AH-1
こぶら
AH-1はUH-1を基本として開発された物で、外観上の共通点は二枚のローターブレードとテール部分の形状くらいだが内部のパーツには互換性が有る(当機が改修される際はUH-1も同時に改修されているケースが多い)。非常に細い胴体を持つタンデム式の二人乗り。機の操縦は視界が開けている後席が行い、武器の管制、使用は前席(ガンナー、ガナー)が行う。
ベトナム戦争において、ヘリボーン戦術が確立されるに従い、ヘリコプターによる上空支援は地上部隊にとってなくてはならないものになりつつあった。武装を施したUH-1”スリック”などで対応していたアメリカ軍だったが、重武装化による機動性の低下、UH-1は機体が横に広く被弾面積が大きいというデメリットが露呈することになる。そこで、胴体を細くし被弾面積を小さくし、なおかつ大火力を持つ地上攻撃専門の攻撃ヘリコプターの必要性が出てくることになる。
はじめ米軍はロッキード社のAH-56Aシャイアンの採用を決めたが、当時の製造技術では実用に耐えられず、当時進行中のベトナム戦争への投入は不可能とされた。そこで、再び米軍はベトナム戦争へ投入する暫定的な攻撃ヘリを必要とすることになった。そこで採用されたのがベル社のベル209。先の選定でAH-56に敗れたヘリコプターだった。
選定の結果、ベル209はAH-1として採用され、コブラまたはベース機UH-1の愛称を足したヒュ(ー)イコブラの愛称を得てベトナム戦争へと投入されるにいたる。
なお、米軍のヘリコプターの多くはアメリカ先住民族の部族名が取られている。AH-1の元となったUH-1もイロコイ族からイロコイの愛称が与えれているし、AH-56Aシャイアンもそうなっている。AH-1は暫定採用であったため、コブラという部族名とはまったく関係のないものになっている。
実線を経て高い評価を得たコブラは、その後各国の軍隊でも採用されている。自衛隊でもAH-1Sを採用。現在のアメリカ陸軍では後継のAH-64が登場したため退役しているものの、海兵隊では発展型であるAH-1W スーパーコブラを採用し、現在さらなる発展改修機のAH-1Z ヴァイパーに順次改修されて活躍している。
海兵隊は今度20年間も使用すると宣言しており、まだまだバリバリで働かせるつもりらしい。ちなみに、AH-1Zは9割以上がアップデートもしくは新造されており、従来のモデルとは機首以外別物という代物で、機首部も内部はアップデートにより多くが入れ替えられており、事実上見た目だけ似た別の機体となっている。
また、陸軍を退役した機体の一部は武装を取り外した上で民間に払い下げられ、ベル209として森林警備用に使用されている。民間型から武装型への改造機は多々あれど、機体基本設計が戦闘ヘリのまま民間用として使用されているのは他に例を見ない。
ちなみに、もともとの競合相手だったAH-56は開発遅延により量産が見合わせとなり、晴れてAH-1が正式な攻撃ヘリコプターとして採用された。
イラン・イラク戦争において、イラク軍戦車部隊を攻撃しに来たイラン軍のAH-1が、同じくイラン軍戦車部隊を攻撃しに来たイラク軍のMi-24と遭遇し交戦に至ることがあり、AH-1側が軽快さを生かして(全期間を通じ)6機のMi-24を撃墜したとイラン側は主張している。この他、航空支援の為に飛来したMig-21を機関砲で撃墜したとも記録されている。
『G.I.ジェーン』のラストでは、航空支援にAH-1Wが登場しているほか、主に脇役として多く登場している。さすがに主人公が搭乗しているなどの見せ場は少ないものの、「無いわけではない」例はある。
