「管理職になりたくない」という若い世代が増えている。出世する意味はどこにあるのか。大手損害保険会社・損保ジャパンで、生え抜きの女性社員として初の常務執行役員になった酒井香世子さんは「私は出世をしたいと思ったことは一度もない。『出世』という言葉には違和感がある」という。フリーライターの宮﨑まきこさんが“出世の意味”を取材した――。
酒井香世子さん
撮影=プレジデントオンライン編集部

「私、『出世』という言葉には違和感があるんです」

地上43階の損保ジャパン本社ビルは、奈良の大仏13体分の高さらしい。セキュリティゲートを抜けて通された先に、カラフルで遊び心のあるデザイン、壁のない開放的な空間が広がった。フラットで階層のない企業文化をイメージさせる。

「Googleのオフィスみたいですね」

トラディショナルな金融機関であるだけに、『半沢直樹』的な世界を想像していたが、意外にも働きやすい組織なのかもしれない。

素直に感想を伝えると、広報担当者は「この場所以外はほとんど従来型のオフィスですよ」と苦笑いした。

2025年8月、損保ジャパンの常務執行役員・酒井香世子氏(55)にインタビューするため、プレジデントの担当編集者とともに損保ジャパン本社を訪れた。

6人の社員と名刺交換をしていると、薄いベージュのスーツ、左胸に社章を付けた女性が現れた。今回の取材テーマは、『女性と出世』だという。しかし取材開始早々編集者の取材趣旨説明に、さっそく注文が入る。

「私、『出世』という言葉には違和感があるんです。今回の特集テーマも、ピンと来なくて」

空気が一瞬で張り詰める。さて、どう展開するか――。

ビッグモーター問題で白羽の矢

2023年、中古車販売大手ビッグモーターが、自動車保険の保険金を不正に水増し請求していたことが発覚し、その手口に社会的批判が拡大した。

損保ジャパンは、不正を把握しながらビッグモーターへの事故車両に関する修理の紹介を再開していたことが判明し、監督責任や癒着の疑いが大きく報じられた。この問題は経営陣の辞任や金融庁の行政処分に至り、保険業界全体の信頼を揺るがす事態に発展した。