母はハッシュヴァルトと暮らすであろうから、王より与えられた力を失いもう一度不全の者に戻ってしまう彼のためには、その身を確実にホロウの毒から身を守ることのできる場所が必要だったのだ。
「もう一度言いますね。お母様はお父様のことを諦めたりはなさいません。見捨てたりもなさいません。それができる人だったらそもそも私がこの世に生まれているはずがないではありませんか」
「バズが……」
「お父様、お母様はあなたを見捨てたことが一度でもありましたか」 - 37二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 12:41:55
それから二年してハッシュヴァルトはようやく健康を取り戻しつつあるという。城を形成する滅却師のコミュニティには医務官も参加し始めており、定期的に京楽とのホットラインで連絡が続いているのだ。ハッシュヴァルトのことをあれこれ思うことはないが、その生活が穏やかで安らかであるのなら石田に何も言うことはない。バズビーは最近運転免許を取得したという。ある国の軍から払い下げになっていたランドローバー・ウルフを手に入れて、それにハッシュヴァルトとキャンプ道具を積み込んで一週間くらい平気で帰らない生活をしている。
ファルケが日本へやってくるのはのはかつての騎士団最高位の身元保証人としての定期報告を果たすため尸魂界へ経由であり、もう一つホロウ耐性テストについて涅マユリとの直接意見交換をする必要があるためだ。
「本当は父がすべきことだと私もわかってはいるのです。お母様も“ユーゴーにやらせろお前は関わるな”とおっしゃるし」
石田の頭にバズビーの姿が思い浮かぶ。彼女はもうあのモヒカン頭をやめている。ファルケの強い希望だ。女性らしくないとか奇抜だとかの理由ではない。“お母様それでは生きにくいですよ”の一言でファルケが問答無用でベリーショートに落ち着かせた。今では黙ってさえいれば品高い美女に見える。古城を背景に望遠で撮影された彼女の写真は世に出回っている。風景に自然に溶け込んでいてそれをみた井上織姫は「綺麗な人ね」と呟いた。
「なんと言ってるんだい? 彼……その、お父上は」
「父はうちに来てからずっと私を避けています。ただ身元引受人になったことにだけは“ありがとうファルケ。お前がバズのそばにいてくれてよかった”と言ってくださいました」
それならなおのこと言うことはないだろう。
「父から言伝を預かっています」
面持ちを変えてファルケはいつになく真剣に声を落とした。
「“いつかあなたに会いに行く。すまなかったと詫びるために”」
すでにコールドブリュの氷は溶けている。カモミールティーから湯気も消えている。
ああ涙が出そうだ。そう思った。いいじゃないか、泣いて何がおかしい? このスターバックスは人の出入りが多くていつも埃が舞っているんだ。これは曇った目から汚れが落ちていく生理的なものであって心を動かされたわけじゃない。ハッシュヴァルトがここにいたら嘲笑するだろう。何を泣いているのだと。 - 38二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 12:44:32
「石田先生、あの、一つお聞きしてもよろしいですか?」
ファルケは明るさを取り戻している。
「頼むから先生というのはやめてくれ。本当に。まだまだ駆け出しなんだよ」
「先生は陛下と食べ物のあれこれについて話したことってありますか」
「え、食べ物?」
「ええ。帝国にいた期間は短かったですけどそういうお話はありませんでしたか」
「ないな、そういうことは」
後継者にいきなり指名されて帝国をあちこち連れ回されている間、真意を悟られるのではないかとひたすら心に鍵をかけていた。緊張していたので提供された毎日の食事がどういうものだったのかもあまり覚えてはいなかった。おそらく美味ではなかった。銀食器と古い磁器とクリスタルに彩られた食卓が頭の隅に残っている。
「どうしてそんなことを聞くんだ?」
「今回は霊王宮に招かれてるんです。兵主部隊長から酒でも飲みに来いと」
「へえ。そんな気のきいたことに零番隊の人たちがしてくれるんだ。良かったじゃないか。ああ、でも霊王宮には」
「陛下の遺骸がおさめられています」
ファルケはその美しい顔にいささか不似合いな悲しみを浮かべている。そういう表情をするとハッシュヴァルトの顔そっくりだと思ってはしまうが、もうそれを不快に感じることはないだろう。
ユーハバッハの遺骸の行く末を帝国の生き残りたちはどう思っているのか考えたことがない。霊王の代わりを果たすべく利用される己れの未来を陛下は見ただろうか。ハッシュヴァルトは見ただろうか。そして楔となった姿をバズビーが見たら彼女はどう思うだろうか。彼女はそれを見て笑ったりはしないような気がする。罵声くらいは浴びせるだろうけれど。
「現世の風習は東西でも違うようなので勝手な真似はできないんですけど、もし何かお好きな食べ物があったらそれを遺骸のおそばに置いて差し上げたらいいのではないかと思って。でもそれは私の身勝手ですね。陛下がいなくなった今の世界が正しいと思っているのですから」
正義と正しいことは違う。
見る方向からも立場からも、その歴史によってさえも変わる。
清められているという古い土地に新たに住むことになるこの美しい城主は、正しいと思ったことを誰にも知られず、誰にも知らせず、胸一つにおさめて生きていく。
ハッシュヴァルトとバズビーはこの世にまこと美しきものを残していつかこの世を去るのだろう。 - 39二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 12:52:10
コピペ失敗して一部重複、誤字脱字があるけど読み飛ばしてください
- 40二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 15:57:33
このレスは削除されています
- 41二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 17:24:57
ありがとうございます😭ありきたりな感想ですが「命に嫌われてる」を思い出しました
- 42二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 19:01:01
名作をありがとうございます。ユーゴーのルックスとバズ♀の教育で無敵なモデルとして活躍して一国の長になるってホント最強すぎる主人公!
- 43二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 00:39:56
29〜38まで投下したものです 10レスも使ってしまって申し訳ないです
前スレでバズ♀息子のネタに始まり「父のことを知らないふりのファルケ」続いて「知った後の成長」を書いてみました。
こうしてみると生意気で腕白→察し始めて気を使い始めてる→経済に巣立って自由になり親を見つめる
この過程になってますね 良かった良かった^^;
憎しみも復讐も連鎖させなかったことが最大の成功の要因だと思います
ユーゴー 自分ではできなかったけど滅却師の未来を繋ぐ仕事を引き継いでくれてる
バズ 復讐を果たす事は叶わなかったけどブラック家は繋がり再興していく
陛下 死神の助けを借りて穏やかに他と交わって純血のくびきから抜け出す
石田 ユーゴーに謝ってもらう未来がある 「お前」ではなく「あなた」呼びで
ファルケ本人は特に意識してないでしょうが陛下が「なぜブラックの血を引かなかったのか」と責めたのは
王の素質があるのに王になる未来が見えないという問いなのだと思います
国はなくなっても人は残る 帝国がなくなったので王にならない 皆と一緒に生きていく これに尽きるかと - 44二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 00:56:12
>>8グナーデのユゴバズ♀の結婚話を書いたのでどうぞ
「えー…マジですか…?」
『大マジだ』
「分かりました。取り敢えず一旦そちらに行きますね…」
『ああ、ユーゴーの事は任せろ。石田雨竜の件も納得させた。不満そうだがもうとやかく言うつもりはないそうだ…ついでに一言謝罪もするそうだから電話でもいいから繋げてくれるか?』
「分かりました。明日放課後にでも連絡します」
『ああ、頼んだぜ』
その翌日の放課後、生徒会室に石田はグナーデを呼び出していた。他にも霊王宮に行った面々も石田に呼び出されている。
と言うのも石田が皆に用があるのではなく、グナーデが石田に報告がありそれならばと生徒会長の権限を利用し生徒会室に呼び出したのである。
「で、石田から黒森が帝国連中について話があるって聞いたけど…どうしたんだ?」
「………………ハァー………ムゥ…両親が…結婚するそうです…」
苦いものを呑み下すような顔の次に溜息を吐き眉間に皺を寄せたまま口を下弦の月のように口角を下げて筆舌し難き表情、その後に意を決して告げたのはまさかの両親の結婚だった。
「「ハァ!?」」
一護と石田が2人揃って大声で反応した。何か帝国で事件でも起こっているのかと警戒していた為、拍子抜けしてしまったのだ。織姫はキラキラとした目で両手を合わせていて茶渡は読めぬ表情である。
- 45二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 00:57:31
「おめでとうグナーデちゃん!!」
織姫の祝福を受け流して、グナーデは石田に呼び出した理由を伝える。
「その結婚する事になったので禊も兼ねて一言だけ雨竜先輩に謝罪する事になったんですよー…」
「へ?何で僕に…」
「いやあの時城で雨竜先輩、団長にボロボロにされたの忘れたんですか?しかも現世の拠点でも貶すもんですから結構私怒ってたんですよ?」
怪訝な顔で謝られる筋合いも無いと言わんばかりの石田にグナーデの方が怪訝な顔をしている。しかし石田は、
「僕はユーハバッハを討つ為に城を爆破しようとしていたし、黒崎のお父さんもそうだけど娘の…その…ゴニョゴニョ相手なら普通だと思うよ?」
好きな、想うそんな言葉を口から上手く発せずに濁すが石田なりにハッシュヴァルトにフォローを入れる。
「陛下の件はともかく後者については今更父親面されても…一護先輩のお父さんはちょっと騒がしいけど…賑やかでちゃんと妹ちゃん達を溺愛する良いお父さんじゃないですか!一緒にしないでください!」
グナーデなりに数回挨拶した程度の一心を父親として高く評価しているようだったが、一護も父が妹に邪険にされてはいるがそれはそれで妹達が父からの愛情を疑っていない事の証左でもあるのを知っている。
「…お前さ、ホントは父親を嫌いってだけじゃ無いんじゃねえか?」
その言葉が一護からするりと零れた。
グナーデはキッと睨み付ける。
「うちの親父はさ、はっきり言ってウゼーけど俺達を特に柚子と夏梨を大事に思ってるし、その…愛されてるっていうのは疑った事ねえんだ…お前さ本当は「一護先輩ってちょっとデリカシー足りてないんですね!」」
とうとう一護の言葉をグナーデが遮った。
「それ!聞く意味あります?一護先輩…帝国関係の事だったし雨竜先輩が呼んでたからついでに報告しただけですよ?愛されてる事疑えないくらい愛されてるんだから分かんないでしょう!ズカズカ踏み込んで来ないでください!!」
そう半ば叫んで部屋を飛び出して行った。 - 46二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 01:00:53
グナーデが取り乱したのはバズビーが切り捨てられた時以来だ。それに呆然と見送った一同だったが、石田が一番最初にに正気に戻り3人に自分に任せるよう告げてグナーデを追いかけた。
「…悪りぃ…何か怒らせちまったな」
「黒崎君…人には人のお家の事情があるもんね…あたしも仲良くないって知ってたのに祝っちゃったから機嫌悪かったのかも…」
謝る一護に織姫がフォローを入れるが茶渡が止めた。
「井上は悪く無いだろう…一護、恐らく黒森にとっては父親が地雷だったんだな…黒森があそこまで怒るのは予想外だったが、一応謝っておいた方がいいぞ…多分、今のアイツにとっては自分達は父親に愛されてる兄妹だとマウントを取ってるように聞こえたんだろう」
一護はグナーデが取り乱し俯き髪で翳ったその目に涙が浮かんでいたのを見ていた。
もちろんマウントなど取ったつもりは無いが傷付けてしまった事に一護はグナーデを追いかけた石田が彼女を無事励ましてくれる事を願った。
「ああ、分かってる」 - 47二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 01:03:06
「グナーデ」
校門脇の木の影に隠れていたが、今のグナーデの霊圧はグラついていてわざわざ探さなくともすぐにわかった。
「…すみません雨竜先輩…一護先輩に当たってしまうなんて…一護先輩悪くないのに…」
鼻を啜る音が聞こえてくる。恐らく泣いていたのだろう。
「グナーデ…黒崎達を呼んだのは僕だ。帝国の事と聞いて早合点して呼んだ僕の責任だ、気にする必要はない」
「…違いますよ…どうせ一護先輩達にも話そうとしてましたし。…今日は、団長が謝るのに連絡したいからって呼び出してたのに…先に言わなかったから…」
グナーデは自己嫌悪に影に隠れるのではなく、影の中に入ってしまいそうで石田はまとまらない言葉で最近まで抱えていた心の澱を話す。
「………僕も最近まで竜、父とは不仲だったし、愛されてるなんて思ってなかった。でも帝国の件で僕は僕も母も、父にちゃんと大切にされていた事を知って正直なところ受け入れるのに戸惑った。鏃を渡された時も戸惑ったけどそれどころじゃなかったしね。昔母さんの遺体を切り刻んだ竜弦に医者に嫌悪感を持っていた僕にとっては漸く答えが貰えたけど、だからといってすぐに父が好きになれるかと言われれば大事であってもすぐに好きになれるかと言われれ違うと言える。ずっと嫌われて辛く当たられてた君とは状況が違うけど…戸惑って自分はどうすべきか分からなくなった。君もそうなんじゃないか?」
ビクリと肩が揺れる。
「母様が…私の髪を撫でて、色は俺だけと髪質はアイツと同じだって言ったり…」
「うん」
「まつ毛が長いのはアイツ似で良かったって言う度に…」
「…うん」
「本当は凄く嫌だったんです…」
「…そうか」
「だって母様を捨てた癖に母様に思われてるし…」
「…」
「でも母様が…そこまで、思ってる人ならきっと…良い人だって、思ってたのに…」
「…思ってた人と、違った?」
「…はい…母様が、他の人となんて思って逆恨みで…ずっと嫌われて…」
「…そうだね…」
「…本当は…ずっと悲しかった!!小さくて覚えてないけど母様もずっと星十字騎士団に入るまで苦労してて!入ってからも会えない日が多くて!寂しくて!母様を助けて欲しかったし…私もずっと父様が欲しかった…会えて嬉しかったのに…」
「勘違いされて嫌われたのが辛かった?」
声も出さずに頭を縦に振る。泣き暮れるグナーデを石田はぎこちなく頭を撫でて宥める。 - 48二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 01:04:58
その内暫くしてグナーデは泣き止み石田に抱きついたがすぐに離れた。
「雨竜先輩…ありがとうございます…やっと思いっきり泣けました」
「グナーデ?」
「私、父に会ってから母様が切られるまで何百年も泣いてなかったんです…泣いたらきっと母様が傷付くから…でもずっと父に嫌われてたのも詰られるのも本当は泣きたかったんです…スッキリしました!」
真っ赤になって充血した眼と目の周りが痛々しいが満面の笑顔を見せたグナーデに石田はホッとした。
「…なら良かった。戻ろう、きっと黒崎達も心配してる」
「そうですね!私も謝らなきゃですし…父もどうせならちゃんと電話越しですけど一護先輩達もいる前で謝って貰いましょう!」
石田はグナーデの物言いに苦笑しつつも生徒会室に共に戻った。 - 49二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 01:06:44
「黒森!わ「い一護先輩!ごめんなさい!一護先輩のお父さんの事羨ましくて八つ当たりしました!!」」
一護が謝る前にグナーデが先制攻撃なら満点の勢いで謝罪する。
「え、あいや俺の方こそ悪かったな…」
「いえ!もう雨竜先輩に話聞いて貰ってスッキリしたので大丈夫です」
「グナーデちゃん本当に大丈夫?」
織姫が眼が真っ赤なグナーデを心配するが大丈夫だと笑顔で返した。
プルルル・ガチャ
『もしもし…グナーデか…石田もいるか?』
低めな女性の声だ。因みにスピーカー機能にしてるので全員聞こえている。
「はい、雨竜先輩もいますよ。ついでに一護先輩達もいるのでキッチリすましちゃいましょう!」
『いい性格になって鼻が高いな…ユーゴー、グナーデからの電話だ。腹は括ったか?』
電話の向こうで衣擦れの音がする。
『ああ…石田雨竜…』
「…何だ」
『あの時…お前に当たり嬲った事、お前を貶した事心より謝罪する…」
「ああ…もう終わった事だもう良い」
『感謝する…それからグナーデの事だが、頼む』そう言って向こうから大きく衣擦れの音と扉が閉まる音が聞こえて来た。
「…母様が説得したのですか?」
唖然とする一同だがグナーデが
『いや…寧ろそれはそれで認めないって思ってたぐれぇだ…』
「どんな心境の変化でしょうか…?まあ雨竜先輩を認めてくれるなら良いですけど…」
『さぁな…結婚式はしねぇし精々写真撮るくらいだけど…帰って来ねえか?』
「……そうですね…1枚くらい家族写真があっても良いですね」
『!?グナーデ?』
「日程についてはまた決まり次第連絡ください…母様…遅くなりましたが、結婚おめでとうございます」
そう言って電話を切ったグナーデは寂しそうだがそれ以上にスッキリとした顔をしていた。
後日グナーデのサイドチェストの上に1枚の家族写真が置かれる事になった。
その2年後に4人の家族写真が増えるのは余談である。 - 50二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 01:12:02
長々とお邪魔しました。ここからグナーデとユーゴーは和解しますしバズ♀と正式に夫婦になってるハッピーエンドです多分!
