伊勢湾最大の規模を誇った旧漁師町の面影を残す下之一色(しものいっしき)魚市場(名古屋市中川区)が、二〇二一年三月末で閉鎖される見通しになった。六十年前の伊勢湾台風を機に町は漁港としての役割を終えたが、魚市場はその後も営みを続け、常連客に愛されてきた。堤防の改修工事による立ち退きを市場の組合が受け入れ、百年以上に及ぶ歴史に幕を下ろす。 午前六時。薄暗い場内に新鮮な魚介類がずらりと並んだ。ヒラメ、アナゴ、キス、ハマグリ。磯の香りに混じり、できたてのだし巻き卵のにおいも漂う。壁には昔ながらの大漁旗。なじみの客がふらりと立ち寄り、空いた椅子に腰掛けて店主と世間話に興じている。 現在売り場を構えているのは鮮魚店や練り物屋、卵焼き専門店など十六店。営業は早朝のみで、売り場の半分以上は空いている。「売り上げは減り、店主も高齢化している。これも時代の流れ」。下之一色魚市場協同組合の服部繁治代表理事(70)