イギリスが移民政策の見直しを迫られている。一体なぜなのか。イギリス在住で著述家の谷本真由美さんは「EU離脱をきっかけにEUからの移民が減り、人手不足に対応するために非EU国から低技能移民を受け入れた。その結果、さまざまな面で問題が出てきている」という――。

※本稿は、谷本真由美『世界のニュースを日本人は何も知らない7』(ワニブックス【PLUS】新書)の一部を再編集したものです。

ロンドンの女性乞食
写真=iStock.com/wcjohnston
※写真はイメージです

ついに政府が認めた「移民政策の失敗」

イギリスでは2025年にスターマー首相が新たな移民政策を発表し、国内では大変な議論となりました。

労働党政権が発表した「移民白書」が驚かれたのは、なんと「低技能移民の流入が労働市場を歪める可能性が高く、移民のバランスと構成が極めて重要である」と述べ、イギリス政府が近年の移民政策の失敗を「公式」に認めたことです。

イギリスでは2000年以降、移民には前向きで、とくに労働党は移民政策の失敗は絶対に認めてこなかったので、これはイギリス政府だけではなく労働党が党の方針を大転換したことになります。

新たな移民政策は、イギリスにやってくる移民が永住権や市民権=国籍を取得して「新たな定住者」になるのを困難にするとはっきり明言している点も重要なポイントです。

市民権取得への壁がさらに高くなった

「新たな定住者を減らす」という点で強調されているのが市民権取得の厳格化です。

これまではイギリスに永住権や就労許可で5年間居住していれば申請できた市民権は、10年間の居住が必要になります。

日本は現在5年間なのですが、それに比べるとはるかに厳しい条件になるわけです。

しかもイギリスは以前より市民権を得るには、英語試験に合格し、「Life in the UK Test」というイギリスの歴史や社会に関する試験に合格しなければなりませんでした。これは実は現政権ではなく保守党政権のころに決まったことなのですが、当時のイギリスでも「差別的だ」として大議論になりました。

ちなみに私も永住権申請にあたり、「Life in the UK Test」を受けていますが、教科書自体がけっこうむずかしく、イギリスの大卒文系程度の英語力は必要になると思います。中世の歴史からパブの入店年齢、議会の仕組みなどけっこう細かいことを聞かれます。