- 51二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 01:55:58
43ですがグナーデちゃん待ってました!
お母さんの愛してる人だからきっと素敵な人に違いないと思ってたのにあろうことか誤解されてて
それは腹も立ちますよ
今は心からは祝福できないだろうし、もしかすると今後も受け入れられないかもしれない
でもそういう事実があるということを認めればきっとグナーデちゃん自身幸せになれそう
それにしてもユーゴーから石田への「謝罪イベント」が何かの分岐点になるというのは
息子でも娘でも変わらないというのが面白いです - 52二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 02:37:59
>>51ありがとうございます!ファルケ君の後日談に触発されてもあったので嬉しいです♪
ユーゴーは石田に対しては自分の過去と混同して自分を肯定するための存在扱いであり、何よりも友達を取りたかったなりたかった自分っていうのがあってそんな石田だからこそユーゴーは発狂して暴走した面があると思ってます。
だから石田への謝罪は自分が後悔なんてしてないし陛下を選んだ事を自分の意思で選んだとバズから逃げてた自分を否定して受け入れる成長イベントなんだと思います。
- 53二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 02:45:19
>>35 この部分だけ訂正させてください。いくらなんでも酷すぎた( ; ; )
すなわちこれはブラック家の者にのみ伝わる秘密文字である。ブラック家の人間と共に何かしらのサクラメントにあずかった者にしか読めない。
サクラメント。神の恩寵を儀式にしたもの。ブラック家は千年前にすでに途絶えてファルケ自身も現世的な宗教観をいっさい持ち合わせていないがその言葉と文字の書き方使い方は伝わっている。彼の父親はははるか昔にその何かの儀式をバズビーとともにおこなった。それでバズビーの書くブラック家の秘密文字が読めるようになっている。
むろんファルケも読める。バズビーの直系の子だからだ。
- 54二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 10:19:24
- 55二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 13:20:27
49です。
お察しですね…真面目な石田が2年では結婚しないでしょう…医科大学って6年はありますし少なくとも就職するまでは結婚しないでしょうから『家族』写真ではないです。
もう1人くらいはちゃんと結婚したら作るだろうなとユーゴーを受け入れてるからこそ生まれた弟か妹かの記念写真に参加して飾ってる設定です。
- 56二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 14:44:10
ま、まあ、成人して結婚したんだから問題ない
今度こそ出産育児つきあうのだユーゴーや - 57二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 14:46:34
グナーデもいきなり自分の娘と分かった途端面倒くさくなってたし、飾ってる時点で受け入れられてるなら相応に世話してるんじゃないのかな?
- 58二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 16:42:16
なんか絶妙にリアルにいそうな親子関係
父親と自立した娘ってそこまで距離近くないし便りがないのは元気な証拠くらいの距離感に収まってそう - 59二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 17:51:42
自立した娘どころか、経済的に完全独立しもうすぐ結婚する息子なんてもっと遠いですきっと
病身(不全の身)を引き受けてくれて同居してくれて、バズ♀と好きなように生きさせてくれて
これからも長く続いていく戦後処理も事実上引き受けてるんで… - 60二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 18:05:38
>>59やってる事の割にファルケもファルケで遠かった!同居してるから物理的な距離に騙されたけどこっちもこっちで距離感が生々しいわ!
- 61二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 19:56:59
どうにもhappy endに持ってっても湿度が高くてて苔かキノコが生えそうになるのはベッショベッショの🍟のせいか?
- 62二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 19:58:01
頑張って完成させてくれ
- 63二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 20:46:10
バズ♀だと娘も息子も自分から幸せつかみに行くバイリティがある上に
パパユーゴーが向き合わなくていけないのは子じゃなくバズママだってわかってるのがなんとも - 64二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 20:50:36
原作ユーゴーはバズに塩対応する一方で副団長から守ったりしてるから、我が子に対しても父と名乗らないまま陰ながら庇護するタイプのパパ🍟もいるかもしれない
過干渉だった叔父さんを反面教師にしつつ距離を保ち、団長としての態度は崩さないが目に掛けていることを時々示す🍟
ある日の母子の会話
「やけに嬉しそうだな、その手に持ってる封筒はなんだ?恋文でももらったか?」
「団長から頂いた『お年玉』というものです!目上の方が目下の者にお金を贈る現世の風習だそうですよ。ハッシュヴァルト様は本当に博識でいらっしゃいますね!過分だと遠慮したのですが、渡す側にとっては厄払いになるとのことで……お母様?やはり受け取るべきではなかったでしょうか…?」
「…いや、良かったな。母さんからも後で礼を言っておく」
母子の会話が聞こえてしまったバンビちゃん
「どういうことよハッシュヴァルト!!あたしにもお年玉寄越しなさいよ!!」
「前回の反省を忘れたようだな。そこに座れ。思い出せるまで待ってやる」 - 65二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 21:11:52
で、でも、ほら、石田に「いつかあなたに謝りに行く」ってことづてできるくらいだから!
- 66二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 21:35:11
物凄くバンビちゃんが思い浮かぶわー…この場合の🍟パパと子供の関係の認知度はどんなもんだろ?
- 67二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 00:04:36
みんなうすうす察していて「野暮だから言わない」「団長も男だしな」程度の良識があるのに
バンビちゃんだけが何もわかってないポンコツっぷりだとしたら可愛い - 68二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 00:38:46
- 69二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 07:22:18
モヒカンや腕章にオシャレに対するこだわりありそうだしアスキンなら言うかも
- 70二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 12:58:36
ユーゴー♀はなんか耽美そう想像しやす過ぎる。美人過ぎて実際高嶺の花扱いで逆にモテる感じではなくてありがたやーってなりそう
- 71二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 14:21:14
バズ♀は「団長も男だし愛人でもそれはそれでアリだろ」っ公然の秘密
子どもも「あ、察し…」でスルーしてもらえるしそれはそれとして男からモテる
ユーゴー♀は高嶺の花で「眺めてるだけで十分。オカズにだけしておこ」
子どもは「生んだのかよ…」で無言になり、バズビーが相手だと知られてたとしても
あいつあの女を抱けるだなんて肝座ってるよなみたいに動揺がある
そしてみんなわかってるのにやはり知らないわからないバンビちゃん
「ねえ、その子、誰の子なのよ。シセージってやつ? うわっ、かわいそー!」 - 72二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 15:02:45
バンビちゃんオチ要因として最高すぎ
- 73二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 15:44:56
当事者である子どもたちがバンビちゃんにどんな反応するのか
これまでのバズ♀娘&息子で考えるとこうなりそう
血戦前 両親がギスギスしてるころ
グナーデ「黙っててよバンビ○チ! うちは温かなシングル家庭なの。母様と二人きりで幸せなの!」
ファルケ「バンビ○チ様、お母様がいてくださるだけで十分ですし、お母様って男の好みに意外にうるさいんですよ」
血戦後 両親が和解
グナーデ「バンビちゃん、父様と母様がいる上にきょうだいまでできるだなんて、とても幸せだよ」
ファルケ「バンビさん、今度うちの城にいらしてください。父もお母様も喜ぶと思いますから」
バンビちゃん、いずれにしても「あんた私を馬鹿にしてるの!?」 - 74二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 17:09:43
グナーデって聖兵だからもう少し礼儀正しく
「バンビ○チ様、私達は父親が居らずとも温かく幸せに暮らしております。あなた様のように愛に飢えてはおりませんのでお気遣いくださらなくとも結構です。家族愛について学びたいなら資料室の方でなさってください。ああ、資料室では騒音を立てないようお気を付けくださいませ」
くらいは言う。
因みに
訳「父親無くても幸せだからほっとけ、お前みたいに身体だけの関係じゃねーよ!親子愛について自分で学んでから出直せ、あとお前うるせー」
という意味である。 - 75二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 18:40:17
- 76二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 19:27:47
- 77二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 01:18:36
勇者どころか「伝説のBさん」扱いだ
なにしろ帝国にやってきた時点のユゴ♀を孕ませてた猛者だ
不可侵条約結ぶ前にすでに目標は陥落されてるので男たちは血の涙を流すんだ - 78二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 01:19:31
このレスは削除されています
- 79二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 01:22:54
>>77千年前の事だからマジで伝説扱いになっててもおかしくない
- 80二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 01:36:57
「伝説のBさん」
それは城生まれで、Bさんと呼ばれる気のいい男であること以外は謎に包まれている
強力な滅却師でユゴ♀と子の危機に現れて「お前は俺の子分だ!」と叫んで炎で全て解決
陛下に「Bさんって存在するのですか」と聞いても
陛下も「(バズ)Bは存在する」と答えるから「伝説のBさん」は帝国の建国神話の一部 - 81二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 01:46:48
建国時代に確かにおるwww
- 82二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 09:48:51
保守
- 83二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 11:12:15
陛下も認める建国以来の最古参にして神話の男
確かに存在するのに、誰のその姿を見たことはない謎の男
当のBさんも空気が読める男なのできっと黙ってユゴ♀の託児所を引き受けてる - 84二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 12:20:41
まさかの託児所要員の真の姿が伝説の男とか…
- 85二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 17:36:47
- 86二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 19:56:38
ママンの教育の賜物ですね!( ̄∇ ̄)d
- 87二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 19:58:31
- 88二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 20:08:11
聖兵にとってもおっかなくて面倒くさい相手のクッション役もしてたのか…
- 89二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 01:36:50
誰か1個目のスレの流産からの不妊で復興出来ないからとユーゴーに喧嘩売りまくるバズ♀ネタ書いてくれませんか?
- 90二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 07:23:35
ユゴバズ♀の息子ファルケを書いたので今度はバズユゴ♀も書いてみました
光属性のバズにこそ闇があって、その影響をもろに受けたユーゴー♀はダークサイド落ちてる
またもや長編になるのでご挨拶します。お覚悟を。改行分割で10レス超えるかもしれない
バズユゴ♀vr 息子 燃えるような赤毛 成長後は原作ユーゴーになる - 91二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 07:25:22
バズユゴvr
帝国に到着するまでには私は“いのち”のことになんとなく気がついていた。診断されたわけでも医学的な知識があったのでもない。それは感覚的、本能的なものだ。そして陛下の庇護に入って一番先に感じたのは、バズのそばを離れられてよかったという安堵だ。
私たちはあのまま暮らしていたら遠からず死に至っていた。金貨はまだ十分あった。食料も手に入っていた。だがあのままだと私はある夜バズの首を絞めてしまっていたと思う。バズに触れると「この人は死にたがっている」という暗い影が炎となって燃えているのが見えたからだ。それを見たくないと思う私は決して狂っていない。
彼は死にたがっていた。復讐は口実だ。
馬車に揺られながら別れてしまったバズのことをずっと考えていた。帝国に到着するまでいくつか宿場を通り、陛下には毎晩夕食に招かれた。その席で必ず陛下からバズのこと……バザード・ブラック、主にブラック家について知っていることがあれば話すように言われた。隠すことは何もないという確信めいたもが私にはあった。知っていることは全て話した。バズのこと、バズに聞かされたその一族ことや、ブラック家の習慣や、祝い事や葬いごとのすべてを。
そして二人のテント暮らしのこと。慎ましくてささやかで、五年という永遠。
私は旅の間お体の奥深くに明るくてやさしい火が灯った温かさに満たされて、その後うやうやしく陛下に頭を下げるようになったのが信じられない図々しい娘としてふるまっていた。持ってきた剣がブラック家の当主または代理人に伝えられる家宝だということも打ち明けた。
「陛下の半身としてこの剣でお仕えします」と申し上げた。
「無礼な」と誰かが鋭い咎めの声をあげた。
その時、私の中で誰かがその声を嘲笑った。
“お前こそ無礼者。私は古き尊き黒の血を引く者”
私は確かにその声を聞いた。幻聴でも妄想ではない。それは声だった。
陛下が冷厳な目を私にむけていた。旅の間ずっと「我が半身」「我が娘」と呼んでくださっていた陛下が「ハッシュヴァルト」と呼ばわったのはおそらくこの時が初めてだと記憶している。
私の答えは反射的で深い意味があったわけではない。さらり言った。目の前に暖かな料理が並んでいますという事実を述べるかのように。
「私はこの剣で彼を手にかけるのかが怖くて陛下のもとにやってきたのかもしれません」 - 92二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 07:27:20
陛下は沈黙していた。驚きをあらわになさる方ではないけれど明らかに動揺されていた。そればかりでなくどんな時でも力強い陛下の瞳がこの時ばかりは私から背けられたのだ。それは新鮮な驚きであり、喜びだった。バズはそのようなことをしない。彼はそんなことをしない。動揺しても視線をしばらくさまよわせるだけだ。
陛下が私から目を背けた。たかだか半身でしかない私から目を背けたのだ!
