遠藤諭のプログラミング+日記 第194回
仕事を早くラクにやるためのいちばん簡単な方法は、まともなプロンプトを書くことだ
長いプロンプト、どこでも履歴から呼び出して手直しして使う――「どこでもロングプロンプト」という解決策
2025年06月30日 09時00分更新
日本人のプロンプトは短いようだ
「生成AIはプロンプトしだい」とは、よく聞く言葉だが本当にそうである。何をどう聞くかで、返ってくる答えがまったく変わってくる。
ところが、海外のサイトを見ると彼らの書いたプロンプトは、細かく丁寧に複数行にわたる説明が添えられていることが多い。それに対して、日本のSNSやブログを見ると、「お詫びのメールを書いて」とか「この文を丁寧にして」といったたった一行のプロンプトで済ませているケースも少なくないように思う。
海外ユーザーと日本ユーザーのプロンプトを比較するため、Redditのr/ChatGPTに投稿されたプロンプト(英語)100件と、日本語のX(旧Twitter)で「ChatGPT プロンプト」でヒットした投稿に書かれていたプロンプト100件を比較してみた。その結果が、次の表である。
文字数と同時にChatGPTが始まって間もない時期から感じていた改行の数と、出力フォーマットの指示をしないという意見があったので、それも集計した。プロンプトの与え方も日本では滅多に見ないYAML形式も見かける。
簡易な集計なので調査データというほどのものではないが、やはり目で見て感じていたとおりの結果となった。英語ユーザーのプロンプトの平均文字数は294文字に対して、日本語ユーザーのプロンプトの平均文字数は70文字。実に、英語ユーザーは日本語ユーザーの4.2倍の長さのプロンプトを入力している。
もちろん、日本語は英語よりも少ない0.6~0.7倍の文字数で同じ情報を伝えられるなどと言われている。「I love you.」と「愛してる」の文字数の違いである。LLMではとても重要な指標であるトークン数に関しては、日本語は英語よりもずっと大きくなるという議論もある。しかし、翻訳文などでは、日本語にすると余計な修飾や説明が増えることもあるようにも思える。要するに、文の長さや条件でようすが変わってくる。
英語ユーザーのプロンプトのほうが文字数としては長いという、いちばん客観的なところについては変わらないのだが。
それよりも、日本では「お願いする」「ちょっと聞く」感覚でプロンプトを書きがちであるのに対して、英語では、プロンプトを“指示書”だと考える文化だという印象もある。要するに、日本語のプロンプトは具体性が足りないのだとすると、長さ以上に深刻な問題のようにも思える。
バイブコーディングであろうが、システム開発や業務的なタスクをこなしてくれるエージェントであろうが、プロンプトの差はその結果を大きく左右する。これから世の中が生成AIで変化していくのだとすると、「デジタル敗戦」の次に待っているのは「プロンプト敗戦」でないとよいのだが。
しかし、長いプロンプトをそのたびに書くというのは容易なことではない。便利なプロンプトの技を覚えておくのも大変である。そこで、長いプロンプトの履歴と再利用が前提のツールがあるといいということで、作ってしまった。
長いプロンプトをどこでも簡単に呼び出して、必要に応じて編集して再利用できるツールである。名前は DokodemoLongP。読み方は「どこでもロングプロンプト」ということにする。
どんなAIツールとも組み合わせ可能
このツールを使うと、ChatGPT、Claude、Perplexity、Gemini、あるいはCURSORのようなAIエディタに対して、自分が過去に書いた長いプロンプトを再利用できるようになる。
それぞれのサービスにも過去のプロンプトは保存されているが、なんといっても手軽に呼び出せるようになる。呼び出したプロンプトは、エディタ感覚で手直しなどしてからそれぞれのAIに投げることができる。実際に使っているようすは、次の動画を見ていただきたい。
使いかたを順番に説明すると、どこでもプロンプトを起動(あとで述べる)したら、ChatGPTなどのソフトを使っているときに「Ctrl-Win-p」を押す。すると下の画面のようなウィンドウが立ち上がり、小さなエディタ画面からプロンプトを入力できる。「OK」を押すと、その内容がそのままAIの入力欄に貼り込まれる。