『アパッチ(1990)』の冒頭では、陸軍のAH-1として珍しくAH-1Qが登場している。AH-1QはAH-1GにTOW運用能力を追加したもので、機首の銃塔がミニガン・グレネードランチャー仕様であること、スタブウィングにTOWランチャーを搭載していることからそれとわかる。とはいえ、登場はこの回想シーンだけで、しかもこの映画、AH-64よりディフェンダー(ロケット弾・ガンポッド仕様)の軽快な飛行っぷりの方が目立っているように思えてならない。
つまりコブラはAH-64のための「かませ犬」に過ぎなかった訳で、不憫な立ち位置には変わらない様子。海兵隊では現在も運用が続いているが、今となっては陸軍のコブラとしての名誉回復は見込めない。やっぱり不憫である。
そもそもが「UH-1の派生型」として開発されている為、派生記号は共通して扱われていた。
AH-1の最初の型がGで始まり、その後もアルファベット順に連続していないのはそのためである。
陸軍
AH-1G「ヒューイ・コブラ(以下の陸軍型はすべて同様)」
1967年から配備が始まった最初の型で、機体の基本的構成はこの時点ですでに完成していた。この生産型では降着スキッド(そり)が構造簡易化・軽量化のため、また不時着の際に泥や水などが浸入しないよう固定式に変更されて、密封性が高まっている。
エンジンはライカミング社のターボシャフトエンジンT53-13(1000kw)の単発、武装は胴体左右のスタブウィングにロケット弾ポッドを装備する他、機首の機銃塔にミニガン・グレネードランチャーを連装(ミニガンのみ・グレネードランチャーのみの連装も可能)している。
さっそくベトナム戦争に投入され、戦果を挙げるいっぽう損害も激しく、ベル社は67年から73年までに1116機を製造・納入していたが、このうち306機が戦闘や事故で失われている。
68年9月12日には撃墜されたF-100のパイロットが、AH-1のスキッド・開いた風防ガラスに掴まって生還しており、これは「コブラ・デサント」初の例だという。
AH-1Q
AH-1Gを基にBGM-71を運用すべくM65望遠照準ユニット(TSU)、M73反射式光学サイトを搭載。エンジン等はそのままである。
AH-1S
AH-1QのエンジンをT53-L-703(1300kw)に換装してパワーアップを図ったもの。
88年までは以降の単発型コブラがすべて「AH-1Sの改造型」とみなされており、それで細かい仕様違いが非常に多かった。
前述のAH-1Qにもエンジンを換装してS型仕様となったものがあり、そちらはAH-1S(MOD)とも呼ばれる。
AH-1E
AH-1S/Pの能力向上型で98機改造。AH-1Sアップガン型、もしくはAH-1S(ECAS)とも呼ばれる。
特徴的なのはECAS(Enhanced COBRA Armament System)の名の通り、20㎜機銃M197をはじめとする武装強化で、火器管制装置も更新されている。AH-1S強化計画第2弾仕様。
海兵隊
AH-1J「シー・コブラ」
ベトナム戦争で陸軍がAH-1Gを配備し始めると、海兵隊でも間もなく注目するようになった。
海兵隊では洋上飛行の必要があるため、故障即墜落になってしまう単発エンジンには不満があった。国防総省では装備共通化の点から難色を示していたが、結果的には海兵隊の要望が通って「双発エンジン型AH-1」開発が認められるようになった。エンジンにはP&WのT400-CP-400を2基搭載している。
武装面では陸軍AH-1にさきがけて20㎜機銃M197を標準装備しており、アメリカ4軍共通の2.75インチロケット弾の他、5インチロケット弾「ズーニ」といった海軍・海兵隊独自の武装にも対応している。外翼部に限ってはAIM-9も装備可能。
72年から実戦投入され、ベトナム戦争では75年のサイゴン撤退まで参加している。
AH-1T「シー・コブラ」
ベトナム戦争での実績を踏まえ、更にベル社が開発していたモデル309「キングコブラ」を基にした改良型。AH-1Q同様にBGM-71の運用能力を備えている。
グレナダ侵攻で実戦投入された。