帝国で私はきっと幸せになる。もちろんバズを殺すようなことにはならない。バズが必ず私を追って帝国にやってくる。私たちは必ず再会する。私たちは決別してしまったけれど、たかがそれだけのことだ。別れが決まってしまったから二度と会えないだなんて陛下はひとことも言っていない。二度と会えないのなら陛下は「別れをせよ」とおっしゃるはず。
「あの家の者はずいぶん根深く私に逆らうらしい」
「生をまっとうせよというのがあの家のモットーです」
「Memento moriか」
「ご存じなのですか」
「小賢しいことだがな。だがあの者にはずいぶんと気の毒な結果になってしまったので許してやるとしよう。見逃されたことが罪であろうしな。かわいそうなことをしてしまったものだよ、ハッシュヴァルト」
「それは責任転嫁というものではないでしょうか、陛下ご自身ができなかったことは陛下の責任です。それの結果をバズに罪とするのは無理があるのではないでしょうか。よくわかりませんが」
「ハッシュヴァルトよ。私はお前を少し見誤っていたらしい」
「どのように、ですか?」
「貞節や従順の徳を求めはせぬが、なべて沈黙は絶対美であると覚えおけ。過去のことならなおのこと」
私は思わず声をあげて笑ってしまった。確かにその通りだ。おしゃべりが過ぎてしまった。
夕食の随伴を許されていた親衛隊の四人が顔を見合わせる。
陛下の顔色を窺い、私を見ないように黙々と食している。
バズにお別れもお礼も言わなかったことを後悔する旅であることなど私はとうに忘れて考えることも放棄した。その席で供されたスープは塩味がきいていてとても美味しかった。パンもお肉も果物も。バズに怖い目で睨みつけられて以来食欲を失ってしまっていたけれど、そのスープを飲んでから私は元気を取り戻し、「もっと食えよ。俺の分もやるから」と毎日バズに叱られていたのが嘘のようによく食べるようになった。 - 93二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 07:29:19
みごもっている。
そう告げられたのは帝国へついてまもなくのこと、帝国で一番の腕だという医務官の健康診断を受けた時だった。発育状態が良くないと旅の間じゅう言われ続けていたからだ。
「どうなさいますか、陛下」
医務官は何人かの助手をともなって私を玉座におわす陛下の前に連れて行った。助手たちはギラギラとおそろしいにぶい光を放つ道具を無言で並べている。医務官の命令で簡易用の手術台を作り始めた女たちは気まずそうに手だけを動かしている。その道具をこれから私の股に刺して、薬を流し込めばその場ですぐに終わりますと医務官は表情を輝かせている。
「まだ堕胎できる時期でようございました。内密に処置いたしますので失礼極まりないことではありますが、只今より玉座の間をお借りいたします。どうぞ陛下の御目で子がこの世に生まれ出なかったことをご確認いただきたく」
みごもっている……お腹に赤ちゃんがいる。旅の間、体の奥深くで明るく温かく灯って私を慰めてくれていたのは夢でも幻想でもなかったと安心して力が抜けてしまった。ふらふらと足元が揺れたけれど、その場で医務官に抱きとめられて倒れずにすんだ。抱きとめられた次の瞬間、私はその人と同じ言葉を陛下に向けて放った。
「どうなさいますか、陛下」
その場にいた人全員が凍りついた。もちろん陛下も。
お腹の子はバズの子ども。陛下が滅ぼしてしまったブラック家の男の血を引く子ども。生まれて幸せになる可能性はとても低い。
それでも生まれて抱きしめることができるのなら私はきっとうれしい。いつかやってくるだろうバズも必ず祝福してくれる。子どもごと私を抱きしめてくれる。
バズは必ずやってくる。
それは確定だ。
彼のいのちが私の中で芽吹いているのだ。
彼は己れのいのちを無駄に果てさせ、復讐を諦めたりはしない。私を連れ去ったことでその怒りはいや増し、子どもまで連れ去られたことになってしまった今となっては、彼のその勢いは決して止まることもなく消えることもなく、自分自身が焼け焦げるまでいのちを輝かせてみせるだろう。
陛下が玉座に座ったまま身動きもせず私を見下ろしたままなのを、肯定したものと受け取ったらしい医務官たちは、堕胎するための準備を粛々と進めている。それはそう。だってブラック家の子が生まれるだなんて陛下にとってはあってはならないことだ。 - 94二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 07:31:32
この場にいる医務官たちはおそらく城を殲滅したあの夜に後方に控えていた人たちだろう。ブラック家の者、そしてそれに従う領民までをも一人残らずこの世から消し去ることに手を貸した人たちだ。
バズがいつだか一度だけ呟いたことがある。
「命乞いをする女子どもに“何か飲ませて”まで殺していたのが見えた。そいつらは軍服を着ていなかった。女子どもに手をかけるくらいなら俺を殺して首を城門に晒せばよかったのに。俺を殺せばよかったんだ。俺が殺されればよかったんだ」
俺を殺せ! 俺を死なせてくれ!
一緒に暮らし始めたばかりの頃、バズは悪夢にうなされて、そんな言葉を繰り返していた。そういう時なぜだか私は私は必ず目を覚ましていた。そういう夜は一人で身を起こし、うなされるバズの寝顔をじっと見つめていた。私はきっとバズを失うことは耐えられない。だからいつも彼を見つめていた。いつかあなたが生きていく指針になる何かになりたいと思いながら。
夜中はうなされているというのに朝になるとバズはそれを知らずにいた。それはとても怖しいことだった。死にたいと願っているのにそれを言葉にできないでいるだなんて、陛下に与えられた屈辱がバズを完全に飲み込んでしまったという証拠だ。
死にたいと願いながら生きていた、かわいそうなバズ。
私が役立たずで彼の助けがないと死んでしまうから、一緒に生きてくれたバズ。
彼のいのちに連なるものを生み出したとしたら、彼はもう一度生まれ直すのではないか。
三日したら蘇ると言い残して処刑された男がいる話をバズがしてくれたことを思い出す。
たった三日で蘇った人がいる。たった三日で。
ならば五年も一緒に暮らしたバズの“いのち”を蘇らせたところでなんの罪がある?
いのちを甦らせるだけ。バズ自身は殺されてもなければ死んでもいないのだ。その体も魂ものこの世にある。私はただ彼をこの世で生きる指針を作りたいだけ。それが“いのち”というただそれだけ。
「どうなさいますか、陛下」
繰り返して言い放つ私の声が震えている。
どちらでも構わない。私は選ばない。結果を受け入れるだけ。
医務官たちは怒った。私から服を剥ぎ取り手術台に私を縛り付けた。男二人がかりで足を左右に広げられた。医務官が私の股ぐらの前にかがみこみ、覗き込む気配がした。 - 95二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 07:34:26
「ならば、産め」
玉座から怒鳴りつけるかのような声が上がると、私を押さえつけていた男たちも医務官も震えるようにして身を引き、私を解放した。一人の女がおそるおそる近付いてきて敷布を体に巻き付けてくれた
「ならば、産め。産んでみせよ。産み落とし、母となり、育ててみせよ。その子は私にいかなる害をも与えぬであろうよ。見えるのだ。その子はいつか死んでいく」
医務官たちは真っ青になってその場を片付け始めた。その姿は滑稽だった、実に。
「ハッシュヴァルトよ、お前は我が半身だ。だが哀れな子だ」
陛下がお許しくださったのだ。だから私はこの子を産む。
陛下の目には軽蔑とは違う怒りが浮かんでいた。帝国までの旅の間は父のように温かくふるまってくださっていたのに、もうそのような気配はまるでない。玉座の間を足早に去っていく陛下の背を見て、あなたの方があわれに見えると言わなかった自分を褒めたくなってしまった。
私は陛下にお仕えするが陛下を「我が父」と呼ぶ日は来ないだろう。
その後に続く産み月までの日はあやふやだ。激しい運動を禁じられた。剣を取り上げられたことには抗議したけれど陛下が預かる、産んだのちに返すと約束してくれた。やがて波のように食欲がやってきて、これほど食べられるものなのかと感心していたらその後にすべて吐いてしまった。それはつわりというらしい。産婆が涙ぐんで世話してくれた。
「お気の毒に。こんなに美しいのに。こんなに若いのに。ててなしごを生むだなんてお気の毒に」
「父親はいる。父なしにどうやって子どもを作るんだ。男なしに子どもを作れるの?」
産婆がさらに大きく声をあげて泣き伏した。この子の父親は決まってる。バズだ。私はそのことを誰より知っている。復讐のためにやってくる。死を求めてやってくる。
「どうしてそんなことがわかるのですか」
産婆が私の体を揺さぶり、あなたは気が狂っていると声を低めて嘆く。
「あなたは慰みものにされた身なのですよ! 人はそういうふうにあなたを見るのですよ!」
「そんなことあるわけがないよ」
私はほほえんで見せた。
「逆だと思うよ」
「なんですって?」
「私がこの子を慰みものにするんだ。バズの許しもなく産んでしまうんだから、バズを弄んでしまうのは私のほうだ。そんな私が必要だなんて、我が半身たる陛下はお気の毒だ」 - 96二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 07:36:11
ついに生まれる時がやってきたとき、自分でも信じられないほどの声をあげて泣き叫び、唸り声をあげた。体の骨が砕けて、肉が内側から裂けてゆく痛みに耐えられず、あたりのものを掴んで手当たり次第に放り投げた。産婆や介助する女たちは「暴れてはいけません」「声を上げるともっと痛いですよ」と叱りつけたけどそんなことは知ったことではない。
生ぬるい“それ”は、内臓ごとずるりと引きずり出されたかのようなおぞましさだった。
「…え? あ……」
その後すぐ失神したらしい。深い眠りから覚めた時には何もかも終わっていた。最後は何も覚えていない。
意識が浮上するまで長い時間かかったのだと語る産婆が、眩しいくらい真っ白な布にくるまれたものをまるで王冠を掲げるかのような丁重さで胸に抱いて、わずかに体を傾けてきた。それが我が子だった。生々しい肉のようなピンク色をした丸いかたまり。これが子ども……。その色みが悍ましすぎて顔が見られない。目をぎゅっと閉じてしまった。
「おめでとうございます。男の子ですよ」
「それ……」
「少し体は小さいですが、大きな産声でしたよ」
「……子どもって、汚いんだ、こんなに。これを産んだの。本当に?」
「まだ生まれたばかりだからですよ。お顔はこれからきれいになるものですよ」
「……抱っこしないといけないの」
体から水分が抜けてしまったかのように干上がってしまっている。喉も渇いている。疲れている。
無理をしなくてもいいですよ、顔だけごらんくださいと言われた。
顔か……ピンク色の肉、もぞもぞと気色の悪い虫のような動きをする肉……生ぐさいような肉……ぐしゃっと潰したようにくしゃくしゃで汚くて……仕方なく目を開けた。その瞬間息を呑んだ。いびつな形をした頭部にふわふわと生えている髪の毛。量も少ないしぼさぼさで整っていないけれど、それはまさしく「赤毛」だった。
ああ、この子は!
この子はバズのいのちだ!
きっとバズは生き直してくれる。蘇ってくれる。この子を見たら!
「俺を殺してくれ」だなんて言わなくなるはずだ。
顔立ちなんてまだわからない。目も開かず、鼻も口元も潰れてる。
でも私はきっとこの子を育てていける。育ててみせる。バズにこの子を会わせて「バズは生きなくてはいけないよ」と言うことができる。五年の間、私は一度もそれを言わなかった。言えなかった。 - 97二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 07:38:31
女には月経というものがあるのだということを知ったのは子を生んでから付けられた“めのと”に教えられた。
「めのと、私は病気かもしれない。私が死んだら陛下はこの子を殺すだろうから、その時はせめて苦しまないようにしてやって死なせてやってほしい」
「いかがなされました、ハッシュヴァルト様」
「下着に血がこんなに」
彼女は一瞬ぽかんと口をあけて、汚れたから脱いでしまった下着を眺めたが、すぐに笑顔になった。
「体がようやくご回復なさったのですよ。ようございました」
「回復したら血が出るの? 元気になったのに血が出るの?」
「だって女ですもの。陛下にご報告しておきますわ まもなく床上げできるでしょうしおめでたいことばかりですよ」
月経というものが何かこの時はわからなかった。それがこれからは毎月やってくることで、手当てまでしなければならないということを知ってうんざりした。
けれどバズはどうだろうか。なんとなく私にはわかる。バズはそれが私にやってきたことを知ったら、おそらく喜んでくれる。もしかしたら頬か髪かあるいは額に軽く口付けさえしてくれるかもしれない。顔を背けて頬をあからめて、そしてぶっきらぼうにこう言う…「よかったなユーゴー」と。
良い事ならばバズは必ず喜んでくれる。私が何か失敗しても「気にすんな。やり直せばいいだけだ」で終わったし、私が狩りに成功し、きのこやベリーを収穫して帰ると「すげえな、ユーゴー、お前めっちゃ成長するじゃねえかよ」と褒めてくれた。
ふにゃふにゃと力の定まらない我が子が弱々しく泣いている。
めのとが「お乳をあげましょうね」と私の寝間着の胸元をそっと開く。胸もとの重みとだるさが、あきらかに大きさを増した乳房がこんこんと母乳を蓄えていることを知らせてくれている。めのとは乳房をそっと揉み、張りつめた痛みを解いてくれて、我が子に乳首をふくませるように抱えなおさせた。
私の子どもはいつもお腹を空かせている。
「名前はどうなさいますか」
「考えてない」
「それではどうお呼びするのですか」
「…キント」
キント。子ども。それでいい。“バズのいのち”に名をつけてしまうだなんてあまりにも惜しい。バズと呼ぶことも考えたけれどそれはこの世で彼と二人だけの秘密にしておきたいからやめてしまった。 - 98二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 07:40:17
私の子どもはいつもお腹を空かせている。母乳をあげるのは初めはとても嫌だった。赤ん坊の吸う力と言うものがあんなに強いものだとは想像もしていなくて、初めて授乳した時は思わず「痛い! やめろ!」と叫んでしまった。ついでに子どもも放り投げた。ベッドに座ったままだったから床に落とさなくてすんだのだ。
「なんてことをなさいます。まだお生まれになったばかりですよ。小さい子ですよ」
「だって痛かったから。赤ちゃんがそんなひどいことをするだなんて思わなかった」
赤毛の我が子が乳首に吸い付いて必死な姿は惨めだ。コクコクの喉を鳴らす姿にはぞっとする。小さいくせに重いし、まだ身じろぎしかできないのに泣く声だけは一人前。手も握ったまま開かない。目も開いてない。これは本当に私が産んだのかと、めのとには何度も聞いたが返ってくる答えはいつも同じだ。
「ハッシュヴァルト様がお産みですよ。ご立派に頑張りましたよ」
下半身に残る鈍痛と疲労が私が母親になった証拠として残っている。
この子は食欲旺盛だ。両方の乳房が空っぽになるまで乳を飲み尽くす意地汚い子。
バズはそんなことはしない。たくさん食べるけど「この部分はお前が食べろ。滋養になるぜ」「これ3個あるからお前は2個な」「お前なんで水飲まねえんだよ。お前の分まだ残ってるじゃねえか、さっさと飲んじまえ」と私にたくさんわけてくれていた。
この子は食い意地のはった浅ましい子。それでも赤毛だ。もう少し伸びてきたらもっとわかりやすくなる。赤毛なのだ。それも燃える炎のような赤毛。触れたら熱さで焼かれてしまう純粋の赤。この子はそれにふさわしいブラックという家名を名乗ることを許されるだろう。他ならぬこの子の父であるバズに。バズに祝福され「お前は俺の息子だ!」と抱き上げてもらえる。その時きっと私はバズのそばにいる。バズは子どもごと私のことも抱きしめてくれるだろう。
きっと「俺はあの時死にたかった」と言わなくなる。
「お名前、陛下につけていただいたらどうでしょうね」
めのとが馬鹿なことを言い出した。
「頭がおかしいのか。この子はバズの子だ。産むことは許されたけどこれから生きることは許されないかもしれないのに」
「陛下がそのお子……キント、様の顔を見てみたいと……」
「陛下が? どうして?」
「未来が見えぬと嘆いておいででした」 - 99二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 07:42:48
陛下に謁見するために、私は久しぶりに騎士団の制服を着た。お腹のふくらみはもう元に戻っているが胸元は以前よりきつくなっている。腹がくちくなったおかげでおとなしく眠ってる我が子を抱いて巨大な回廊を歩いていく。
玉座の間に通されると、玉座に陛下がおわし、そして親衛隊の四人が整列していた。
「我が半身である陛下にご挨拶申し上げます。さまざまにご配慮ありがとうございました」
陛下の反応がない。私はただ知りたい。陛下のお考えを。だから自分から聞いてみた。
「この子が不興でいらせられますか」
親衛隊は四人四様に顔をしかめてはいるが私も子どもも見ようとはしない。
「その子を見せよ。名は?」
「キント。子ども、と呼んでいます」
私は玉座に歩み寄り、陛下に我が子をお渡しした。死の影に生きるられる血の者か……アルゴラがそのように呟いたがその表情は諦めの果てに何か希望すら見ているかのような穏やかさだ。
陛下は思いのほか赤子を腕に抱くのが上手だった。私よりずっと体が大きいので子はすっぽりと陛下の腕におさまっている。我が子は泣きもせず身じろぎもせず偉そうな顔をしてすやすやと寝入っている。私はおかしくなってしまった。そんな無礼で生意気なことができるのは、バズの子だからだ。
