緊縮財政
きんしゅくざいせい
一言で言えば、財政出動の規模を縮小する財政政策のこと。
上記のいずれかに該当する問題がある場合に用いられることが多い。
例えば
- 通貨発行量の限界が低い金本位制を採用する国
- ユーロ加盟国の内、デフォルトの危機がある国
- 米国以外の国において米ドルで多額の借り入れを行っている国(中南米に多い)
- ドルペッグ制などの固定相場を維持するため、為替介入に必要な外債を必要とする国
- 社会保障の財政負担が重い先進国
などが緊縮財政を行う傾向にある。
IMFや世界銀行などの国際機関が、通貨危機に陥ったり対外債務問題を抱えた国に最後の貸し手として融資する際に、構造調整プログラムの一つとして要求する場合がある。
かつて提唱された『新自由主義(ネオ・リベラリズム)』というイデオロギーの影響により、日本を含む先進国ではこれをもとに大規模な事業民営化を始めとする緊縮財政が行われたことがあった。
特に英国ではマーガレット・サッチャー首相が、日本では橋本龍太郎首相と小泉純一郎首相、米国ではロナルド・レーガン大統領とビル・クリントン大統領がそれぞれ大胆な緊縮財政策を行ったことで知られる。
ちなみに中央銀行が市中銀行に保有証券を売却する「量的引き締め(QT)」も経済を引き締めるために使われるものだが、緊縮財政とは文脈や意図が全く異なるので注意(小泉首相の時代も、量的緩和が引き続き行われた)。簡単に違いを説明すると緊縮財政は財政政策で、量的引き締めは金融政策である。
電気や水道のようなインフラを民営化により不用意に市場競争に晒すのは、過当競争によりサービスの質の低下を招く危険がある(逆に競争によってサービス向上に繋がる可能性もある)。また外資系企業の買収を受けてしまえば、その企業の性向によっては実質的に敵国に重要なインフラを渡してしまう可能性も考えられる。
公共サービスの多くは「人々の生活には必要不可欠だが、収益化するのが難しい」という性質があるため、これを市場原理の中で運用するのは簡単なことではない。
基本的には経済的弱者にとって厳しい政策であり、特に小泉やクリントンは社会保障を薄くしたため貧困層が見放される格好となった。ただしサッチャーの緊縮財政は社会保障を手厚くするためのもので、必ずしも全てが該当するわけでは無い。
平成日本ではアベノミクス開始まで緊縮財政派が優勢であり、左右問わず「緊縮が足りないため不景気になっている」「国家財政と家計は同じ」という主張一色だった。しかし当時の日本ではバブル崩壊以降の慢性的なデフレに悩まされていたため、この考え方がデフレと不況を深刻化させたことが指摘されている。
自民党のみならず2009〜2011年の民主党政権下でも事業仕分けなどの緊縮財政思想に基づく政策が行われた。
ジョン・メイナード・ケインズは「不況のときではなく景気が過熱しているときが緊縮財政の適切な時期である」と主張している。
またポール・クルーグマンは政府の支出は家計とは違いマクロ経済を動かす主体であるため、景気後退時の政府支出の削減は経済危機を悪化させるとニューヨーク・タイムズで発言している。
リーマンショック後になると、「緊縮財政は景気回復策としては失敗であった」とする意見が優勢となった。その10年以上後のコロナ・ショック時には、各国で大胆な積極財政が実行された。