※本稿は、髙橋大樹『あなたの実家、どうする? 知識ゼロでも絶対後悔しない! 損しない! 不動産相続の新・ルール』(WAVE出版)の一部を再編集したものです。
「売れる」と思った実家がゼロ円物件だった
関東近郊の山間部にある実家を相続したBさん。両親が亡くなった後、実家にはもう誰も住まないので、売却することにしました。「まあ、田舎だから安いとは思うけど、多少のお金にはなるはず」そんな軽い気持ちで、さっそく複数の不動産会社に査定を依頼することに。
ところが……査定結果を聞いたBさんは耳を疑いました。
「この土地は売り物にはなりませんね。お金を払っていただければ引き取ります」
え? 売るどころか、こちらがお金を払う? そんなことってあるの? 思い出の詰まった実家がまさかの「ゼロ円物件」だなんて。青天の霹靂でした。
しかも、2024年から相続登記が義務化されたため、嫌でも名義変更をしなければなりません。Bさんには住んでいない空き家の固定資産税を払い続ける義務が生じてしまったのです。
家をそのまま放置しておくわけにもいきません。建物が古くなって倒壊の危険があれば、近隣への損害賠償責任も発生します。台風で瓦が飛んで隣家を傷つけたり、通行人に当たったりしたら、所有者として責任を問われることになります。
毎年の固定資産税の通知を見るたびに、「ああ、実家、どうしよう……」と胸が締め付けられ、台風のニュースが流れるたびに「瓦が飛んで近所に損害を与えないか」と不安を覚えるように。「どうしたらいいのだろう……」Bさんは頭を抱えるばかりです。
実は相続で一番もめるのは「普通の家」
この場合、親が健在のうちに不動産会社に相談し、実家の「正確な価値」を査定しておけば対策が取れたかもしれません。こういったケースは郊外や地方の物件、昭和時代に開発された土地に多く見られるので、注意が必要です。
「相続」というと、「お金がたくさんあるお金持ちの家ほど相続でもめるのでは?」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。でも実は、その逆です。
相続で一番もめるのは、資産のほとんどが不動産という、総資産5000万円以下の家庭なのです。最高裁判所の司法統計によると、争いの78%は遺産総額5000万円以下の家庭で起きています。内訳を見ると、
・1000万円以下:36%
・1000万円超〜5000万円以下:42%
このように相続争いの大部分は、ごく普通の家庭で起きています。「実家と少しの預貯金しかない」「うちなんて、たいした財産はない」そんな家庭こそが、実は一番危険なのです。
2024年の1年間に、家庭裁判所に持ち込まれた遺産分割争いの件数は、なんと1万5379件。これは過去最高の数字です。さらに驚くべきことに、この数字は20年前の約1.7倍にものぼります。つまり、相続争いは年々深刻化しているのです。
1万5379件ということは……
・1日あたり約42件の家族が争っている
・1時間に約2件、新たな「争族」が生まれている
・あなたの住む市区町村でも、毎年必ず何件かの相続争いが起きているはず
ということになります。