「なぜ名付けぬのだ。生まれながらにして名を奪うのか。だとしたらハッシュヴァルトよ、お前は恐ろしい女だ。母にならぬつもりか。私は産めとだけではなく母となって育ててみせよと言い渡したはずだ」
叱責でも怒りでもなく、返ってきたのはただただ低い声。
ヒューベルトが目を見開いて驚いている。私が妊娠中の間も騎士団長の任を解かれなかったことを彼は陛下に対して抗議してらしい。そういえばそうだ。鍛錬どころか騎士団の面々にもまだまともに知らない。
……つわりがおさまって気分も体も安定した頃、座学のためにヒューベルトとは顔を合わせている。嫌味たらしく分厚い書物を持って全て読んでおけと言った。
「お前のような賤しい生まれでは字も読めないであろうから、誰かに読み方から教えてもらうといい」
私は反抗する気もなかったので彼の目の前で書物を開き、その場で読み上げてみせた。ヒューベルトがあからさまに驚いているのが面白かったので、私は一時間ほどその書物に綴られた文章をすらすら読んだ。こいつのために読み上げてやった。 - 100二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 07:46:38
「読めるのか」
「読めますよ。教えてもらいました。毎晩読み書きするのが習慣でしたから」
バズは城の焼け跡から金貨と持ち出しただけでなく書物を一緒に持ち出して大切にしていた。
私がそれを読めないと知ると毎晩読み聞かせてくれていた。
何冊か読み終わる頃「お前も読めるといいだろうよ」と言って文字の読み方と書き方を教えてくれた。
鍛錬するのと同じくらい私たち二人は五年間毎晩欠かさず本を読んでいた。
「この本はキュニコス派の話ですね。シノぺのディオニソスの物語だったのですぐにわかりました。読んだことありますよ。彼の愛読書でしたから私も好きでした」
「……陛下がこれをお前に読み聞かせよと命令されたのだ。その話を知っているかどうか試されたかったらしい」
ヒューベルトの顔色が変わり、何も悟れまいとでもいいたげに無表情になっていた。
「そうですか。ならば知っていたと答えるのが正解でしょう。何を陛下が知りたいのかまでは私にはわかりません……お腹が苦しいので今日はもうここでやめにしませんか、副団長」
「なるほど赤毛の猿は不倶戴天の敵なわけだ。……この本を陛下に贈ったのはブラック家の当主だった。“より良き王になられよ”などとしたり顔をしてこんなものを届けてきたのだ」
「それも知っています。バズは隠し事をしたりはしなったので」
「だからこそ城も民草も焼かれたのだぞ!」
その時腹の中でぐるりと我が子が動く感覚があってめまいがやってきた。
おそらく我が子が助け舟を出してくれたのだろう。この男を追い出してしまえと。私は産婆を呼んで腹が張ることを耳打ちした。案の定産婆はこれ以上ないくらい怖い顔で彼を部屋から追い出した。
「出てお行きなさい。副団長ともあろうお方が妊婦にこんな無体を働いて!」
あの時の彼の顔はみものだった。
……玉座の陛下は我が子を左腕にゆうゆうと抱き上げたままその顔を見つめている。
冷たくもなく厳しくもなく、そして怒りさえもない。
「無」になると人はこんな顔をするのだろう。
「どうなさいますか、陛下」
私は数ヶ月前、裸に剥かれて股間を医務官たちの前に披露させられたことを恥じいるよりも屈辱に感じているので、その言葉をよく覚えている。堕胎を決定事項とする医務官が陛下にそう告げたのだ。私は心から不思議でそれを陛下に聞いたのだ。どうしたらいいのかと。 - 101二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 07:51:51
陛下は我が子の頬をしばらく撫でていたが、やがてまだ産毛でしかないふわふわの赤毛にその指を伸ばした。陛下の指先が震えていた。陛下の困惑が玉座の間に広がってゆく。
「名付けよ。名を付け、母としてこの子を育てるのだ。母としてこの子を支配せよ。この子の血をお前が治めよ」
「はい。名付けて育てます」
どのみち我が子は毎日私の乳を飲んでは満足しているのだから、私以外に育てられはしない。
あの子は私の子だ。自分の腹からひり出したとはまだ信じられないけれど、燃えるような赤毛だけが真実。
「ザイドリッツ、剣を返してやれ」
陛下がまだ我が子を抱いたまま命じ、ブラック家の紋章の刻まれた剣が私に返された。
ザイドリッツはささやくように言った。「良き騎士良き母となれ」
バズはこの剣を持ち出したことを知っていたが「欲しいのならお前にやるよ」と言ったきりで「俺はそんなものはいらない。使いたい奴が使えばいい」と話を打ち切ってしまった。そういえばバズは書物は持ち出してまで大切にしていたけれど、まだ残っていた武器や家宝一切を持ち出さなかった。生活に必要だから金貨を運び出して隠してはいたけれど、城を失ったその後の不自由な暮らしについて不満らしいこと言ったこともない。ただ「城の人たち」が懐かしいと言っていた。
返された剣に記された家紋……これは確か鷲だ。
「俺の先祖が自分で決めた意匠だ。その人はアドラーという名で……今ではそれは鷲そのものを意味してるな」
あとかともなく焼き滅ぼされた城を築き、あの領地で暮らしはじめたというブラック家初代の男は、やはり燃えるような赤毛だったという。
第一代目のブラック家の男。赤毛。
「陛下。ただいまその子の名前を決めました。アドラーです」
「好きにするがいい。この子は私の行く先をいささかも曇らせはせぬ。私には見えるのだ。この子は短くはかない世を生きて、いずれ老いて死んでいく」
我が子を腕に抱えたまま、陛下が泣いていた。陛下の涙などをみたのはそれが最初で最後だった。
「私の未来にこの子はいない。なのにこの子は生きるのが見えるのだ。それなのにこの子が死んでいくのが見えるのだ。なぜなのだ!」
陛下の理想の国にこの子はいないらしい。でもそれは。
素晴らしいことなのかもしれないよアドラー。私のかわいい、バズとの子。
end - 102二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 12:16:56
91〜101投下したものですが相変わらずめっちゃ誤字脱字多くてすみません
>>100のここだけは自分で突っ込みたいので訂正
シノぺのディオニソス × 正しくは シノぺのディオゲネス ○
ディオゲネスの教えがブラック家の教えだとしたら、陛下もムカつくんではないかと思います
何をわかったふりしてるんだ、自分らは一方的に弾かれた種族なのに!って
- 103二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 12:17:59
長文乙です
- 104二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 18:51:20
ユーゴー♀こっわ…
- 105二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 19:08:30
ユゴ♀何考えてるのかモノローグあるのに全然わからん…多分これ陛下の方がアドラーくんを慈しんだ目で見てる気がする…あくまでもバズと繋ぐ鎹であって子供としては愛してないでしょ?
- 106二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 21:07:39
面白いけど🍟怖い。バズと再会して欲しい…
- 107二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 21:13:29
91〜101投下したものです
モノローグがユーゴー♀自身の全てで、ユーゴー♀は何も考えていないんだと思います
何も考えていないからユーゴー♀も何もわかっていないし、わかろうともしないし、わかるつもりも一切ない
これはユーゴー♀が悪いというよりバズに原因があります
バズはサバイバーズギルトを抱え込んでしまっていて、ユーゴー♀には昼間は明るい気のいい兄貴分の姿を見せてたけど、ひとたびうなされたら「俺を死なせてくれ」という本心をユーゴーに聴かせてしまっていた
ユーゴー♀はバズが大好きなので寄り添ってあげたけど、寄り添いすぎて「いつかこの人を楽にしてあげよう、そのためには殺してしまうかもしれないけど、それでバズが楽になるなら構わない」っていう思考になってた
アドラーくんは「“バズ”の生きるよすが」となる存在なので歪ではあるけど愛の対象ではある……感じです
陛下のほうが慈しんでくれてるのはおそらくその通りです
陛下が腕に抱いてその顔を見ても「陛下の理想の滅却師の国」にアドラーの存在は見えなかった
それなのにアドラーがちゃんとどこかで生きていて成長して遠い未来に死んでいく姿も見えていた
ファルケくんと同じようにアドラーくんも将来、魂の循環に還れない滅却師たちを慰め元気づけながらその運命を受け入れさせて、静かに種族として終わりを見届けてくれる人に成長していて、その姿を見て陛下は涙を流してくれたんだと思います
そのためには今度はバズパパに頑張ってもらう必要はあるんですよ…
「伝説のBさん」になってユーゴー♀のために託児所を開いてあげた、らアドラーくんいい子に育ってくれるはず - 108二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 21:22:16
ユーゴー♀イメージはサロメとかの、恋のために誰かを破滅させてしまう純心な女性でした
この場合破滅するのはヨカナーンであるバズではなくて 父ヘロデ王たる陛下になってしまいそうですが… - 109二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 04:53:32
このレスは削除されています
- 110二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 11:39:10
バズや、助けてくれ…
- 111二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 12:04:04
⭐︎
- 112二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 15:37:30
是非とも続編お願いしゃっす!!
- 113二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 18:53:13
- 114二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 19:27:09
20さんではないてすが、参考にさせてもらいました
- 115二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 19:45:13
なら20さんの分も楽しみが残ってる訳ですね(((o(*゚▽゚*)o)))
- 116二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 02:41:49
アドラーくんの続編も期待出来そうだし20の分もあるからまだまだ期待出来そう
- 117二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 08:14:16
このレスは削除されています
- 118二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 08:19:39
- 119二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 14:52:07
このレスは削除されています
- 120二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 17:02:54
仕事関連の旅行きてるんだけど、縁結びと子宝祈願の神社あるから、バズユゴ、ユゴバズのために、御守り買った(笑)
- 121二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 17:53:16
👏👏👏
- 122二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 21:05:32
sideユーゴー
陛下に連れられバズから逃げた日から3年。
いつか来るに違いないと思っていた日が来た、バズが入団して来たのだ。
バズビーと名を変えているがきっと本気で隠す気はないのだろう。そして彼女は3年たって随分と綺麗になっていた。
かつては少年と間違えられる事もあったが引き締まっているが出る所はしっかりと出ておりその色香と挑戦的で強気な眼が合わさりギャップを産み、男性率の高い騎士団内で声をかけようと手ぐすね引いている団員も既に複数人知っている。
かつてのように近付く彼女が幼い頃と被って見える。
男勝りで尊大な態度の中にある優しさや慈悲深さを併せ持つ可愛い女の子、その面影を遺して美しく成長した彼女が。
「バズビーと名乗っていると聞いたが、陛下へ復讐のつもりで入ったのなら諦めろ。名を変えたところで陛下に見通せぬものはない」
この3年間ですっかり板に付いた口調で言葉を紡ぐ。話しかけて来た彼女に本当は綺麗になったと言いたいし、陛下の最も近くに居る自分だからこそ復讐など無駄な事で粛正されて欲しくないと言いたい。
しかし訣別の日のバズビーの眼と自身に与えられた立場と責任から素直に伝える事は出来なかった。
それからバズビーは私に挑んで来るようになった。
代わりに憎々し気ではあるが陛下に対しては特に何も動きはない。
陛下以上に私に対しての憎悪の感情の籠った言葉と眼が私を突き刺した。
それから暫く経つがバズビーは未だに自分へ挑み続けている。しかしそこそこ他の団員にも馴染んでいるようだ。
純粋に彼女と仲良く交流する者もいるが、下心のある下種な目で見て彼女に言い寄る者も多い。
基本的に断っているが断りきれずについていく事もそれなりに増えて来たようで、良く食堂で呑む姿と城下に繰り出す姿を見る事があった。 - 123二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 21:07:23
そこから更に暫くしてバズビーが複数の男達と関係を持っていると噂が流れ始めた。
彼女は元々は領主一族の姫君だったのだ。
馬鹿げた噂だ。そのような娼婦のような真似をする筈がない。
しかし頭で否定していても噂話は背鰭尾鰭も付いて更に過激になっていった。
容易く脚を開く淫売だの生々しい情事の話など悍ましくもあるが、自身も年齢が年齢だけについ彼女を見ると意識してしまうようになってしまった。
そもそも自分と彼女の間には友情や主従関係以外にも当時幼過ぎたのは承知だったが肉体関係もあったのだ。想像しない方が無理がある。
肉体関係についてはもちろん自分から迫った訳ではない。
バズビーは一族の姫君であり再興の為に血を繋ぐ必要があった。そして彼女は一族が滅ぼされ事実上解消となったが、月のものが来るようになれば直ぐにでも婚約者と婚姻を結ぶ事も決まっていたのだ。
彼女はそれ程血筋を重んずる家系であるが故に、身体が子の出来る準備が整えば直ぐにでも当時はまだ滅ぼされていなかった婚約者の元へ行き子種だけ貰おうとしていた程だった。
そしてそれを止めたのは自分だった。
当時彼女の婚約者は既に初老に差し掛かる年齢であり、まだ攻め滅ぼされていないだけで順当に行けば次に狙われるであろう土地だった。
それらは言い訳だったが彼女自身も義務感で動こうとしていたのか説得すれば容易く納得した。
しかし子を成さねばならないという使命感で不安に襲われ悩んでいたバズビーはふと自分を見た。
「ユーゴー…お前に負担をかけるのはわかってるけど…」
「…バズなら僕は良いよ」
「…本当に良いのか?」
「うん」
「悪い…俺、やっぱり1番信用出来んのはユーゴーだから…」
そう言って申し訳なさそうなバズに対して仄暗い安堵を感じていたのはきっと気のせいではなかった。
生きていく為のモチベーションでも金銭面でもバズに依存していた。自分は足手まといだとも感じていたからこそバズの復讐に対してバズ以上に努力した。でもそのバズの役に立てる、バズにとって最も信用できる相手だと認めてくれた。それがどれ程嬉しくて安心出来た事か。 - 124二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 21:08:38
そして彼女の望んだ子供は出来なかったが、その幸せな時間は陛下が迎えに来る事で終わりを告げた。
今にして思えば自覚は無かったが彼女を異性として好意を持っていたのかもしれない。
しかし今更気付いた所で元の友達に戻る事も、ましてや恋人や夫婦になるなど出来はしない。
それこそ噂通りだったとしても口出しする権利も嫉妬する資格すらもない。
そこまで考えるともしかすれば噂話は全てとは言わないが真実かもしれない。
彼女は子供を欲しがっていた。騎士団員はそれ相応に高い資質と実力を持つ滅却師達だ。血を繋ぎブラック血を再興する為に子供を望み、その為に身体を開け渡す事も可能性としては充分だ。
自分も騎士団の最高位であり団長であるが彼女は自分を誘わないのは、信用されていないからだろう。
下心を持つ下種な男達よりも信用ならない相手だからこそ、地位と力を得てもバズビーにとっては血を交ぜる相手としては選ばれない。
自覚したと同時に失恋するなど他人事だと思っていたが当事者になれば堪えるものだ。
それから3日も経たない内に騎士団内の風紀が乱れその中心はバズビーだと訴えが届いた。
注意をするがまたこれ幸いと挑発して来たが務めて冷静に振る舞い、
「私はお前と戦うつもりはない」