AH-1W「スーパー・コブラ」
179機が新造、43機がAH-1Tより改造された。
80年代に入ると、海兵隊でも新型の攻撃ヘリコプターの導入議論が始まったが、結果的には見送られる事になった。(AH-64の強力な対戦車能力よりも、AH-1の軽快さ・多用途性を重視したためだといわれる)
そこで開発されるようになったのが強化型AH-1T、のちのAH-1W「スーパー・コブラ」であり、これはAH-64同様にAGM-114「ヘルファイア」運用能力を備え、更にAGM-65F「マーベリック」や5インチロケット弾「ズーニ」、AIM-9など海兵隊系コブラ特有の武装も運用可能。
湾岸戦争など90年代の戦争・軍事介入に投入され、イラク侵攻やシリア内戦における対「イスラム国」作戦(2016年)にも参加している。
AH-1Sは当該記事を参照。
映画・特撮・ドラマ
- 怪獣大決戦ヤンガリー
- 地球防衛軍に参加した機体として登場。ネバダ州・カリフォルニア州の州境付近でヤンガリーと交戦する。
- コン・エアー
- AH-1Pが登場。囚人たちにハイジャックされたC-123Kを攻撃する。
- ザ・ロック
- AH-1Eが登場。アルカトラズに向かう主人公やNAVYSEALs隊員たちが乗ったCH-3を護衛する。
- 撮影に使用されたのは退役し武装を撤去した機体を改造したレプリカ機。
- 世界侵略:ロサンゼルス決戦
- AH-1W・AH-1Zが登場。サンタモニカに襲来したエイリアンと交戦する。
- 戦火の勇気
- AH-1Pが登場。撃墜されたUH-1Hの乗員に迫るイラク軍を迎撃する。
- 友軍同士の誤射を題材にした作品だったため米軍の協力を得られず、撮影に使用されたのは退役し武装を撤去した機体を改造したレプリカ機。
- ウルトラセブン
- キル星人が操る攻撃ヘリコプターとして登場。
漫画・小説
ゲーム
- War Thunder
- AH-1G・AH-1F・AH-1Zが登場。
- バトルフィールドシリーズ
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AH-1Sの艦装機動機への改修は、おそらく護衛官隊の任務遂行能力を大幅に向上させるとともに、AH-1Sは機体が細いために、むらさめ型護衛艦、もがみ型護衛艦の格納庫にSH-60Y哨戒ヘリコプターを搭載した場合でも収まるという点の意味を、わかりやすく優しく説明した。これは同時に、ベルヘリコプターテキストロン社の行っているAH-1Wスーパーコブラ攻撃ヘリコプターのAH-1Zバイパー攻撃ヘリコプターへの改修事業になぞらえて、素粒子分析法という従来の超音波診断よりも精緻な老朽部分の発見と補修につながるという安全性も強調していた。 いまや護衛官の戦いは空からの時代へ。そういうわけではないけれども、SH-60J哨戒ヘリコプターとSH-60K哨戒ヘリコプターの飛行訓練はいまや必須となりつつある。ただ、不明水中目標に対しては、SH-60Jは間合いを取った戦闘しかできず、有視界戦闘を考えた場合は、艦装の艦砲を活かせる航空機がぜひ欲しい、こういうことでAH-1Sに白羽の矢が立ったという構図で。 結果、SH-60J哨戒ヘリコプター派生型2機とAH-1S対戦車ヘリコプター派生型4機、そして虎の子のMH-53E掃海ヘリコプターの用途廃止機再生型1機を混成配備する、なにかこれは、アメリカ海兵隊のMarine expeditionary unit, MEU海兵遠征群隷下にあるaviation combat element ,ACE航空戦闘部隊のような編成になってしまう。 本文より抜粋6,534文字pixiv小説作品 - はるなの時間 深海棲艦大侵攻・本土決戦
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