うちのリビングの奥にある壁一面の本棚は、右側と左側でまるで景色が違う。 向かって右側は私の縄張りで、小説が多く並ぶ。文庫本の背表紙が、細い縞模様を成している。 一方、夫の縄張りである左側に並ぶのは、『アンモナイト学』、『絶滅古生物学』、『古生物学の百科事典』、『波紋と螺旋とフィボナッチ』、『イカタコ図鑑』……。取り出すのも億劫になりそうな重量級の図鑑や、妙なタイトルの専門書が、どっしり幅を利かせている。 昔、二人で観た映画で、相手の本棚のラインナップが自分の本棚とそっくりで恋に落ちるシーンがあった。その理論でいくと、私と夫は恋に落ちないだろう。 夫は古生物学者で、アンモナイトを研究している。山に入って化石を採集したり、新種の論文を書いたりしている。 と話せば、大抵の人は珍しがるので話題に困らない。小手先の処世術だけでのらりくらり生きてきた私にとって、夫の専門性は眩しい、と同時に、恰好の話の