そう言って何時も通りに立ち去った。 - 125二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 21:11:01
sideバズ♀
(ユーゴー…がユーハバッハに、…)
ユーハバッハに矢を射った事で親衛隊の男が処分するように言っていたがそんな事はどうでも良かった。少し何かを話しユーハバッハの一行は既にこの場から立ち去る。
バズはユーハバッハに連れられ自分の側から去って行ったユーゴーに呆然としていたが、暫くして突如として襲ってきた下腹部の痛みに悶絶し意識を手放した。
バズは意識を取り戻し突如襲われた痛みの正体について助けて看病してくれた顔見知りの女に聞かされた。
彼女はかつてブラック家の使用人であったが嫁いだ男について行き難を逃れていた。仕えていた家が滅びその家の血を引く令嬢を放って置けなかったらしい。
「姫様、大変申し上げ難いのですが…貴方様は…お子を宿しておいででした。しかしユーハバッハの霊圧に当てられ、還られてしまいました…」
「…は?」
「受け入れられないのも無理ありません…元々姫様のお歳では難しかったのです。どうか…お気を確かに」 - 126二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 21:14:43
その後の記憶はない。
助けてくれた女によるとユーハバッハは200年かかって漸く見つけた半身に気を良くしていたらしくバズの事は今回は見逃したそうだ。しかしかつての領主一族の生き残りといえど、今の君主に歯向かったバズを助ければどんな危険があるか分からない。そう考えた民衆はバズを放って置こうとしたらしい。
夫人は幼い頃のバズを知っている事。そして家族もユーハバッハの帝国の平定に巻き込まれて生き残ったのは女とその夫の弟のみの為、その義弟も協力を申し出てバズを連れ帰り看病してくれたのだという。
「ああ…ありがとう。助かった」
「…いえ…もう一つお伝えせねばならない事がございます。姫様は…ブラック家の血を…!」
バズは言葉を噛み締め発せなくなった女の様子にその理由を察した。
「………そうか…いい。俺よりもお前の方が辛そうだ…もう、それ以上言わなくていい」
女の肩に触れバズは女と一緒に涙が涸れるまで泣き続けた。
女の義弟はバズよりも7つ上でどうやら兄嫁に良いところを見せたいらしくバズにも親切にしてくれた。
居心地は悪くなかったがこれ以上世話になるのも気が引けるので森へ帰る事を伝えると、まだいて欲しいと言われたが固辞した。
せめて男手は必要だと言って女は義弟を付けてくれ、拠点のテントも少し街の方へ移動し前よりも丈夫で広い物となった。
その後、療養と回復の為に鈍った身体を鍛え直す事に注力し3年過ぎた頃に星十字騎士団に入団した。
女と義弟は再婚し、息子が産まれたことでバズに構う暇もなくなった為に止められなかった事を悔やんではいた。しかし一度戻ったバズが、
「2人が居なければきっと死んでいた。心から感謝する」
と伝えて唯一遺していた母の形見の宝飾品と金貨を渡し、
「これからは俺の事よりもお前達の息子を何よりも大切するように、そして…お前達の事をもう一つの家族のようにすら思っている、だからどうか受け取ってくれ」
そう告げるとバズの覚悟を汲み涙ながらに見送ってくれた。
入団後直ぐにユーゴーは見つかった。
団長になり美しい少女のような相貌はもはや誰が見ても見目麗しい男にしか見えない。
自身も少年のような見た目から相応以上に女らしい身体つきになっているのだ。違和感はあれど驚きは無い。 - 127二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 21:16:06
ユーゴーの訣別時と自分への本心をユーゴー自身の言葉で確かめたくて話しかけるも、かつてのユーゴーとは別人のようだった。
ユーゴーに戦いを挑みアプローチを変えるも陛下の意思と陛下の定めた騎士団の規律を盾に拒絶する。
「ユーゴー!逃げてんじゃねーよ!!」
「逃げてなどいない、何度も言っているだろう。私闘は禁止だ、破れば死刑だと。何よりも陛下の望まぬ闘いを受けたところで利になるものはない」
そう言って直ぐに立ち去りまともに話すことすら出来ない。
徐々にユーゴーの今の立場が分かってきた。ユーゴーはユーハバッハにとって第一の息子と呼ぶ程重用され、一部では噂話の範囲を出ないが次期皇帝とすら言われている。
同時に副団長以外の親衛隊達とも親しくはないようだが良好らしく、身分を失くし財産も失くした自分では与えられない恩恵を与えられているのだ。
虚しいが仕方のない事だと思う。誰だって碌に与えられない相手といるより与えてくれる者に尽くしたいと思う筈だ。
だからこそ自分はユーゴーと決着をつけ半端になった別れを果たしたい、ユーゴーの言葉で。
言葉で無理ならせめて彼の行動で示して欲しかった。例え命を落とすとしても…もしもそれで生き残ればそれこそ心からユーハバッハにだって仕え、いずれ跡を継ぐユーゴーになんの憂いもなく首を垂れて仕えられる。
そう思い挑むも何時も躱される。
地位のある見目麗しい団長に挑む女という事で目立っているバズはそれ故に男に飢えていると考えた団員からの誘われる事も多くなってきた。大抵は断れば済むし酔い潰れるまで呑むこともない。一杯程度をちびちびと楽しんでそのまま解散となる事が殆どだ。強引に迫る相手なら酒の入った男など当身で黙らせる事など容易い。 - 128二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 21:17:58
しかしそういう男ほど腹いせに有る事無い事言って回る為に近頃はバズは男に飢えた淫乱女だと噂され始めていた。
どうでもいい相手に何を言われても別に気にもしないが下卑た目で見て誘いをかけてくる奴が更に増えたのは鬱陶しい。
「近頃、騎士団内の風紀を乱していると聞いた。騎士団員として節度ある行動を行え」
団長までも出て来てわざわざ的外れな説教をしてくる始末だ。普段は避けるのにこういう時には出て来るのかと思わなくも無いが、それで機嫌を損ねて決闘に応じてくれるなら悪くない。
「お前にそれが関係あるのか?節度と言ったところで俺は別に誘われて呑みに行ってるだけだぜ?ただの団員同士のコミュニケーションだろ」
「呑みに行くのは構わない…だが、子を成す為に団員を誑かすのは頂けない。せめて1人に絞るべきだ」
「…はぁ?」
どうやら血を繋いでブラック家の再興の為だと思っていたらしい。
「ホンットに下らねー事考えてたんだな?ご多忙の騎士団長サマだっていうのに御苦労なこった…好きに解釈しろよガキ欲しさに見境なく盛る淫売でも何でも」
「バズビー」
「辞めさせたきゃ俺と闘って力付くで辞めさせてみろよ!」
そう言って挑もうとすれば結局は、
「私はお前と戦うつもりはない」
そう言って何時も通りに立ち去った。
もう聞こえないであろう距離で小さく呟く。
「俺には…もう女の価値なんざねーんだよ…」 - 129二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 21:22:18
- 130二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 22:05:20
- 131二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 23:13:25
箸休め とは?
- 132二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 23:53:03
背脂マシマシ濃厚コッテリ豚骨ラーメントッピング豚バラチャーシューくらい重い
美味しいけど食べたら後で来るやつ - 133二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 06:47:27
双方とも互い以外に伴侶として欲しくなさそうなのに壮絶なすれ違い…胃もたれ具合、嫌いじゃない…むしろ好き…
- 134二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 12:15:50
ただでさえこの2人はどっちでもハイカロリーなのに…
- 135二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 14:29:52
地獄メニュー充実してきたね
- 136二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 18:58:02
実は胸焼けしそうだから書くの辞めたけど、使用人夫婦の息子の名前をバズ♀が付けてて戦争後現世にい辛くなった滅却師達が帝国に合流するとその息子もいて当て馬ポジに収まる予定だった。
バズ♀が息子君の名前と使用人の女の人にあげた宝飾品でアイツの息子ならと気にかけるのでユーゴーが面倒くさくなる。って感じで - 137二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 21:36:09
ヨシ!おかわりよろしく!
- 138二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 23:27:30
- 139二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 08:21:50
バズユゴ♀もユゴバズ♀も子どもはともかく本人たちは結ばれるまでは地獄の道行きが実に似合う…
- 140二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 13:08:23
- 141二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 19:54:37
ポテトとバズは関係がこじれないと死ぬ病気か何かか???
- 142二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 20:18:15
- 143二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 22:13:49
そしてその2人がドロドロしつつ最終的にハッピーエンドを迎えるのを願ってるんだよね
- 144二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 00:33:10
- 145二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 00:36:02
- 146二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 00:54:50
楼蘭妃を思い出してゾクゾクしました…バズってあんまり似合わないけどワルツも絶対踊れそうだしそれを子供相手なら優しく教えそう…
バズはヘレナちゃんに複雑な思いはあれど絶対に優しさからの行動だしそれをヘレナちゃんがユーゴー♀に近づく為だと思い込んでるのも言葉に出来ないものが込み上げて来る。
ヒューベルトはヒューベルトで娘(仮)を嫌がらせの道具として見てて1話の方がまだ情を感じたのに、成長して失敗が積み重なって見切りを付けてるし…貴族であるブラック家の血自体を見下してる訳じゃ無いなら多分ユーゴー♀の血を混ぜたから「高貴な血筋も下賎な血が混じればそれまでか」とか思ってそう…
因みに確認ですが20さんですか? - 147二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 01:09:30
- 148二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 09:19:47
ほし
- 149二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 13:27:59
これちょっと主旨から外れるかもだけど、
スレ画の時点でユーゴーは子供作れなくてバズ♀だけ作れる状態で、まだ清い関係でユーゴーを陛下が迎えに来た後で何らかの理由でタイムスリップして来た大人ユーゴーと子供を作る。
バズ♀はユーゴーと添い遂げる気だったからユーゴーが陛下について行って、もう誰でもいいスタンスで成長したらこんな感じそのままの大人ユーゴーが居たから誘ったとかでユーゴー本人と認識して無い。
でもってバズママになったのを見てバズ♀に惚れてたのを自覚するセルフNTRでユーゴー脳破壊とかアリですか?
未来から来た大人ユーゴーは投げやりなバズ♀が他の誰かを誘うくらいならとまだ子供なバズ♀に手を出して子供作って元の時代に戻ってたらバズ♀も相手がユーゴーだとわからなくてなお良き…
アリだったら誰かこのネタで書いて貰えませんかね? - 150二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 15:08:27
- 151二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 15:16:12
- 152二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 18:19:29
ヒューベルトパイセン、出来は悪いし実子でもないけど、「書類上は実子」ということの意味をよく理解していたんだとは思いますね
愛する必要も愛するつもりもないけど、この子の不出来をそのままにしておいたら家の不名誉に繋がりかねないですし
バズとユゴの子供という点は割とどうでも良かったのかも
忌々しい軍団長と猿の子供なんてスキャンダルとして使うにはもってこいですし
まぁ書類上の実子になっちゃったんですが…
- 153二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 18:19:45
- 154二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 18:28:33
ユゴ♀が独学でも死に物狂いで剣や弓の修行をしたり軍団長やってるのってそうしなければ居場所が無いからってのもあるでしょうしね(バズの弓指導や陛下からの教育はあっただろうけど)
親が貴族と軍団長のポヤポヤ出来悪娘にそこまでのモチベねーんですわね
- 155二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 18:33:19
バズ♀から誘ってるから十割は無いと思うよ
多分ユーゴー目線大人のバズ♀が子供いてその父親が居ないし誰でもいいからと誘ってるの見てやり捨てされるなら自分でいいと思ったとか?
どっちにしろスレ画の時点で〜からズレてるからスレ主に聞けば?
- 156スレ主25/06/22(日) 19:46:58
多分だけど子供作る前提のバズユゴ♀ユゴバズ♀とか此処くらいだろうから良いですけど、誰かss書いてくれる人か自分で書けないなら諦めて貰うしか無いですね。
個人的にグナーデちゃんのユーゴーが父親不明からのNR T疑惑から思い付いたのかなっと思うけど、バズ♀も相手不明とか地獄度上がってるね…て嫌いじゃないどころか結構好きだけどそれ収集つくの?とか一つ目のスレのFri/endからの母の仇っていうバッドエンド真っしぐらにならない?
ついでに言うとスレ主はネタ出したり話題に乗って楽しむだけ!な人なので無理です。 - 157二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 19:55:01
個人的にはバズ♀の子供(見た目はバズそっくり)に心をかき乱されるユーゴーが見たい
娘なら見た目はバズと瓜二つなのに雰囲気が別人であってほしいし
息子ならいくらバズに似ていても男だから瓜二つとはいかないでほしい
どちらにせよふとした瞬間の表情や動作がバズ♀を思わせるんだ
母親に似すぎて父親がどんな人なのか誰もわからない子供 - 158二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 01:33:16
- 159二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 02:07:50
- 160二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 02:21:44
>>159是非ともお願いします!!
- 161二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 08:31:34
このレスは削除されています
- 162二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 15:46:10
このレスは削除されています
- 163二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 15:49:08
- 164二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 22:00:58
ご報告
バズユゴ♀のアドラー君の話、まもなく完成します
144〜145さんみたいにテレグラフ使って圧縮できればいいんですけどエラー出るのでまたしても連続投稿予定です
またしても長くなってしまいます… - 165二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 22:32:13
テレグラフ規制かかってるので
ttps://x.gd/
これでURL圧縮してさらにhを抜くと投稿できまっせ
楽しみにしてます!
