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新内閣発足
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池袋~田端間の山手線には、列車からも確認できる「M字型」の奇妙な線形が存在する。1903年開業のこの区間は、切り通しや谷戸の地形を巧みに活かし、当時最大の10‰勾配を克服。都市計画と鉄道技術が交錯した、戦略的路線設計の記録である。 山手線の北側、池袋から田端までの区間には、奇妙な線形が見られる。一度南に下がり、まるで英語の「M」のようにくぼんでいるのだ。列車から眺めると、線路が丘や谷を縫うように走り、直線ではないことを実感できる。窓外には、切り通しのコンクリート壁に囲まれた場所や、谷戸の緑が広がる場所が交互に現れ、風景の変化が体感できる。沿線の町屋や小川がかつてどのように存在していたかを想像すると、設計者が地形と都市生活に配慮してルートを選んだ工夫が伝わってくる。 ヨドバシカメラのCMソングでは「まあるい 緑の山の手線~」と歌われていた。しかし、このくぼみを目の当たりにすると、「全然丸くな
尾道を訪れる観光客にとって、新幹線の最寄り駅は新尾道駅ではなく福山駅という現実。しかし、観光客以外に目を向ければ、その「風景」は変わってくる。 山陽新幹線の福山~三原間に、地元の請願駅として新尾道駅が開業したのは1988(昭和63)年3月である。この年は新幹線の新駅設置が相次いだ年で、同じ山陽新幹線の東広島駅や、東海道新幹線の新富士駅、三河安城駅も請願駅として開業している。 新尾道駅は他駅に比べ、開業以来しばしば 「失敗例」 として取り上げられてきた。その理由は明確である。まず前後の駅との距離が近すぎる。福山~新尾道間は約20km、新尾道~三原間はわずか11kmに過ぎない。東京や新大阪方面から尾道市に向かう場合、ほとんどの利用者は「のぞみ」が停車する福山駅で下車し、JR山陽本線に乗り換えて尾道駅まで向かう方が合理的である。 加えて、新尾道駅の立地は尾道市の中心市街地から約3km離れており、
三重県名張市の桔梗が丘住宅地で、駅前の百貨店跡が閉鎖されたまま放置されている。市民からは再開発を望む声が上がるが、市の財政は厳しい状況にある。 三重県名張市の桔梗(ききょう)が丘住宅地で、駅前の百貨店跡が閉鎖されたまま放置されている。市民から再開発を求める声が出ているが、市は危機的な財政状況だ。 近鉄桔梗が丘駅前に出ると「近鉄プラザ」の看板が残る建物が見えてくる。外観に大きな傷みが見えず、まだ使えそうだが、フェンスで囲まれ、なかへ入ることができない。名張市の戸建住宅団地・桔梗が丘。地域のランドマークだった近鉄百貨店跡が、無残な姿をさらす。 施設は1990(平成2)年、近鉄グループのスーパーを3階建てに増床改装し、「近鉄プラザ桔梗が丘店」として開業した。1998年には百貨店に業態を転換、売り場面積約1万2000平方メートルの「桔梗が丘近鉄百貨店」になる。しかし、売り上げが伸び悩んで2012年
東京湾は、面積約922平方キロ、湾奥平均水深15mの内海で、首都圏4000万人の物流と都市開発を支える戦略的空間だ。その名称と港湾整備の歴史は、江戸期から国際貿易まで、経済の基盤と直結している。 東京都の名称が正式に定まったのは意外に最近のことだ。国土地理院の地図を見ると、明治初期の海図には「東京海湾」と表記されている。長らく海図上ではこの呼称が使われてきたが、昭和40年代に「東京湾」と改められ、現在の表記に落ち着いた。 名称変更の理由は、地形に適した表現を用いる必要があったためだ。英語で湾は「Bay」、海湾は「Gulf」と呼ばれる。Gulfは大規模な湾を示す表現であり、ペルシア湾は「Persian Gulf」、メキシコ湾は「Gulf of Mexico」と表記される。東京湾はこれほどの規模ではないため、「海湾」とするのは不適切とされたのである。 では、明治以前はどのように呼ばれていたのか