ここまでは、単純に入力したものがそのままChatGPTに渡されただけである。しかし、2回目以降であれば動きが違ってくる。Ctrl-Win-pを押すと、過去に入力したプロンプトをドロップダウンリストから選べるようになるのだ。カーソル上下キーで順番に選べるのだが、「V」マークのボタンをクリックすれば一覧からの選択も可能だ。
そうやって、過去に入力したプロンプトを選ぶと、その内容が下にある小さなエディタ画面に表示される。このまま「OK」を押せば、それがChatGPTなどの入力欄に貼られるし、エディタ画面で手直ししてから「OK」を押してもよい。その手直しした内容もプロンプトの履歴として保存される。
基本的な使い方は、これだけでほぼすべてである。要するに、プロンプトを入力するのにショートカットキーを押してどこでもロングプロンプトを経由して入力するのだが、その分、過去のプロンプトの再利用で作業の効率と質が向上するというものである。
このようにして、ある程度使ったところでドロップダウンリストを開くと、過去に入力したプロンプトがズラリと並んででてくる。新しいものから順番に256件まで記録されて、使われなかったものから捨てられるようになっている。
たまにしかやらない作業はこうやってドロップダウンリストから探すと見つけやすい。たとえば、インタビューの録音を文字起こししたデータを仮編集するプロンプトを選んで使う。私が使っているプロンプトは「この会話の文字起こしを、読みやすく整形してください。言い直し、脱線、不要語(えっと、あの…)を削除。話者の口調は保ちつつ、文として通るようにしてください:」というものだ。
こんな具合で、使ったばかりのプロンプトであればカーソルの上下キーで呼び出してリターンキーで貼り付け。ほぼ、ホイホイという気分のかなり軽快な使い勝手となる。過去の履歴の中から探すときはカーソルキーのほかに、マウスも使って「OK」ボタンを押すやり方になる(タブキーなども使ってキーボードだけでもできるが)。
実は、これに似たことができる道具として「スニペットツール」というソフトウェアがある。フロントエンドエンジニアなどが、HTMLやCSSのタグを効率よく入力するために利用していることが多い。また、クリップボードを使うたびに保存して履歴から呼び出せるツールも世の中にはある。履歴が使えるのだから機能的にはほぼ同じである。また、日本語IMEに登録する方法もある。
しかし、多くのスニペットツールは頻繁に内容も変化するプロンプトで使うにはあまり向いていない。また、クリップボードの履歴呼び出しツールはプロンプト以外の文字列がたくさん入ってきてこれも使えない。日本語入力IMEは一覧で選べない上に登録できる文字列の長さも短くて使いものにならない。そこで、「どこでもロングプロンプト」というわけだ。
どこでもロングプロンプトの導入のしかた
まずはGitHubからダウンロード
DokodemoLongPは以下のURLから入手できる:
https://github.com/hortense667/DokodemoLongP
上記URLを開いたら下の画像の「DokodemoLongP.exe」をクリック。
画面が切り替わったら、画面右のダウンロードボタンをクリックすると、ダウンロード先のフォルダを選べるようになる。とりあえず、デスクトップでもどこでもいいだろう。
こうしてダウンロードした DokodemoLongP.exe をクリックして実行してやる(後で触れるようにWindowsの注意画面がポップアップするのではあるが)。タスクトレイ(画面右下)に「H」のアイコンが出れば起動完了である。
Windows画面の右下のタスクバーの中のタスクトレイに「H」のアイコン(実はAutoHotKeyのアイコン)が表示されたところ。マウスオーバーすると「DokodemoLongP.exe」とプログラム名がポップアップする。
この状態で、Ctrl-Win-pを押してやると、さきほど紹介したドロップダウンリストとエディタからなるウィンドウが表示される。定常的に使いたくなったら、Windowsの「スタートアップ」に DokodemoLongP.exe のショートカットを入れておくとよいだろう。