ちなみにこのサイトも規制かかってるのでh入れてコピペしてください
(管理人さんテレグラフ規制解除してー) - 166二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 22:42:54
- 167二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 00:48:04
バズユゴ♀息子 アドラーの話
1
中高一貫教育をうたう聖ペンタグラム学園高等部1年にアドラー・ブラックという名の男子生徒が転入してきたのは、入学式も健康診断も最初の学力テストも終わって、みなが一息ついているといういささか時期はずれのことだった。
「アドラー・ブラックです。どうぞよろしく」
黒板にAdler Blackという綴りを自分で書いてから、流暢というにはあまりにも自然すぎる日本語で自己紹介した彼に、転入先となるクラスメイトは男女問わず色めきたった。
その容貌は世にいう“美形”という言葉で済ませてしまうにはあまりに端正な顔立ちだった。いっそのことギリシャ彫刻がある日命を吹き込まれてこの世に生まれ出たと言われたほうがまだ納得できるだろうというレベルで、生徒たちは唖然として彼が担任教師に指示された席につくのをただ眺め入った。
アドラーがモデルや俳優の卵だと名乗ってくれたほうがずっと受け入れやすかったかもしれない。
並外れた美しさというのは一種の危険薬物のように人の脳に作用するものだ、それが時に人を支配してしまうものだと、この学園の看板教師の一人は常々生徒たちに言い聞かせている。彼らは今その麻薬のごとき存在を目の前にしてその言葉は形而上のものでないことを知って唖然としている。
「アドラーって面倒な名前だし、キントって呼んでいいよ。そう呼ばれてたから」
「キント?」
「ドイツ語で“子ども”って意味。母はずっとそうだったし、父も、今でも。祖父はもう死んだけど……どうだったっけ」
アドラー・ブラック。彼はその名が示す通りこの国の生まれではない。この国の血も引いていない。
「たぶん一滴もこの国の血なんて入ってないよ。この顔と目と髪の色でどうやってこの国に生まれるんだ」
彼はあっけらかんとするばかりで自分の出身を隠しもしなかった。その美貌にはいささか不釣り合いな荒っぽい口調であるが、粗暴さというよりもむしろその容姿に見合う育ちの良さを感じさせる気さくさで、クラスメイトとなった男子も女子もあっというまに彼の周りに群がった。
明らかに“西生まれ”の彫りの深い顔立ち、光の差し加減によってはかすかに緑色を帯びて見える澄んだブルーの瞳、そして何より強い印象を残すのはその鮮やかな赤毛だ。「燃えてるみたい」と誰かが呟いて、一拍の後にクラス全員がどよめいた。 - 168二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 00:49:51
2
彼らはその「燃えているような赤毛」の人間をもう一人よく知っているのである。
その人の名はバザード・ブラック。彼はこの私立の中高一貫教育校で10年ほど前から歴史と公民を教えている。現在は受験を控えた3年生の担任を受け持っているが、その授業の厳しいこと指導の難しいことといったら学園では他に比べるものがいない。しかし受け持ったクラスの進学率がずばぬけて高いことで有名な今やこの学園の看板教師だ。
「ブラック先生ってもしかしてアドラーくんの親戚?」
ふだんおとなしいことで有名な女子生徒が思わず聞いてしまったのも無理はない。アドラーとブラック先生の容姿がまったく似ていないことよりも、強い印象を残す燃え盛る炎のような赤毛という共通項のほうが目についてしまう。それは一度見たら忘れることのできない強烈なものだったから、この学園に入学したものでブラック先生を知らないものは一人もいない。
「ああ、バザード・ブラックのこと? ぼくの父だよ」
クラス中が一瞬にして沈黙した。
アドラーは静まり返ってしまったクラスメイトの様子に驚いてその美しい目を見開いてみせた。何かおかしいことを言ったのかと言いたげだった。
「……ブラック先生、アドラーくんのお父さんにしてはまだ若くない? それに、結婚したのもわりと最近じゃない?」
くだんの女子生徒が恐る恐るといったふうに、尋ねるというより彼女自身に問いかけている。
バザード・ブラックとアドラー・ブラック。彼らが親戚だというならわかる。ブラックという姓でアルファベトの綴りも同じ。ドイツ語と日本語が流暢で、燃えるような赤毛というのも同じ。だが普段はみなが忘れている先生の年齢を必死になって思い出して数えてみても、ブラック先生ってまだ30代の初め頃じゃなかったっけ、という疑問しか湧いてこないのだ。
「若いよ。だってぼくが生まれたのって両親が十五歳になるかならないかの頃だ」
「十五歳!? あのブラック先生が!?」
「教育事情がこちらと違うからね。両親が結婚したのが最近なのは本当だ。でも家族三人でずっと母方の祖父と一緒に暮らしてたよ。祖父と父が信じてる宗派が違って大揉めに揉めてたけど、当の祖父が何年も前に亡くなったんだ。この国では宗派の違いで争いなんてめったにないみたいだから、そこは本当にありがたく思ってる」 - 169二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 00:52:32
3
聖ペンタグラム学園はおよそ百年ほど前に現在のこの地に設立されたこの地方では随一の進学校である。学費の高さがたびたび話題になるが教師たちの実力も指導力も折り紙つきで、学費の高さと偏差値がきれいに比例している。
中でもブラック先生といえば中世ヨーロッパ文化史について面白く解説した著書のベストセラーでも有名だ。そのブラック先生が十五歳で父親だったとは思春期真っ盛りの青少年にとってはいささか眩しすぎる話である。
それにしても……と、アドラーの隣の席となった男子生徒がしみじみとアドラーの顔を見つめて続けた。
「アドラー、きみ、お母さんに似てるんだな」
その言葉に静まり返っていた教室がさらに深い沈黙に落ちていく。
そうだった。彼がそれを呟くまでクラスメイトみながすっかり忘れてしまっていた。
ブラック先生の夫人といえばルネサンスの美女画がそのまま生身になったような、金髪碧眼のすらりとした長身の女性である。彼女を見た者は驚きのあまり振り返ってしまうのではなく、その場に凍りついて動けなくなってしまう。この世ならざるものを見てしまったかのような驚きと怖ろしさで心ごと体が震えるのだ。
人間が思い描くことのできる至上の美女として普遍的無意識の中に存在する美女といって差し支えないだろうが、それだってむしろ慎ましい表現かもしれない。美しさも極まると一種の無個性になるのだ。ブラック夫人は「美しい」以外の一切の表現がなされていない女性だった。それ以外の表現をまだ十代の少年少女たちにしてみろと強いることに無理がある。
ユーグラム・ブラック、旧姓ハッシュヴァルトはその美しさをひけらかしたりはせず、ましてやそれを活かして暮らしてはいない。生徒たちの多くはブラック夫人の姿を一度は見かけたことがあり、見た後はしばらく学校内が騒然とする。
「顔は母似だな。昔から言われた。父はそれを喜ぶけど、母のほうは……息子に似てるって言われて嬉しい母親なんてあまりいないんだろう。男みたいな顔してるて意味だし。でもこの髪の色だけはぼくの自慢。これだけはブラック家の人間だっていう証拠だ」
響きのいい低音の声だった。誇りに満ちた表情で父親を自慢する姿が堂に入っている。とても十代の少年とは思えない落ち着きもあり、その日のうちに王子様みたいな子が転入してきたと校内で知らぬ者はいなくなった。 - 170二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 00:54:34
4
ブラック邸はこの街の山の手にある木骨建築の美しい建物である。
およそ百年ほど前に建てられたネオゴシック風の旧司祭館を改装したものでもあり、周辺にはいわゆるお屋敷と呼ばれる建物も並んでいるので勘違いされているが、数年前バザード・ブラックがこの家を手に入れた時は、かろうじて外観を保った廃屋だった。
要は古民家なのだが現実はもっとひどかった。手入れされていない庭の中にたたずんでいるので廃墟マニアが肝試しのためにやってくるというような場所ですらあった。
元の所有者である聖ペンタグラム学園はもとはフランス系のミッションスクールだ。二十数名の修道士が教壇に立っていたが、時代の波の中でその理念が失われ役目も終え、経営母体が変わって私立の学校法人となった。その際に6代目を数えていた司祭も母国へ帰国し二度と誰も戻らなかったため、住人を失った司祭館は名義こそ学園のものだったが事実上破棄された地になった。
土地の評価はゼロ、建物の価値はマイナスという負の資産である。しかも築年数が長すぎて町は固定資産税がかけられないといういわくつきの場所。誰か善意の者が壊してくれることさえ望まれた場所だった。
とにかく誰かがなんとかしてほしい。誰か住んでくれるという奇特な人がいたら町が金を出すとまで広報に掲載された。ある日その家に住みたいと申し出たのがバザード・ブラックだった。そのかたわらにはおよそ十歳ほどと見られる非常に美しい少年を連れて見学にやってきた。
「いい物件じゃねえか。俺の新しい家、ここにする。いいだろ、キント」
「こんなボロボロなところに住むの……」
「何言ってんだよ。ストーブ持ち込めば十分あったかいぞ。テントより十倍はマシだ。ほら見ろ、梁と屋根がこんなにしっかり残ってるだなんてすげえ掘り出し物だ。床と壁直せばすぐ住める」
帝国が崩壊して一年、騎士団長を除き騎士団員はすべて解放された。
解放されたといっても中央四十六室が混乱をきわめているので京楽春水総隊長のじきじきの超法規的な取り計らいである。浦原喜助が現世で「極東育ちの外国人」の経歴を作成し、涅マユリ率いる技術開発局が生き残りのすべての滅却師の生体登録することを条件に浦原と共同開発した偽造戸籍が付与されたのだ。事実上首輪をつけられて生活しなければならない……だがバズビーは一も二もなくそれを受け入れた。 - 171二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 00:57:01
5
王なきあと軍の最高責任者として囚われの身となり、未だ四番隊で治療中のユーグラム・ハッシュヴァルトについてバズビーは何も聞こうとしなかったし、聞かれない以上誰も彼女について知らせようとはしなかった。
ただしアドラーが彼女の息子であることはすでに死神たちの調査済みであり、下手すると死神たちの怒りと憎しみが囚われの騎士団長よりその息子に向けられる可能性があるために、簡略的な手続きで認知の手続きを行い、アドラーが正式に「ブラック姓」を名乗れるように取り計らった。
死神たちがどのような思考をしているのかがわからなかったが、ユーハバッハが滅却師の父と名乗っていたその通りに、帝国では父権が圧倒的に強い。ユーグラム・ハッシュヴァルトは未婚の母を貫いていたが、それは騎士団長という立場上可能だったことだ。その部分を強調してバズビーは彼女から親権と監護権を剥奪した。
父と息子ではあるが二人の容姿はほとんど似てはいない。ただその燃える炎ようなみごとな髪の色だけが二人が近しい血縁者であることを示している。バズビーは他の生き残りたちに別れも告げず、アドラーだけを連れて空座町近くの旧司祭館に移り住んだのだ。
「こんなところ住みたくない。もう帝国には戻れないの?」
アドラーの口ぶりはそれを本気で願っているのではなく、バズビーに対する甘え……表立って父と呼べなかった人に対する甘えだった。
「戻れるものなら戻してやりてえよ。でももうなくちまったしな。だからな、キント、お前はちゃんと現世で生きていこうな。俺も帝国へ行くまではけっこう楽しく暮らしていたぜ。お前だって現世から入ってくるもの、いろいろ好きだっただろ」
「お城に大切なものをたくさん残してきてしまったんだ」
「おもちゃかよ。それとも本か?」
これから新しく買えばいいさとバズビーは気楽に答えた。
アドラーもしばらく考えてから同じことを思った。新しいものを父であるバズビーにたくさん買ってもらえばいいのだと。それでも隙間風の吹く廃墟には住みたくはない。
ところがバズビーは旧司祭館の外観はほぼそのままにさっさとリノベーションしてしまった。
床と壁を直すどころの話ではない。
水回りの工事を一気に終わらせて今や完全バリアフリーだ。
「ユーゴー、相当弱ってるらしいからな」
母の話はアドラーは聞かなかったことにした。 - 172二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 00:58:36
6
バズビー本人の普段の言動からすると性急な人物と思われがちだが、実際は落ち着き払って無言でやるべきことをやってしまう。
そもそも“お金”をどこから調達したのかアドラーは不思議でならなかった。帝国の通貨などとっくに使えなくなっている。
バズビーにとってそれは秘密でも後ろめたいことでもなんでもなかったのでアドラーに話して聞かせた。
帝国は歴史が古いが故に消滅するまで兌換通貨を発行し使用していた。バズビーは定期的に帝国通貨を同額のプラチナや金といった「正貨」に換えて持ち出しては、現世における幾つかの世界通貨に振り分けて蓄えていた。それだけである。聖文字騎士の一人として相当額な給与があったが、そもそも娯楽が少ない帝国で使い道がなかったのだ。
「そんなことして陛下に知られたらどうするつもりだったの?」
「知られたところで問題なかっただろうよ。影の中だけで何もかも調達なんかできはしなかったはずだ。あれだけ現世やら尸魂界の文物が堂々と入ってきただろ。俺はそのあたり関わっちゃいなかったが陛下の許しなしにそんなことできねえよ。生き延びてるやつもしばらく暮らせる金くらい持ってるさ、抜け目のないやつだけが生き残ってると思うぜ」
むしろ現世の人間たちと寿命が違いすぎるので、バザード・ブラックが千年以上生きていて年老いていないことを誤魔化すのが大変だった。その話をするとアドラーは大笑いした。
「おかしいか?」
バズビーも笑った。せせこましい企みはバズビーの得意とするところではない。
「それで、どうやって誤魔化したの?」
アドラーの目に明るい光が灯り始めている。影の帝国の外を知らずに育つような子どもは特殊だ。ことにアドラーは育ちは事実上影の中だけだ。現世についての現実的知識を持たないために二つの世界がどう結ばれていたかが面白いのかもしれない。
「百年前に極東にやってきたバザード・ブラックって男が孫であるバザード・ブラックに金を残したってことにした。俺はその孫って扱いだ。相続税ごっそり払わされたことだけはムカついてるぜ」
今では知る者は少ないがバズビーはもとは相当な力のある領主の家系に生まれている。当然のように資産を一箇所に溜めこんでおくような教育はされていない。隠しておくべきものは隠し、分散して管理するのが当たり前の家だった。 - 173二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 01:00:19
7
バズビーは一度方針を決めてしまったら、何をするにしてもそれをやりとげてしまうだけの行動力がある上に、短気なようでいて実は駆け引きがうまい。引くべきところは引くし、押し通すところは徹底的に押してその場で決めてしまう。
「法律で通らない? 通せばいいだろうよそんなの。俺は何も悪いことなんざしてねえよ。そのための法律だろうが。法なんてもんはな、通るためにあんだろうがよ」
そういって朝早く役所に出かけて行ったかと思えば、その日の昼頃には嬉しそうな担当職員と、やる気に満ち溢れた顔をした設計業者を連れてきてしまった。法律上の手続きは自分がするからとりあえず最低限住めるようにしてくれと業者に頼んで、一ヶ月の後には抜けていた床は土台から作り直され、壁も張り終わっていた。
「建て増しじゃねえよ。むしろ建て減らしじゃねえか。資産価値なんてとっくにマイナスだ。そこからさらに部屋数三つも減らしてんだから、どうやったら価値が上がるってんだ。払うもんは払ってるし、値切るつもりないぜ。ただ“無税にする”って官報に掲載されたのが事実だって言ってんだよ」
固定資産税のことを持ち出されたときには平然とそのようにうそぶいていただけでなく数年分の官報をすみずみまで読み、それを証拠として持って市長室に乗り込んで行った。翌日には、この住居に彼の血縁者が住む限り土地にも建物にも課税しないことにさせて登記してしまった。
「予算オーバーか。しかたねえな。今後のためにも仕事は必要だしな……なあ、キント。お前一ヶ月だけ黒崎一護の家で暮らすことになるけど我慢できるか。よし、できるな。じゃ、ちょっといってくる」
アドラーを黒崎家に預けて姿をくらましたかと思ったら、その一ヶ月後にはバズビーは日本生まれ日本育ちの帰化日本人バザード・ブラックとなっており、地方都市の国立教育大学の卒業証書どころか教員免許まで取得してしまっていた。無論もぐりである。浦原喜助と何やら取引をしてほとぼりが冷めるのを待っていたらしい。
行方をくらましてる間に求職者支援制度に申し込み、全費用役所持ちで宿泊プランで運転免許を取得した上、一ヶ月分の支援給付金の10万円まで後日受け取っている。パソコンやスマホといった現代ガジェットも使いこなせるようになっていた。
ぼくはバズビーのことが大好きだ。
アドラーはそう思った。 - 174二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 01:03:01
8
「来週から勤める」
ブラック家の新しい居点となる旧司祭館のリノベーションが終わってしばらく後のことだった。
「家に一人にはできないが日中は黒崎医院で預かってもらえることになってるから心配するな」
アドラーは驚かなかった。この数ヶ月バスビーの外見、主にヘアスタイルがずっと変化し続けていたので何かしらが起こるだろうとは思っていたし、先日の行方不明事件からして学校の先生という希望があるのがわかったので、むしろその希望がかなったことを素直に喜んでいる。聞けば今や正式に我が家と呼ぶことになった旧司祭館の元の持ち主である学校法人に正規教師の空きがあったので応募し、試験を受けて合格したのだという。
とにかく行動が早い。そして結果を手に入れてしまう。