1982年開業の上毛高原駅は、実在しない地名を冠した秘境駅として知られる。署名数1万7702人の駅名変更運動が起きた一方、近隣温泉地は衰退傾向にある。まちづくりや水上温泉再生の進展次第で、駅名の「既成事実化」が地域ブランド力を左右する。 1982(昭和57)年、上越新幹線の開通と同時に開業した上毛高原駅(群馬県みなかみ町)は、在来線との接続がない新幹線単独の駅として現在まで「秘境駅」として知られている。駅周辺は大きな開発が進んだとはいえず、40年経った今も山林の趣を残している。 実はこの駅名、開業前に設定された仮称で、もともと 「実在しない地名」 だった。駅が所在する月夜野町は2005(平成17)年の合併でみなかみ町に組み込まれた。地元では「存在しない地名のまま」は観光上マイナスになるとして、過去に駅名変更を検討した経緯がある。 比較的最近では、町商工会と観光協会が町議会に駅名変更を請願し
100年に一度の再開発はなぜ頓挫するのか? 新宿・渋谷・中野で続々延期――迫りくる“都市型廃墟”の危機とは 大型再開発が都市の景色を塗り替える一方で、施工遅延や白紙撤回が相次ぐ。背景にあるのは、建築資材価格の3年で30%超の高騰、人手不足の深刻化だ。都心だけでなく地方都市でも駅前整備が行き詰まり、都市間競争の勝ち筋は揺らいでいる。画一的な成長モデルの限界が、いま、あらわになろうとしている。 現在、新宿駅では駅と周辺道路・商業施設を一体化した大規模整備が進んでいる。しかし、南街区の高層ビル開発は施工業者が決まらず、完成時期は未定のままだ。 100年に一度の再開発とされる渋谷駅周辺では、「渋谷スクランブルスクエア第II期」(中央棟・西棟)のスケジュールと計画が変更されている。 JR中野駅前の中野サンプラザ跡地では、「NAKANOサンプラザシティ(仮称)」の建設計画があったが、現在は白紙になって
「首都圏第三空港」の議論はなぜ再燃したのか? インバウンド急増と羽田・成田の限界、示された切実な必要性とは 首都圏の空港インフラは羽田と成田の二大拠点で長らく支えられてきたが、国内外の航空需要増加や老朽化問題を踏まえ、新たな「第三空港」の必要性が浮上している。2001年に国交省へ提出された14箇所の候補地案から軍民共用化が議論される横田基地など多様な選択肢が検討されてきたが、羽田・成田の機能強化やコロナ禍の影響で議論は停滞。今後は混雑緩和や緊急対応体制の強化、そして多様な航空会社による競争促進を視野に入れ、ハード・ソフト両面からの整備推進が求められる。 羽田空港と成田空港は、数十年にわたり首都圏の空の玄関口として機能している。その次の首都圏第三空港の構想は、数十年前から検討されてきた。 例えば2001(平成13)年には、国土交通省に対して各業界団体から首都圏第三空港の候補地として14か所(
世界のEV販売は2024年に1700万台を突破し、前年比25%増を記録した。国際エネルギー機関(IEA)は2030年にEVが新車販売の40%を占めると予測する。だが、EVの静寂性がもたらす新たな課題も浮上している。 世界のEV販売台数は2024年に1700万台を突破した。前年比で25%の増加に相当する。国際エネルギー機関(IEA)は、2030年までにEVが全自動車販売の40%を占めるとの予測を示す。 そんななか、意外な現象も報告されている。SNS上で、EVの助手席や後部座席に乗って車酔いしたとする投稿が増加しているのだ。EVの購入を検討する層にとっては注目すべき情報である。 過去の学術研究を調査すると、EVに乗車した際に気分が悪くなる理由に科学的根拠があると示す報告が複数見つかる。
