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連結すれば簡易担架に……!?ザックを使用した傷病者の搬送方法 | YAMA HACK[ヤマハック]
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連結すれば簡易担架に……!?ザックを使用した傷病者の搬送方法

登山中に仲間がケガなどによって動けなくなってしまったら……。応急手当などの処置も大切ですが、安全な場所や救助隊がアクセスできる場所まで傷病者を搬送して移動させることも有効です。

けれども、どのようにして搬送すればよいのでしょうか。今回は、東京都内の山岳遭難にも対応している警視庁警備部災害対策課も公式Xで紹介している簡易担架の作り方を紹介します。

目次

アイキャッチ画像撮影:鷲尾 太輔

自力歩行できない傷病者を搬送するメリット

仲間が行動不能になってしまったら……?
撮影:鷲尾 太輔(仲間が行動不能になってしまったら……?)

救助隊がすぐに到着できない山の中でのトラブル。行動不能になった登山者を、安全な場所や救急車が進入できる林道・救助ヘリコプターの降下ポイントなどまで予め搬送して移動させておくことは、症状悪化を低減したりスピーディーな救助にも有効です。

もっともシンプルな搬送方法は傷病者を背負うことですが、不安定で傷病者を落下させてしまうリスクもあります。こうした傷病者を搬送する際に、山中に限らず救助隊が使用するのが担架(ストレッチャー)です。

ザックが簡易担架に早変わり……!?

ザックが簡易担架に早変わり……!?
撮影:鷲尾 太輔

もちろん、登山中に万が一を考慮して担架を持ち歩いている人はいませんよね。しかし、登山用ザックを活用して、簡易担架を作ることができるのです。登山だけでなく災害時などにも役立つ簡易担架の作り方と搬送方法を、この機会にチェックしておきましょう。

ザックを使用した簡易担架の作り方

必要なのはザック3個
撮影:鷲尾 太輔(必要なのはザック3個)

堅牢なショルダーハーネスを備えた40L程度のザックが3つあるとベター

ザックを使った簡易担架に必要なのは、登山用ザック3個。大きさは容量40L程度以上が望ましいです。容量30L以下の小型のザックで作った簡易担架だと、身長が低い人しか固定・搬送できません。

またザックの容量以上に重視したいのが、ショルダーハーネスの堅牢性です。あまり薄かったり細かったりすると、搬送中に切れてしまう可能性があるからです。

ザックの中身を出す

ザックは空の状態にしておくのがベスト
撮影:鷲尾 太輔(ザックは空の状態にしておくのがベスト)

ザックは中身を抜いて、空の状態にしておくことがベストです。このため中身を保管しておくことができるスタッフバッグや大型のゴミ袋などを用意しておきましょう。最初からザックとスタッフバッグやゴミ袋を二重構造にしておくことが、アイテムの防水や素早く空にできる点からもおすすめです。

抜いた中身は現場に放置して、傷病者を別の場所へ搬送するケースが大半です。貴重品は盗難防止の観点から、ザックの雨蓋などに保管したまま一緒に搬送します。ただし傷病者を乗せることで壊れたりつぶれたりする懸念があるアイテムであれば、サコッシュなどザック以外に収納してください。

3つを縦に並べ、中央のザックのショルダーハーネスで上下のザックと連結する

ザックを縦に3つ並べる
撮影:鷲尾 太輔(ザックを縦に3つ並べる)

まず、3つのザックを縦に並べます。下側のザックの雨蓋と上側のザックのウェストベルト部分を重ねるように置きましょう。

中央のザックのショルダーストラップを外す
撮影:鷲尾 太輔(中央のザックのショルダーハーネスを外す)

中央のザックのショルダーハーネスを、左右とも外します。

ショルダーハーネスはウェストベルトやコンプレッションストラップと違い、普段あまり外すことがないストラップです。バックルなども付いていないため、外しにくい場合も。中央に配置するザックはショルダーハーネスを着脱しやすいモデルがおすすめです。

また頭を支える人が持ちやすいように、上側のザックはグラブループが大きめ・太めのものがおすすめ。ザックの容量が異なる場合は、上半身が安定するよう上側か中央側に大きめのザックを配置するとよいでしょう。

上のザックと中央のザックを連結させる
撮影:鷲尾 太輔(上のザックと中央のザックを連結させる)

取り外した中央のザックのショルダースハーネスを、左右とも上のザックのショルダーハーネスに通します。

下のザックと中央のザックを連結させる
撮影:鷲尾 太輔(下のザックと中央のザックを連結させる)

今度は中央のザックのショルダーハーネスを、左右とも下のザックのショルダーハーネスに通します。

最後に取り外した状態だった中央のザックのショルダーハーネスを、元の状態に戻します。これで3つのザックが連結されたことになります。

安全環付きのカラビナで、手早く連結する方法も

カラビナを使った連結方法
撮影:鷲尾 太輔(カラビナを使った連結方法)
幅広・肉厚なショルダーハーネスにもかけることができる大きめのカラビナを4つ利用すれば、中央のザックのショルダーハーネスを着脱する手間を省略できます。搬送中にザック同士が分離してしまわないよう、カラビナは安全環付きのものを使用して閉めておきましょう。