バズビーに教師など不似合いだという人もいるかもしれない。だがアドラーは幼い頃からバズビーが自分語りをしないだけで、その頭脳が実によく鍛え続けられていることを知っていた。彼は人前でそんな姿を見せないがたいへんな読書家なのだ。かつての帝国の城の巨大な図書館と資料館、そして一部禁書となっている文書室の常連だった。帝国にわずかに持ち込まれる娯楽はどれもバズビーの関心を惹くものではなかったからだ。
「どうしてその学校にしたの? 学校って現世にはたくさんあるんだよね」
アドラーはめのとと母に使えるお付きの女性たち、何人かの家庭教師たちによって育てられた。帝国には正規の学校制度がなかった。あるとすれば聖兵のための軍事訓練校くらいだった。
そして今から思えばアドラーは、めのとも母のそば付きの女たちのことも大嫌いだった。
「公立の採用試験もう終わっちまってるんだよ。来年待ってたら仕事始めるのは再来年だ。まあ、贅沢しなければ食うに困ることはねえだろうが、俺が仕事して現世の人間たちとつなぎをつけておかないと今後お前が困ることになる。それにユーゴーが解放されるまでに生活基盤整えておかなきゃならないだろ」
「ユーゴーがくるの? ここに」
「ああ、いつかはな。一緒に暮らすことになる。キント、お前は」
「言いたいことはわかってる。ユーゴーのことでしょ」
「ああ。でもちょっと違うぜ」
お前はユーゴーのことも俺のことも好きになる必要はないし義務もない。
親を嫌ってもお前を罰することは誰にもできない。
バスビーはそういって笑った。 - 175二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 01:05:41
9
あの美しさを極めた母……星十字騎士団最高位ユーグラム・ハッシュヴァルトが自分のことを十月十日、腹の中で慈しみ育てていたとはアドラーはいまだに信じられない。アドラーはとりあえず彼女が実の母であることをものごころつくころから事実として知ってはいるが、どうにも理解しがたい存在として、あれはユーゴーという人、というように受け止めている。
「お気の毒に。あんなに幼なくしてみごもってしまうだなんて。産めと言われるだなんて。それを育てなければならないなんて。なんと残酷な。これほど美しく生まれながら。陛下が地の果てまで探し求めた半身にお生まれになりながら」
母胎がとても若かった……若いどころかほとんど少女のままに出産にいたったために、その難産のすさまじさは“めのと”が繰り言としてアドラーに伝えた。
「そうでもしないとあの“ててなしご”の世話などやりきれない」
めのとが下働きの女たちに愚痴をこぼしていたのを何度もアドラーは聞いている。
思えばあれは女たちのひそかな打ち明け話などではなく、アドラーがその話を聞いてくれることを期待していたのだろう。アドラーを責め卑しい存在として貶めるために。そして誰も知らないとされている実の父を屈辱の海に泳がせるために。
アドラーの父の素性など裏ではとうに知れ渡っていた。知らぬわけがないのだ。王が親衛隊を率いて念入りに族滅をはかり、その顛末はこと細かに伝えられている。
彼らの王は嘘をつかない。王の半身として使えることになった娘の腹の子の父親について率直に尋ねた者がいる。王は怒りもせずただひとこと「その通りである」答えたという。
王自身はブラック家を恭順させるべく何度も使者を送っていた。純血の滅却師の家系はいくつかの系統に分かれているが、わけてもブラック家の取り扱いについては最終処分に至るまで王は徹頭徹尾慎重だった。王の煮え切らない態度にザイドリッツが苦言を呈したほどである。
「あの家の者が私のもとへやってくるのが見えるのだ。その者は私の手の中で治めることができる。しかしその先がよく見えない。今しばらくは待たねばならぬであろう……最近生まれたというのは男児であったな?」
「はい。やはり鮮やかな赤毛だそうで。血は争えませぬな」
「名はなんと申した。アドラーか」
アドラーという名前に王はわだかまりを抱いているらしかった。 - 176二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 01:07:11
10
「いいえ、あの領の者たちはアドラーの名を子に与えはしないでしょう。たとえ領主の嫡男であっても。帝国の臣民が陛下の御名を我が子につけるような無礼を働かぬのと同じです」
「祝いの品を送ってやれ。そして今一度我が麾下に加わるよう勧告せよ」
生まれた男児がバザードと名付けられたことに王はわずかに眉を寄せただけで何も言わなかった。
ブラック家は独立した小国としての営みを得ており、治める領地には「滅却師として魂の循環に還れず、死後に消滅してもそれはそれでかまわない」という思想的結束が行き渡っていたために、死後に救いがないことを認める代わりにそれを恐れることもしない民草が緩やかに国を形成していた。
王が武力を持って征服してしまうことをあきらかにためらっていたのは、三界から通告なしに一方的に取り除かれた種である境遇を嘆いた滅却師の中では、あの小さな国の唱えもまた浸透していたからである。
アドラーを初代とするブラック家は、帝国の法や規律にどうしても馴染めない者たちが最後に辿り着くセーフティネットの役目を引き受けてる。損切りができないどころの話ではない。自ら望んで負債をかぶっている。それを王は腹立たしいというよりはこの世の外で起きていることであると感じていた。
ザイドリッツはこの時の会話をなぜか忘れられなかった。後になって帝国へ連れてこられた王の半身たる娘が腹に宿していた子の父が、王よりその誕生を祝われていたバザード・ブラックであることを知った時にはまさかと思うよりも不思議な納得が胸に湧き起こった。それを彼女に話したのは子が無事に生まれ名付けられてからのことだ。
「そうでしたか。でもバズは赤ちゃんだったのだし覚えていないでしょうね」
彼女は我が子の赤毛を指先で撫でながら適当な相槌しか打たなかった。もちろんアドラーはその話を知らない。まだ母乳をうまく飲めないこととで母を怒らせ、その腕から放り投げられていた頃のことである。
めのとは、まだいとけない少女のままみごもった彼女をたいそう憐れみ、娘のように愛し仕えていたので、そのような話を母となったばかりの娘にしてどうするのだと怒ってザイドリッツを追い出した。
「キント、バズは陛下にお祝いをいただいたんだって。そんな彼の血を引いてるだなんてお前は素晴らしいね」
娘はうっとりと息子の赤毛を撫でていたという。 - 177二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 01:09:41
11
帝国は現世の結婚や倫理観を無価値なものだと否定していたが、アドラーが生まれた千年以上前は原始的な価値観に生きるものが多かった。女たちは特にそうだった。
めのともその一人だった。ユーハバッハを至高の存在とあがめ、王であると同時に神であると信仰して奉っていた。その半身としてある日連れてこられた娘が実にたおやかな少女であったことから彼女たちは大喜びしたのだという。
軍事政権色の濃厚なリヒトライヒでは現世各所で目覚めようとしている人文主義の華やかさは望むべくもなかったのだ。この美しい娘が我らの王の娘として君臨してくれれば新たな文化の恩恵にあずかれるかもしれない、彼女たちはそう思っていた。だが喜びはすぐに絶望に変わった。その娘はみごもっていた。聞けば「陛下に対する不逞の末裔」が相手であるという。
女たちは逃げた男の薄汚さを罵り、その血を引くアドラーをも嘲り始めた。
「やめろ。そのような話は聞きたくない」
母であるユーゴーは女たちのおしゃべりを制止はするが咎めたことは一度もない。制止の言葉はいつも彼女のひとりごとであって、彼女は誰の話も聞いていなかった。
「この子の髪の色を見ろ。燃えるような赤だ。これ以外に私は何も欲しくない。めのと、お前がすることはこの子の日々の世話だ。おしゃべりではない」
「陛下に仇なす者の血を引いていると伺いました」
「誰から?」
「みなからです」
「誰からなのだと聞いている。みなというのは誰だ。一人一人名をあげろ」
「みなはみなです! もしその子どもの父の素性を知っていたら私はあなたさまのお側であってもお仕えすることなどありませんでした」
「ならばお前はここを去るがいい」
「ハッシュヴァルト様……」
「この子を産み、育て、母になれとおっしゃったのは陛下だ。お前が陛下に仇なす存在だ。この子とその父親を否定するのならば、お前こそ不忠だ……おいで、私の子、キント」
母であるユーゴーはしなやかな腕を差し伸べてきてアドラーを抱き上げ、うるさく騒ぐ女たちを追い払ってはくれたが、その目は息子の姿を写してさえいなかった。
アドラーはとっくに気がついていた。特に自分を聡い子だったとは思わない。だがアドラーと名前をつけながら「キント」という愛称を使い続け、私の子と繰り返す母の言葉の向こうには自分以外の誰かがいた。 - 178二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 01:11:42
12
アドラーにとって当然のことながら母の姿といえば成人した姿であって、自分を生んだという少女の頃の姿を知るはずがないのだが、自分の容姿はあきらかに帝国へやってきた頃の母の容姿と相似しているというのは誰の口からも繰り返し肯定的に語られたことである。ただ一人母だけがそれを認めたがらなかった。
「お前はなぜ彼に似なかったの。お前はどうして彼に似ていないの。私はお前に何か酷いことをしてしまったの? 彼の子どもを産んだのに彼は私を許してくれないの?」
腕に抱き上げられるときアドラーはいつも身を固くしていた。大剣を扱うために鍛えられてはいるもののユーゴーの体じたいはほっそりと華奢だ。本来その体格に見合わぬ筋肉で体を覆っている。騎士団長の礼装姿からはとても想像できないのだろうが、その体が女性としてはいびつなものであることは、まだろくに話せない頃から気がついていた。
「キント、お前は私を苦しめて生まれたのだから彼に似なくてはいけなかった」
澄んだ湖のようと形容される薄青の瞳が揺らいで、遠く東方から運ばれてくるという高価な白陶器のなめらかさに似ていると賞賛される頬に涙が流れていくのを見てしまうと、アドラーはもうひたすらに身を縮こめて母の心が安らぐのを待つしかなかった。
めのとたちも何を勘違いしているのかもらい泣きしたものだ。かなり後になってからではあるが女たちは、母が男に無体をはたらかれた挙げ句の果てに半ば正気を失っていると思っていたということを知って愕然とした。
「ごめんなさいユーゴー。お願いだから泣かないで」
「キント。お前はなぜ彼に似なかったんだ。なぜ私なんかに似たんだ。私なんかに」
「ユーゴー、こんな抱っこされたら苦しいよ。お願いだからもうはなしてよ」
母と息子が互いに愛称呼びしているという異様な光景に女たちは無関心だ。
女たちはユーゴーを心の壊れた淑女として愛でるばかりで、誰もそのことを指摘してはくれなかった。
ママと呼べば不敬だと怒られる。
お母さんと呼べば生意気だとなじられる。
お母様や母上とあらたまって呼べば何様のつもりだとその膝上からためらいもなく放り出される。
だからアドラーは母のことをかつて愛称であったというユーゴーと呼んでいた。
「私がどれだけ苦しかったかお前は知らなくてはいけない。めのと、キントに教えてやれ」 - 179二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 01:15:56
13
わずかに腕がゆるめられて呼吸が楽になったが、めのとが暗い喜びに満たされた顔をするのを見てしまった。アドラーはこの女たちが何よりおそろしい。その時ばかりは母の柔らかな胸に顔を埋めてしまう。その腕の中で一度でいいから名前で呼んで欲しいと願っていた。
出産がどれだけ凄まじかったか噛んで含めるように話し始めるめのとの表情の中には、あからさまというのがむしろ控えめなほどにアドラーを傷つけてやりたいという明確な悪意が見えていた。
……
……陣痛が始まってから五日は子宮口がまったく開かないまま胎盤が収縮してしまい、嘔吐を続けてついには胃液も吐けなくなってしまったあげく、恐慌状態に陥ったのだ。錯乱状態となった。
「なぜバズがここにいないんだ! この子はバズの子なのに! いらないよこんなの、欲しいのはバズだけだ。バズだけだったのに。こんなのいらない、こんなものいらない。もういやだ、誰かお腹を切って楽にして!」
産婆たちの手を振り払ってそう絶叫し、分娩台としてしつらえられたベッドから身をよじって転がり落ちた。敷物の上とはいえ冷たい床だ。もうベッドによじのぼる力すら残っておらず、助けようとする女たちを振り払って失神と意識の浮上を何度も繰り返した。汗と涙で濡れた寝間着を着替えさせられた時には目を開けたまま意識を完全に失って呼吸も浅くなっていた。
ついに産婆の手には負えず最後には帝国の首席医務官が呼ばれ、泣き叫ぶ娘を数名がかりで押さえつけて鉗子で胎児を引き摺り出した。
若い母胎は激しく損傷し、一時は心肺停止状態に陥った。
臨終に立ちあわせるために顔色を変えたヒューベルトが自ら急使となって早馬を飛ばし、遠征先の王を迎えに行ったほどだった。王が帰還した時には娘は純白のかたびらを身につけさせられ死の床を迎える準備をさせられていた……。
……
アドラーは耳を塞ぎたかった。だがユーゴーは慣れた手つきで自分を抱き上げて笑っている。
語り終えためのとはすっきりした顔をしたばかりか「そうしているとまるで聖母子像のようですわ。お美しいこと」と感嘆の声をあげた。自分を罵る一方で母に似た容姿を褒めたたえる。震えるアドラーを見るとその日は一日中めのとたちは彼にやさしかった。
バズビーが入団してきたのは、アドラーが女たちの言葉を理解できるようになった頃だった。 - 180二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 01:19:13
14
王がバズビーにじきじきに会ってみたいと言い出したので親衛隊は顔を見合わせた。
つい先日入団してきたばかりの一般聖兵である。気性の荒さはすでに騎士団内でも有名になっている。どんな無礼をはたらくかわからないと衷心から親衛隊は反対した。
王の答えは「会う必要がある。会わせる必要がある」と端的なものだった。謁見の場には騎士団長ユーグラム・ハッシュヴァルトとその息子アドラーを同席させるよう厳に命じた。
その日のアドラーは朝から機嫌が悪かった。母ユーゴーも不機嫌きわまりなく、少なくとも息子を胸に抱いている時はかりそめの笑みを浮かべるというのに、この日ばかりは整いすぎた顔は血の気を失っていた。
玉座の間に通されるとユーゴーのわずかながらの抵抗は虚しく、アドラーはその腕から取り上げられ王の腕に抱かれることとなった。
「今一度この子の運命を見定めるだけだ」
がっしりとした体躯の王の腕に抱かれるとアドラーはすっかりおとなしくなった。王の目はただ有機物を腕に抱いているといったような「無」ではあったが粗雑ではなかったし、ユーゴーのようにいつでも腕から放り出せるように心閉じて身構えている風でもない。王の腕の中は温かみも慈悲もない代わりに冷たさも酷薄さもなかった。
「お前の息子だ」
「は?」
玉座の間に通されたバズビーは果たして今にも王に手向かうべくきつく睨みをきかせていたが、王の腕に抱かれているアドラーの姿にその目を見開いた。成人するまであと少しといった少年の面影をまだ残した青年姿のバズビーのことをアドラーはよく覚えている。毎日顔を会わせている母ユーゴーよりも強く印象に残ったのだ。
「名はアドラーだ。ハッシュヴァルトが名付けた」
「アドラーだって!? まさかその名前を……」
「事実だ。お前によく似ているではないか」
つい今しがたの意気をすっかり失ってしまったようにバズビーは呆然として王に抱かれたアドラーを眺めた。
王はもはやバズビーはおろか傍らのハッシュヴァルトにさえ関心を失ったかのようにアドラーを見つめ、ほんのわずかではあったが笑みを浮かべた。
「アドラーよ、お前はどうやら私の世界とは別の場所に行くようだ。お前は短命で年老いて死んでゆく。私のそばにお前はいない。お前のそばに私はいない。それが幸せなのかは誰にもわからぬ。私にもお前にさえもな」 - 181二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 01:22:32
15
バズビーが父親であるとは誰もアドラーに告げなかった。必要がない。
王自身がそれを認めた以上はそれが帝国における事実であり、秘匿するべき事項ではなくなっている。
めのとたちはそのことを受け入れ難いことだと直訴までしようとしたが、王は取り合わなかった。
「バズビー、遊びにきたよ。今日のおやつはなに?」
母に連れられて行く先は王の居城の一画に存在する文書室と決まっている。
図書室は人の出入りが多すぎ、資料館は常駐する者がいるので適さない。
文書室は禁書が収められていることもあって一般兵はもちろん所用のない限り親衛隊はおろか王自身もやってこない。ちなみに禁書といっても鍵が掛けられた棚に収蔵されているのではない。古代ギリシャ語で書かれているのでどのみち書を開いたところで読める者が少ないというだけである。バズビーは帝国でも珍しく読み書きに堪能だったがさすがに古代ギリシャ語となると辞書なしに読めなかった。
「お前はまた食い物の話かよ」
「それ以外に遊びにくる理由がないもん。めのとたちから離れらるのは嬉しいよ」
「課題は終わらせたんだろうな。ほらノート出せ……てめえ、キント! 綴りが間違いだらけじゃねえか」
「うん、それぼくがやったんじゃなくて他の人ににやってもらったから」
「あのなあ、課題ってのは自分でやらなきゃ意味ねえんだよ!」
ユーゴーは困惑したようにバズビーを見やっているがバズビーはそれを見ようとしなかった。アドラーを抱き上げてすいと彼女に背を向け、落ち着き払った低い声でささやくように告げた。
「もう行けよユーゴー、仕事あるんだろ」
まだ一般兵でしかないバズビーは軍務に駆り出される以外は鍛錬以外にすることがない。一般教養として読み書きや算術の授業が行われてはいるが、バズビーは幼少期に習得し終えてしまっているので、暇な時間は勝手に図書室や文書室で資料を読み漁っている。
