1 「いいなあ」 湖を見下ろす土手に座って、草をむしりながら、クリオンはつぶやいた。 淡い緋色の短衣... 1 「いいなあ」 湖を見下ろす土手に座って、草をむしりながら、クリオンはつぶやいた。 淡い緋色の短衣とズボンを身につけた少年である。短衣は腰で縛って裾を流しているので、短いスカートのようにも見える。 柔らかな金髪が初春の風をふわりとはらむ。大人のように刈り上げてはいない。首の後ろから耳の前まで、半円を描いて切り揃えている。 手足も細かった。筋肉が足りなくて服の布地が余っている。腰に下げた突き専用のレイピアは、それが彼の腕力で扱える最適な武器なのだろう。両刃の長剣や槍兵のバンカーシールドは似合いそうもない。 いくつかの特徴が、彼の姿をあいまいにしていた。遠目には少女のように見えないこともない。 「あんな大きな船に乗って、楽隊や踊り子を見物するなんて……」 澄んだコバルト色の瞳で遠くを見つめながら、クリオンはまたつぶやいた。 グレンデル湖の輝く湖面、一リーグほど先に、茫洋たる影が浮いている。
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