芝不器男君は、俳壇に流星のごとく現はれて流星のごとくに去つた、若き熱情の作家である。 が君の熱情は、登山家としての魁偉なる風に、つねに沈黙と微笑とをうち湛へた湖のしづけさを思はしめた。だからその作品の表現も、うち湛へた湖から白鳥の飛翔したやうな、静寂な気韻が伝はらないものは、君の満足するものではなかつた。この心境は、君のあるいて行つた人生のすべてに於てもさういへるであらう。 君は仙台の東北大学工科在学中から、天の川に投句をはじめた。それ以前の事を私はよく知らないが、はじめはなんでも君の令兄都築豺膓子君がずつと以前天の川に投句してゐた関係から、同君がすゝめたのであると聞いたやうに記憶してゐる。それから僅に三四年の短い間ではあつたが、異色ある作家として、またひところは他に先んじて、万葉調をとり入れた作品を示して俳壇の瞠目をあつめた。そして君は学生生活を、東北仙台の連坊小路に送り、帰省しては南国