「ピクルスはピクルスです!」
「ピクルスはピクルスです!」
以前、受けたあるテレビ局アナウンサー試験のカメラテストで、私は胸を張って面接官にこう言い放った。面接官たちは大爆笑。「あ、完全に落ちた」。そう思ったが、カメラテストの結果は「合格」だった。
同局を含め全国のテレビ・ラジオ局を100局以上受験して得た教訓は、「完璧さ」ではなく「弱さ」が人の心に刺さるということだった。この法則は、その後の就活にも生きた。このことは、日々、プレゼンや商談に追われる多くのビジネスパーソンの読者にも共感いただけることではないだろうか。
東大生に教えられた書類審査の極意
話は、大学3年の夏に遡る。当時のアナウンサー試験の倍率は高いところで数千倍。書類選考の通過率は数十人に一人という狭き門だ。現在は、テレビ朝日で気象キャスターを務めている私だが、当時は「アナウンサー志望」だった。
大きな悩みのひとつが、志望動機だった。ある局のエントリーシートで書いたのは、高校時代の講演会で聞いた話だ。1998年、長野での冬季五輪のスキージャンプ団体で金メダルを獲得した日本代表のエピソード。原田雅彦選手の「失敗」とされたジャンプが、実は悪条件下でのスタートサインに対する驚異的な対応だったという裏話を軸に、「現場の本質を伝えたい」という志望動機を書いた。
結論→エピソード→結論。教科書通りの構成だ。無難にまとまったが、これでいいのか。悩んだ末、アナウンス学校で知り合った東京大学の先輩に見せた。
彼は少し考えて、こうバッサリ切って捨てた。
「続きを読みたくならない。冒頭を変えよう」
そして、次のようにすることにした。
修正前:「私は現場の本質を伝えたいです。高校時代に長野オリンピックで……」
修正後:「『あいつ(原田選手)だから飛べた』――当時の日本代表スキージャンプ団体の監督、小野学氏は講演でこう語った」
たった一行の変更。だが、この違いが決定的だった。
膨大な書類に目を通す試験官にとって、1行目で興味を引けなければ2行目は読まれない。セリフから始めることで、読み手を一気に物語の中に引き込む。この一回の添削で、私は「冒頭の一行」の重要性を痛感した。