帝国は禁欲を強いているわけでもないのにとにかく娯楽がない。王は臣民に教養を求めなかったからみずから学ぼうとするものがいないだけでなく、帝国外で花咲く音楽や文学や美術や建築といったものを片一方的に享受するだけで、新たに何かを生み出そうとする者すらいないというありさまだった。
「……では、キントを頼む」
「言われるまでもねえよ」
二人に交わす言葉はいつもそれだけだった。 - 182二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 01:25:27
16
バズビーと出会ってすぐ、アドラーは自分のことを名前で呼んで欲しいと頼んだことがある。
だがそれだけはできないときっぱりと断られた。
「悪いなキント。それだけはできねえんだ」
「どうして? ユーゴーがつけた名前だから?」
「違う。それはたやすく人につけていい名前じゃねえんだよ。少なくとも俺の故郷では暗黙の了解でその名前をつけないことになってた。大切な人の名前だからそっとしておいたんだ。そうだな、アドとかアードルとかいう愛称で呼ぶのはだめか? ……まあ、その名前を愛称呼びすること自体がとんでもねえ不孝になっちまうんだが」
アドラーと呼んでもらえないことは残念に思ったがそれを悲しいとは思わなかった。
それどころか新しい呼び方を考えようとしてくれたことが嬉しかった。
アドでもアードルでも何でもよかった。
いっそ別の名前に変えてしまったらどうかと言ってみたが、バズビーはそれも断った。
「名前を捨ててしまったら取り戻せなくなる。だから本当の名前として持っておけ」
「それならこれからはずっと“キント”って呼んでくれる?」
「キントか……即物的すぎてひどすぎねえかそれ。誰がそんな呼び方をし始めたんだよ」
「ユーゴーだよ。陛下に名前を決めなさいって言われたからつけただけで、呼ぶのは面倒だって言ってた。『お前はキントと呼ばれるだけで十分だ』って。これまでユーゴーにキントって呼ばれるのも、めのとたちにキント様って呼ばれるのも嫌だったな」
結局アドラーの希望を入れてバズビーはキントを愛称として使うことになった。
アドラーは彼にキント呼びされることに嫌悪を感じるどころかむしろ積極的にそれを受け入れた。
大切な人の名前だから呼ぶことがでないと率直に教えてもらえたことが嬉しかったのだ。
その名前で呼ばれないそのことが、バズビーが自分のことを好きでいてくることだと信じられた。
その好意に応えるためにアドラーは彼のことを「お父さん」ではなく「バズビー」と呼ぶことに決めていた。
光の帝国がこの世から消滅し影の中に潜んで生きることになる直前の決心だった。光の帝国に所属していた多くが亡くなったために影の帝国となってから入ってきた者は二人の関係を察していても何も言わない。眠りについた王が認めていたのだからつついて暴きだすような意味がなかったということだろう。 - 183二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 01:27:16
17
現世で暮らし始めたバズビーを一番悩ませたのは今後どのように年齢を重ねていくのかがわからないということだった。
護廷十三隊の医療部隊である四番隊、そして技術開発局の精密検査によると血戦終了時点で、バズビーは二十五歳、アドラーはおよそ十歳とみなすことができるという診断が下っている。これからは現世の人間と同じ程度の寿命を生きることになるが、ユーハバッハの力の影響を千年も受け続けた二人は歳を重ねるにしても人間よりもなおゆるやかであり続けるだろうと言われた。
「どうするよ、これ」
家と仕事も見つけて落ち着いたと思っていたら児童相談所から手紙が来た。
アドラー・ブラックくんが小学校へ通っていないようですがご家庭ではどのようなお考えをされているか一度お聞かせいただけませんでしょうか。
筆跡はやわらかく丁寧なものだったが要は「教職にあるてめえが教育虐待するとは何事だ」というお叱りだった。
「それ、何?」
「役所からのお手紙。お前を学校に通わせろってさ。家と仕事のことで頭いっぱいで、お前の学校のことまで考えてなかった」
「通わなくていいよ。バズビーが家に帰ってきてから教えてくれればいい」
「学校に通わせるのが極東での親の義務だ」
バズビーは頭を抱えながらもさっさとりんご印でお馴染みのノートパソコンを開き、「小学校 就学しない 理由」を検索した。ブラック邸には中継機が取り付けられているのでもちろんWi-Fiが完備しておりセキュリティも非常に厳しい。
「ぼくがもし行きたくないって言ったらどうするの?」
「どうしても行きたくないっていうのなら行かなくてすむ方法を見つけるから安心しろ」
「ぼくがもしユーゴーと暮らしたくないって言ったらどうするの?」
「……キント、お前」
「ごめん。いやなこと言ったね」
バズビーは一瞬だけノートパソコンから目を上げてアドラーを見やったがすぐに目を落とした。
検索結果から「就学猶予」を見つけ出した。
黒崎一心に依頼して病弱であるという診断書を出してしまえばいいことだ。
アドラーがこの先どのように成長するかは最低でも三年から五年は様子を見なければならない。最悪十年以上かかる。千年の時間は学習時間としては十分すぎたが、周りの人間からあまりに幼いように見えるままでは学校どころか社会生活もままならないだろう。 - 184二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 01:32:37
18
アドラーには話していないがバズビーが私立高校に勤務するようになった理由は、一つは金である。
聖ペンタグラム学園は有名進学校の一つであり、正規教師であればその身分が保証され金が手に入る。調べてみたところ公立校に勤務するより給与水準は高い。この家で暮らしていく程度なら働かなくても食えるだけの金はあるが、それにしても金は余っているほうがいい。
もう一つは時間だ。は特別の事情がない限り時間外勤務はないと。朝9時から夕方5時まで。とにかくアドラーと一緒に過ごして一日でも早く現世の生活に慣れさせなくてはならない……ユーゴーのことはこれからのこととして。
結局アドラーは病弱の太鼓判を黒崎一心からもらい、みごと就学猶予の身となった。もちろん本人は病気であるはずもなく家でピンピンしているし黒崎医院の双子の妹に誘われて「体力づくり」のためにサッカーに夢中になっている。
「アドラー君のお父様、立ち入ったことをお伺いしますがお母様はどうなされたのでしょうか」
アドラーの担任教師と一回目の面談のときに、バズビーの外見年齢のおよそ二倍と推察される女性教師にずばり切り出されたので、あらかじめ用意しておいた答えを述べた。
「長患いで入院しています。義父が亡くなった心労で倒れて」
「それはお気の毒な。もしかしてアドラー君も?」
「彼女の手元で過保護に育てられていましたのでショックが大きいのでしょう」
「あの、お母様……奥様とは入籍されていないということで……お聞きするのは失礼かと思うのですが、アドラー君に何か影響があるのでは……」
相手の好奇心を封じてしまいたい時の言い訳をバズビーは知っている。
「宗教上の理由です」
抜群の効果がある。
担任教師はなるほどと言って二度とそのことを口にしなかった。
アドラーにも言い聞かせてある。自分の来し方について深く尋ねようとする者には宗教上の理由があると答えろと。現世で過ごして二年、心身ともにこの世界になじみ始めている。外界からの詮索はどうにでもできるが問題はアドラー自身だった。
「ぼくがもしユーゴーと暮らしたくないって言ったらどうするの?」
バズビーがあの時答えなかったのは答えられなかったのではなく、答えたくなかったからだ。アドラーはそそれを言ったことを後悔して謝ってきた。答えなかったことがおそらく正しかった。 - 185二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 01:35:42
19
ユーゴーとの面会を許されるようになってもバズビーは行かなかった。着替えや身の回りの物、差し入れは届けたが手紙などのやり取りはしていない。四番隊に彼女の様子を聞いてみたところでは届けられたものは素直に受け取り喜んでいるという。アドラーには事実だけを伝えた。
「そうなんだ。元気そうでよかった」
「会いに行くか?」
「ぼくと会ってもユーゴーは喜ばないと思うよ」
ぼくも嬉しくないと思うんだと小さく呟いたのを聞き逃すほどバズビーは無神経ではない。会いに行ってあげたらどう?とアドラーが提案してきたが、それはおそらく会いに行かないでという意味だろう。
「俺の話を少しだけ聞いてくれ。ほんの数分だ」
バズビーは自分のために強いコーヒーを淹れ、アドラーのためにいつもより甘めのココアを作り、広いリビングにしつらえられた北欧風デザインのソファに並んで座った。ここはアドラーのお気に入りの場所だ。定期的に学校に提出しなければならない課題は自分の部屋ではなくここでするし、ときにはベッドではなくここで寝てしまうこともある。
「俺とユーゴーの間に生まれたのがお前だってことはわかってるな?」
「もちろん。誰も言わないだけでみんな知ってたからね」
「そうだよな。それならユーゴーがお前を産むときにひどい苦労をしたってことも知ってるな? 俺はその話をだいぶ後から知らされたから今さらあれこれ言える立場じゃねえとは思ってるが」
「めのとたちに聞かされたよ。何度も。聞きたくないと思ってたけど聞かされた」
「だったらキント、お前はもうわかってると思うぜ。だから言う。俺はお前がユーゴーの腹の中にいることも知らなかったし、生まれる時にそばにいてやることもできなかった。そのことをずっと後悔してる。だからこそ俺はユーゴーをいずれ迎えにいくし一緒に暮らすことになる。今は離れてるが俺はユーゴーと離れるつもりはない。もう二度と」
「ぼくがそんなのはいやだと言っても?」
「ああ」
「ぼくのことは無視するの?」
「そんなことはしない」
「じゃあ、なんなの!」
二つのカップが乗ったローテーブルを蹴りそうな勢いでアドラーは立ち上がった。
その美しい顔立ちはまさしく五年間一緒に暮らしていた頃のユーゴーによく似ているとバズビーは思う。
だからこそ決してアドラーもユーゴーも手放しはしない。 - 186二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 01:42:58
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「お前のことをユーゴーから解放したいと俺は思ってるんだ」
バズビーはアドラーに座るようにうながした。アドラーはバズビーの隣に座り直しココアを一口飲んだ。
「一緒に住むのに解放されるだなんて変な話じゃないかな」
甘さが彼の気を鎮めたらしい。口調は落ち着いている。
「逆だな。一緒に住んで解放されるんだ。お前だけじゃない。俺もユーゴーもだ。俺たち三人は愛情は義務じゃないということに向き合わないとならねえんだよ」
「そんな当たり前なこと……」
「だよな。こうして言葉にしないとわからない。俺も長い間わからなかった」
バズビーはコーヒーに口をつけて一息おいた。うまく話せるかどうか自信はない。納得させようと思っていないだけに余計に伝えるのが難しい。コーヒーは苦く淹れておいて正解だった。頭の芯が冷え冷えとして思考が明晰だ。
「キント、愛は義務じゃない。そして愛せないことは罪じゃない。家族だから親子だから愛してるっていう幻想から、せめて俺たち三人は自由になろう。親子というのは絶対視されすぎてる。神聖視されすぎてる。親子だろうと恋人だろうと夫婦だろうと友人だろうと、愛で結びついてるなんていうまやかしだ。そのまやかしをそれでも俺は大切なものだと思ってるんだ。頼むキント、俺にそう信じる勇気を与えてくれ」
最後は両手で顔を覆ってしまった。
現世へやってきて以来バズビーはひたむきに前進してきた。それが彼の性根に何より合っていた。立ち止まることは命を終えてしまうことだった。アドラーのためにもユーゴーのためにそんなことはできない。だが歩みを緩めて後ろを振り返ることくらいはできるはずだ。そう信じる勇気がほしかった。
「ぼくにそんなことできると思う? ぼくはそんなのとても怖い」
「俺もだ。怖い。だからお前とこうして話してる」
「……今すぐ答えられない。とても難しいことだよ」
「ああ。死ぬまで解けない難問だろうな。でも取り組まなければ永遠に解けない」
「バズビー、そのまやかしは綺麗なのかな。それとも汚いかな。どっちだろうね」
「お前自身で確かめて欲しい。お前の目で見てくれ、頼む、どうか……」
「……いつかでいいのなら」
「ああ」
「ユーゴーは嫌いだ。でもバズビーのことは大好きだ。愛してる」
ブラック夫人がこの家にやってくるのはこれより数年後のことであった。
end - 187二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 01:50:06
待った事後悔させない素晴らしい作品をありがとうございます。
バズビー目線とかもあるのかなっと思いつつ余韻に浸らせていただきます。 - 188二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 07:45:43
バズビーがかなり愛情にシビアででもだからこその考えを持っていて最高でした。キントと呼ばれることに慣れきってて切ないし、親からの愛もそうなように子供からの愛も有限だと表現されてて良かったです。
- 189二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 12:31:15
過激な方に走った50年義妹期間の朽木ルキアみたいな事になっとる……
- 190二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 15:25:36
アドラーくん話を投下した者です
ファルケくんはとにかくポジティブだったので楽しくさくさく書けてしまったんですけど
アドラーくんはどうしてもユゴ♀の母親としての未熟さ足りなさに行き着くので結構しんどかったです
明らかに間違ってる母子関係を見せられてバズも頭抱えて、帝国時代託児所やってたんだと思います
バズ視点はないんです。彼はその内面に踏み込むよりも目にみえる行動と結果がすべての人
百年くらい前に現世の銀行にいくつも口座作って資産形成をし続けて、戦後は家を買い仕事をし息子の世話をしてる
そしてちゃんとユーゴーを迎えに行って「ブラック夫人」という形で守ってあげる
相続税でごっそり持ってかれたけど税金対策してたので金融資産だけで10桁は残ってます、抜かりありません
血戦があってもなくてもアドラーくんはいずれ現世で暮らすだろうと「陛下の言葉」で薄々察してました
バズに陛下のことを「義父」って言わせたのがやたら楽しかったです(笑)
バズは本質が愛情深くで懐深い人だと思うので一歩間違うとユゴ♀もアドラーも盲目的に愛してしまいそうなんです
でも明らかに間違った母子関係を見せつけられたことで何かおかしいと思い戦後はユゴ♀と一旦距離を置いてました
アドラーくんと何年か一緒に現世での暮らしているうちに家族というのは愛情で結びついてるのではなくて
親と子が「対等でなくてはいけない」ということに気がついた
だから父と子の関係を築いた上でユゴ♀のことについてアドラーくんに「頼む」と言えるようになった
ユゴ♀は母親だけど子どもを愛せなくてもいい、愛せなくても罪じゃない、アドラーくんもそれは同じ
バズは母子の愛情はユゴ♀生育環境や自分との過去の拗れとは別の話だという答えを自分なりに導き出してる
アドラーくんもそれを今後自分なりに考えて、人前ではユゴ♀を「母」と呼ぶようになるのだと思います
バズユゴ♀の心の内になるべく触れずアドラーに起こった事実だけを書くというルールを自分に課したら
陛下までご登場することになって長くなってしまいました……お目汚し失礼……
- 191二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 15:51:53
190の追記
バズがアドラーくんのことをずっと「キント」呼びしてるのは
初代アドラー・ブラックって人が、日本でいう菅原道真公や崇徳院、平将門みたいな人で
その名前を我が子につけるなんて恐ろしいしあってはならない風習がブラック領地にあったからです
道真公をチザーネ、崇徳院をスットン、平将門をマサカドンなんて公の前で呼ぶなんて心理的に怖いのと同じ(^^;; - 192スレ主25/06/24(火) 19:38:50
195まで行ったら次スレたてます。
スレタイに付け足したいものとかありますか? - 193二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 21:55:25
- 194スレ主25/06/24(火) 23:35:15
かしこまりました。
- 195スレ主25/06/24(火) 23:40:32
たてました!
このスレも絶品のssで楽しめました!次スレもよろしくお願いします。
ユゴ♀ 【閲覧注意】ここだけこの時点でPart3 ユゴバズ♀・バズユゴ♀|あにまん掲示板優れたss料理人達と材料提供者に感謝を込めて!bbs.animanch.com - 196二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 00:15:44
- 197二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 01:52:05
同意です!身悶えてワクテカ*\(^o^)/*しながら待ってます
- 198二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 09:13:53
うめ
- 199二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 09:47:39
それではまた次スレでお会いしましょう。
またネタがあれば書きたいです
普段はこのバズユゴのネタは書くけど子どもがいるまでは書かないので(笑) - 200二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 09:49:10
完結