クマと出会ったらどうすればいいのか
今夏は、北海道福島町で新聞配達員が、知床の羅臼岳で登山客が喰い殺されたのをはじめ、秋以降は本州のツキノワグマが近年になく凶暴化し、クマによる人身被害が過去最多を記録している。
これにともない、クマに出会ったときの心得のような特集をあちこちで見かける。
筆者は明治大正昭和と約80年分の北海道の地元紙を通読し、また市町村史、部落史、自伝、林業専門誌などにも目を通して、ヒグマに関する記事、挿話を抽出、データベース化し、拙著『神々の復讐』(講談社)にまとめた。
その中には、実際にクマと出会ったのち無事に生還した事例も数多く存在する(襲いかかってくるクマを「巴投げ」で投げ飛ばして助かったというような都市伝説的な話などもある)。
先人達の体験から、クマと遭遇した時の効果的な対策について考えてみたい。
助かる確率は五分五分
①「死んだふり」は有効か?
「ヒグマに遭ったら死んだ真似をすると助かる」という俗説は広く信じられているが、これは「クマは動かない物は食わない」という、これまた俗説によるもので、専門家によれば確率は五分五分であるという。実際に助かったケースでも、けっこうな怪我を負わされることが多いようだ。古い事例では明治の初め頃に、次のような事件があった。
結局この男性は27カ所の傷を負って病院に運ばれたそうである。
他にも全治3週間の重傷を負ったり、後遺症が残ったりした事例が以下の二つである。
夕張炭鉱の坑夫、中村理吉(三二)は、炭層調査のため八名の人夫と共に従事中、巨グマが突如、前途に立ち塞がり、咆哮一声したので、理吉は大地に俯伏した。飛びかかったクマは、その後頭部に噛み付いたが、必死に痛みをこらえて仮死の状態を装い、しばらくして静かに頭をもたげてみると、クマはなおかたわらを去っておらず、手を挙げてさらに頭部を掻きむしり、紅に染めて倒れた姿を見て、悠々と立ち去った(後略)(『北海タイムス』明治41年9月3日)
“熊は死んだものは襲わない”と教えられていたのは嘘でした。熊は私の上に腰を下ろして長い爪で尻べたにズブリと刺しました。痛いのでビクッと動くとウワッと唸って咬みつきました。ひっくり返すやら手玉に取ったり、まるで熊のおもちゃでした。追っ手の人が来て仕止めてくれましたが、片目、片手、片足になりました。それでも猟師の人達が熊をなげおいて、病院に運んでくれたので助かりました(吉本国男)(『東三川百年史』平成7年)
