高市早苗首相が台湾有事をめぐって「存立危機事態になりうる」と国会答弁したことに中国政府が反発し、日本産水産物の輸入を停止する方針を示した。日本政府はどのように対応すべきか。キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「WTO提訴やTPPを活用する方法がある。TPPについては中国よりも台湾の加入を先にするよう揺さぶりをかけることで、メンツにこだわる中国を交渉のテーブルに引き出すことができる」という――。
日中首脳会談を前に、中国の習近平国家主席(右)と握手を交わす高市首相=2025年10月31日、韓国・慶州
写真提供=共同通信社
日中首脳会談を前に、中国の習近平国家主席(右)と握手を交わす高市首相=2025年10月31日、韓国・慶州

中国の水産物輸入停止への対抗手段

中国が、高市総理の台湾有事をめぐる発言に対抗して日本産水産物の輸入を停止した。これに日本政府は何らかの対抗措置を講ずることはできないのだろうか?

1.WTO提訴

一つの手段として、中国の措置が国際ルールに基づくものではないとして、WTO(世界貿易機関)に提訴することである。現在、WTOの紛争処理手続きは、控訴審に当たる上級委員会の委員の任命をアメリカが拒否していることから、十分に機能していない。

しかし、第一審のパネル(紛争処理小委員会)に訴えることは可能である。現にパネルは、中国等からの提訴を受けて、アメリカが鉄鋼・アルミ製品に課した関税がWTO協定に違反するとの報告を公表している。パネルの決定は、上級委員会が開かれないため、確定したものとして効力を有する(WTO上認められた手段を講じる)ことにはならないが、訴えた国は、ある国の行為がWTO協定に違反していることを国際社会に明白にアピールすることができる。

問題となる中国の輸入禁止措置は、水産物の安全性を理由とするものである。関税などの輸入制限は、アンチダンピング措置のような例外もあるが、原則として特定の国だけを狙い撃ちにすることはできない。ところが、動植物の検疫措置や食品の安全性に関する措置は、特定の国に存在する病気や危険を理由として、その国からの輸入を狙い撃ち的に制限できる。

これが利用される。