これで3つの登山用ザックを使った簡易担架が完成しました。次項以降では編集部員がこの簡易担架を使って、いよいよ傷病者の固定と搬送にチャレンジします。

ザックを使用した簡易担架への固定方法

傷病者を横たえる
撮影:鷲尾 太輔(傷病者を横たえる)

完成した担架の上に、搬送する傷病者を横たえます。先に紹介した中型以上のザックを使用した場合、平均的な身長の傷病者であれば、足首を下のザックのウェストベルト付近に横たえると、頭部が上のザックに乗るはずです。

上部のザックのウエストベルトで胸部付近を固定

上のザックのウェストベルトを締める
撮影:鷲尾 太輔(上のザックのウェストベルトを締める)

まずは上のザックのウェストベルトを締めて、傷病者の胸部付近を固定します。ザックの大きさによって若干異なりますが、なるべくワキの下に近い高い位置で固定した方が、傷病者が安定します。

中央のザックのウエストベルトで腰付近を固定

中央のザックのウェストベルトを締める
撮影:鷲尾 太輔(中央のザックのウェストベルトを締める)

続いて中央のザックのウェストベルトを締めて、傷病者の腰付近を固定します。こちらもザックの大きさによって固定位置は若干異なりますが、背負うとき同様の骨盤付近から太もも付近であればOKです。締められると苦しい腹部をきつく固定することは、避けましょう。

下部のザックのウエストベルトで足首付近を固定

下のザックのウェストベルトを締める
撮影:鷲尾 太輔(下のザックのウェストベルトを締める)

最後に下のザックのウェストベルトを締めて、傷病者の足首を固定します。これで傷病者の簡易担架への固定は完了です。

ザックを使用した簡易担架での搬送方法

6名・片手での搬送
撮影:鷲尾 太輔(6名・片手での搬送)

警視庁警備部災害対策課の公式Xで紹介されているのは、写真のように6名が片手でザックのショルダーハーネスを持つ搬送方法です。搬送に携わることができる人数次第では、この方法でもOKです。

ただし今回は救助・搬送などに慣れていない人が、山の中で実践してもより安定して搬送できるよう、7名が両手でザックのショルダーハーネスを持つ搬送方法を実践します。

6人はショルダーハーネスを、1人はグラブループを持つ

簡易担架を持つ
撮影:鷲尾 太輔(ザックのショルダーハーネ、グラブループを持つ)

まずは3つのザックのショルダーハーネス左右計6本を、搬送者6名が持ちます。もう1名の搬送者は上のザックのグラブループを持ちます。

人間は頭部や内臓が集中している上半身の方が重いので、腕力がある人が上側・中央のザックを持った方が、あまり腕力がない搬送者の負担が低減されます。

また傷病者が傾かないよう、上・中央・下側のそれぞれのザック左右には身長差が少ない搬送者を配置するとよいでしょう。

両腕・背中を伸ばした状態の片膝立ちから、7人同時に立ち上がる

両腕と背中はしっかり伸ばし、片膝立ちの姿勢になります。両腕や背中が曲がった状態で立ち上がると、搬送者が腰を痛めてしまう原因になるからです。全員がこの姿勢を取ったら「せーの」など号令をかけて同時に立ち上がります。

声をかけあって進む
撮影:鷲尾 太輔(声をかけあって進む)

傷病者の足側を進行方向に、掛け声に合わせて7人同時に踏み出す

立ち上がって簡易担架を持ち上げたら、傷病者の足を先頭に進みます。進行方向正面を向いている上のザックのグラブループを持った搬送者は、前方の状況などを全員に伝えたり、障害物があれば進路を変えるように指示を出したりしてください。

左右6名の搬送者は、歩く際にお互いの足を踏まないよう注意が必要です。全員が前側の足と後側の足を同時に次の一歩を踏み出せるよう「いち・に」 「前・後」のように声を掛け合いながら、なるべく簡易担架を揺らしたり傾けたりしないように進みましょう。

両腕・背中を伸ばした状態で片膝立ちになって降ろす。頭は最後に接地させる

降ろす時も同様に
撮影:鷲尾 太輔(降ろす時も同様に)

簡易担架を降ろす時も、搬送者は両腕と背中はしっかり伸ばしたまま、ゆっくりと片膝立ちになって腰を落としてください。上のザックのグラブループを持った搬送者は、傷病者の身体がしっかり接地してから最後にゆっくりと頭を接地させます。

撮影:鷲尾 太輔

この動画のように7名であれば、傷病者が大柄であってもかなりスムーズに搬送することが可能です。

「あれ、思っていたより軽い!?」というのが、持ち上げた瞬間の感想です。簡易担架ながら安定感があり、7人いたこともあって、かなり大柄の男性でもスッと持ち上がりました。搬送前にザックに乗せることの方が困難かもしれません。

