※本稿は、楠木新『定年後、その後』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
定年後も「会社員感覚」を抜け出せない人々
「定年後、その後」の年齢になってもまだ、会社員時代の思い出に生きている人もいる。もちろん人の考えはさまざまなので、そのような生き方が悪いというつもりはない。現在と未来の楽しみの機会を失っていないかが気になるだけだ。
家族旅行で京都を訪れ、食事をしたときのことを思い出す。隣の席に2人の男性が座っていた。ともに70代前半だろうか。会社員時代の同期だったようだ。
この2人が、ずっと会社員時代のことを話していたのだ。
「上司のAは、見積もりをうまく書くが詰めが甘いので、部長は評価していなかった」
「Bは立ち回りはうまいが、大局観がなかった」
「どうやら次の社長はCらしいぞ」……。
現役時代といっても、もう10年以上前のことだろう。酒が入っていたからか大きな声で話していたので、その会話が耳に入ってくる。ほかのテーブルには辟易とした雰囲気が漂っていた。
「次」に意識を向けることが大切
気になったのは、2人とも相手の話を全然聞いていなかったということだ。一見会話は嚙み合っているようだが、相手の話を聞いて反応するのではなく、自分の話したいことだけを互いに一方的にしゃべるだけだった。それが延々と2時間近く続いていた。
彼らが店を出た時、思わず「家で家族とどんな話をしているのだろう?」と口に出してしまうと、横に座っていた女性たちが苦笑いしながらうなずいていた。
「次」に意識が向かっていることはやはり大切なことなのだろう。そう考えると、現役で働く会社員が、定年退職後の自分の姿を想像したり悩んだりするのは、とても健全な感じがする。


