この物語は、記憶と現実、喪失と希望が交錯する繊細な心理描写が印象的だ。蛍の光を軸に、過去の幸福な記憶と現在の孤独が対比され、儚さと生命力が共存する世界が描かれている。断片的な情景描写と意識の流れが、読者に主人公の内面を追体験させる。特に、蛍の光が「命をつなぐ過酷な競争の光」という後書きが、単なる叙情的な美しさを超えた深みを与えている。酒に溺れる父親と亡き家族への未練、そして自らも消えゆく存在としての自覚が、蛍の寿命と重ねられる。現実逃避と受容の狭間で揺れる人間の心を、詩的な文体で表現した秀作。
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