とはいっても、進むに連れて、ずっしりとした重さを腕に感じるようになってきます。整地されたゆるい傾斜の場所でも歩きにくかったので、不整地で安全に搬送するには、声を掛け合ってうまく連携する必要があるなと感じました。

搬送される側は、ハンモックに寝ているような乗り心地です。

一般登山者が積極的に使うものではないと思いますが、どうしても傷病者を移動させなければならない状況では、有用なのではないでしょうか。

より少人数のときは? ザックを使った背負い搬送方法

ザック1つでの搬送方法も

撮影:鷲尾 太輔(ザック1つでの搬送方法も)

グループの人数や周囲で協力可能な登山者の有無によっては、ザック3個と搬送者6〜7名を確保できないことも多いものです。こうした場合に実施するのが、ザック1個を使った搬送方法。基本的には1人の搬送者が1人の傷病者を背負う形式で、ザックなしの状態よりは安定して搬送できます。また、搬送をサポートする人があと1〜2名いるとさらに安心です。

中身を抜いたザックを逆さにし、ショルダーハーネスに傷病者の両足を通す

中身を抜いたザックを用意。ザックの容量は先ほどの3個パターンよりさらに大きめの50L以上のタイプを使用すると安定感が増します。

傷病者をザックに乗せる
撮影:鷲尾 太輔(傷病者をザックに乗せる)

まずは上下逆さまにしたザックに傷病者を座らせて、ショルダーハーネス2本を両足の付け根に通します。ザックを上下逆さまにすることで、傷病者の足に食い込むショルダーハーネスが太くなり、圧迫感が低減されるのです。

傷病者が動けない場合や意識がない場合は、数名で協力しながらショルダーハーネスを両足に通してザックを身体の下に敷き込みましょう。

傷病者の足を通しているショルダーハーネスに、搬送者も両腕を通す

搬送者が腕を通す
撮影:鷲尾 太輔(搬送者が腕を通す)

搬送をサポートする人(写真では2名)は傷病者の上体を起こして、搬送者はザックを背負うのと同様にショルダーハーネス2本へ両腕を通します。

ザックを上下逆さまにすることで、搬送者の肩に食い込むショルダーハーネスは細くなります。搬送者の肩への負荷を低減させるために、折り畳んだタオルなどクッションの役割を果たすものをショルダーハーネスの下に挟んでもよいでしょう。

体勢を整えてゆっくりと立ち上がる。サポートできる人がいる場合は、傷病者の上体を支える

搬送者が立ち上がる……けれども
撮影:鷲尾 太輔(搬送者が立ち上がる……けれども)

搬送をサポートする人は、搬送者がバランスを崩した際などに備えて、傷病者の上体をしっかり支えておきます。そして搬送者が立ち上がります。しかし……今回は搬送者が小柄な女性編集部員だったため、写真の状態から立ち上がることができませんでした。

こうしたことからも、この搬送方法は搬送者と傷病者にそれなりの体格差がないと難しいといえるでしょう。小柄な搬送者が大柄な傷病者を背負うために無理して立ちあがろうとすると、肩や腰を痛めてしまうだけでなく、ひっくり返って傷病者を落としてしまう可能性もあります。

搬送者が交代
撮影:YAMA HACK編集部(搬送者が交代)

そこでこの方法での搬送経験が長く、先ほどの女性編集部員よりは大柄な筆者が搬送者を務めることに。結果として立ち上がることができました。

ザックによる背負い搬送
撮影:YAMA HACK編集部(ザックによる背負い搬送)

こちらがザックによる背負い搬送です。今回はひとりで背負っていますが、登山道の状況や傷病者の状態次第では危険。サポートする人もは搬送中も一緒に行動して傷病者を左右から支えることで、搬送者の転倒などに備えてください。

傷病者の足が通っている状態のショルダーハーネスは想像よりも背負いにくく、バランスを取ることができませんでした。うまく足に力を入れられなくなり、立ち上がることもできず……。力の抜けた状態の傷病者を背負うことの難しさを体感しました。

背負われるときは、ただ負ぶさるよりも、ザックを使って背負われた方が身体がラクでした。簡易担架同様に、時間が経つに連れて、搬送者も傷病者もショルダーハーネスの食い込みによる負担は大きくなっていきます。

二重遭難を誘発する無理な搬送は避けよう

急傾斜の登山道などでの搬送は危険
撮影:鷲尾 太輔(急傾斜の登山道などでの搬送は危険)

今回紹介したザックを使用した簡易担架での搬送が可能なのは、比較的平坦で安全な登山道に限られます。急傾斜や切り立った登山道で傷病者を落下させてしまうのはもってのほかですが、搬送者も転倒・滑落などで負傷してしまう「二重遭難」は絶対に避けねばなりません。

搬送者の体力的にも長距離・長時間の搬送を続けることは困難です。登山においては短距離かつ安定した区間で、傷病者を搬送することに冒頭のようなメリットがある場合に限って実践してください。また日常生活における事故や災害時などに、むしろこの知識が役立てば幸いです。