ところで、どこでもロングプロンプトは、スニペットツールのAutoHotKeyを使って作られている。exe形式にコンパイルしたものを配布しているが、先に触れたようにWindowsが注意画面が表示される。そのまま自己責任で進めていただいてよいと思うのだが、気になる方はAutoHotKeyのスクリプト状態のものもGitHubに置いているのでそちらを使っていただきたい。
履歴ファイルは、DokodemoLongP.exe を実行したフォルダに、prompt_history.txtという名前のプレーンテキストファイルとして作られる。Dropbox上で実行すれば、履歴をマシンをまたがって共有できるようになる。
なお、私のところでは動いているが、うまく動作しないこともあると思う。バグ情報は歓迎だが、サポート的なことはまるでできないのであしからず。
「DokodemoLLM」(どこでもLLM)シリーズについて
このコラムでは、前回、前々回と、「どこでもGemini」、「どこでもGPT」という生成AIを使うためのツールを作って紹介した。
これらは、Gmailでもサクラエディタなどの非AIエディタでもSlackでも、ほとんどのWindowsアプリケーションやウェブ画面で生成AIを使えるようにするツールである。テキストを範囲選択した状態で、それをChatGPT(正確にはその言語モデルであるGPT-4o)やGeminiに渡して、結果をソフトに反映できるというものである。
しかし、自分で使っているうちに「どこでもGemini」、「どこでもGPT」では、長いプロンプトを入力できないことが気になってきた。もともとは、CURSORでCtrl-Kでやれるインラインチャットをどのソフトでもと思って作ったので、長いプロンプトは入れないだろうと思ったのだが。実際に使いはじめると長いプロンプトを入れたくなる。
ということで、「どこでもGemini」、「どこでもGPT」も「どこでもロングプロンプト」のドロップダウンリストとエディタを組み込もうと思っている。
なお、Macで、「どこでもGemini」、「どこでもGPT」を使いたい場合は、適切なスニペットツールを探してきて、生成AIを呼び出すPythonコードも公開しているのでそれを呼んでくれればいいでしょうと書いた。ところが、「ちゃんとMacに対応してほしい」という意見もメッセージももらっていて、SNS上で、「1週間以内にリリースします」と返事していたのだった。
なのだが、テスト用のMacの手配に手間がかかってしまいまだ手付かずの状態である。これは、時間を見つけてやるつもりなのでご了承いただきたい。
生成AI時代には、長いプロンプトを書くことが、仕事を早くラクにやるためのいちばん簡単な方法である(非常におおまかに言えばだが=別途前提となる十分な情報を与えることも重要)。
●「どこでもロングプロンプト」
https://github.com/hortense667/DokodemoLongP
●「どこでもGemini」
https://github.com/hortense667/DokodemoGemini
●「どこでもGPT」
https://github.com/hortense667/DokodemoGPT02
遠藤諭(えんどうさとし)
株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員。プログラマを経て1985年に株式会社アスキー入社。月刊アスキー編集長、株式会社アスキー取締役などを経て、2013年より現職。角川アスキー総研では、スマートフォンとネットの時代の人々のライフスタイルに関して、調査・コンサルティングを行っている。「AMSCLS」(LHAで全面的に使われている)や「親指ぴゅん」(親指シフトキーボードエミュレーター)などフリーソフトウェアの作者でもある。趣味は、カレーと錯視と文具作り。2018、2019年に日本基礎心理学会の「錯視・錯聴コンテスト」で2年連続入賞。その錯視を利用したアニメーションフローティングペンを作っている。著書に、『計算機屋かく戦えり』(アスキー)、『頭のいい人が変えた10の世界 NHK ITホワイトボックス』(共著、講談社)など。
Twitter:@hortense667この連載の記事
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