相手に言いたいことが伝わらないときは、どうすればいいのか。トヨタ自動車の社員教育では、部下が「わからない」と言うときは上司側に問題があるとしている。トヨタの企業内高校「トヨタ工業学園」に密着取材したノンフィクション作家の野地秩嘉さんが解説する――。

※本稿は、野地秩嘉『豊田章男が一番大事にする「トヨタの人づくり」 トヨタ工業学園の全貌』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

元町工場 組立生産ライン(2018年9月時点)
画像提供=トヨタ自動車
元町工場 組立生産ライン(2018年9月時点)

技術よりも先に考えるべきことがある

トヨタの生産現場では自動車、モビリティをつくっている。

「クルマをつくっているのだから、作業者はクルマ自体を進化させるための技術のことを考えているだろうし、他の会社が真似のできない先進技術を追求しているに違いない。彼らは技術を見つめている。それがメーカーの開発者だ」

わたしはそう思い込んでいた。そういうものだと自然と考えていた。

しかし、そうではなかった。彼らはまず人間を考えて、それから技術を開発していた。彼らは運転する人、乗っている人を見つめて、考えることから始めていた。「人間を考える」ことから開発をスタートしていた。とはいえ人間を考えるとは哲学的な思索をするわけではない。

人が困っていることを解決するためのモビリティを開発するのが彼らの仕事だ。それが「人間を考える」ことなのである。

始まりは、困りごとの解決だった

初期であれば「走る」「曲がる」「止まる」を追求することだった。人が歩くよりも、馬に乗るよりも、自動車があれば早く目的地へ行くことができる。遠くへ行くことができる。「早く行きたい、遠くへ行きたい」と困っていた人たちに対して基本性能を持つ自動車を出すことが解決策だった。また、自動車を持てば天候にかかわらず、目的地へ行くことができる。自動車会社の始まりは人が困っていることを解決することだった。

それが技術が進歩していくにしたがって、技術自体に目がいくようになってしまった。しかし、トヨタはどういう時代であれ、開発技術者は自然のうちにユーザーを見てクルマを考えている。

では、今、人間が困っていることとは何か。気候変動の原因といわれている二酸化炭素が増えることに人間は困っている。そこで、EV(BEV、PHEV、FCV)や水素エンジン車が開発されている。

次に困っているのが、タクシードライバーが足りないこと。そこで自動運転、無人運転の開発が進んでいる。さらに、交通渋滞にも困っている。渋滞がなくなればいいのだが、高速道路の上り坂の手前などで自然に発生する渋滞はなかなかなくならない。そこで、空飛ぶクルマが開発され、実用化に近づいている。他にもまだまだモビリティ関連で人間が困っていることはたくさんある。