なぜ現代のクルマは“品格”を捨てたのか──「ロボット顔」が暴く教養なき富裕層と、“12歳化”社会の現実とは 7月2日に配信された山口周氏の音声番組「Voicy」では、現代の自動車デザインが「全世界の12歳化」を象徴すると指摘。高級車やEVの「ガンダム化」ともいえる威圧的で派手な造形は、成熟した市民性の喪失と自己顕示文化の台頭を映し出す。社会の価値観が大きく揺らぐ中、真の美意識と責任を問い直す必要性を鋭く提起する内容である。 7月2日、山口周氏が配信する音声番組「Voicy」を聴いた。タイトルは「全世界が『12歳の子供』化してる?」。同氏は、『ベストセラー人生の経営戦略』や『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』などの著作で知られる経営コンサルタントである。 その配信のなかで、ふと耳に残る一言があった。 「世界の自動車が総『ガンダム化』している
指定席に座れない、荷物スペースの無断使用──年間1億人超が利用する新幹線で、制度の“綻び”が露呈し始めている。治安維持機能の脆弱さと現場対応力の限界が、乗客の不満を顕在化させつつある今、問われるのは「秩序を誰が守るのか」だ。 新幹線の指定席を購入しても座れない──そんな体験談がSNSで拡散され、利用マナーや制度運用をめぐる議論が広がっている。 筆者(高山麻里、鉄道政策リサーチャー)は東海道新幹線「S Work Pシート」の頻繁な利用者だ。座席が広めで快適なためか、何も知らずに着席する外国人に何度も遭遇している。そのたびに、自席であることや7号車の性質を英語で説明せざるを得ない。 さらに出張中の車内では、車両前後の荷物スペースにおける無断使用、ルールを理解せずに座席を占拠する旅行者への注意など、秩序の乱れが目につく。乗務員の存在感も薄く、同乗している警備員の役割が見えにくいのが実情だ。 これ
日本市場でアメ車が売れない背景には、単なる「大きさ」や「燃費の悪さ」以上に、税制の不公平や金融制度の未整備といった制度的な障壁がある。2023~2024年の輸入車市場ではアメ車のシェアが低迷し、消費者の関心もわずか6%にとどまる。欧州車が日本仕様を整え、広範なサービス網で信頼を築く一方、アメ車は適応や支援体制の遅れから選択肢にすら入りにくい。真の課題は「売れない」ではなく「選ばれにくい」市場構造にあり、制度改革と多様な支払い手段の導入が急務である。 筆者(清原研哉、考察ライター)は前回、当媒体に「トランプ大統領がオラついても無駄? 「アメ車」が日本で売れない根本理由、データを読み解く」(2025年7月25日配信)というテーマで、制度、経済、消費者意識の各観点から実情を分析した。要約は以下のとおりだ。 ・日本でアメ車は売れていない。欧州車が人気で、日本の道路事情に合うため。 ・2023~24
神戸市の新神戸駅直結商業施設「コトノハコ神戸」(中央区北野町)が廃墟同然の厳しい状態だ。市のイメージにも悪影響を及ぼしているだけに、神戸市は活性化に乗り出した。 山陽新幹線を新神戸駅で降り、神戸市営地下鉄のホームへ向かう途中、新神戸エリアにある総合商業施設「コトノハコ神戸」に入って驚いた。大半の区画がシャッターを閉じ、廃墟のようにも見える。この暑さのなか、涼を取りながら、地下鉄ホームへ進めるのに、歩いている人はほとんどいない。 7月末の週末、東京都世田谷区から観光に来た老夫婦が迷子になっていた。案内表示が少なくて地下鉄までの順路がよくわからないそうだ。地下へ向かうエスカレーターへ案内すると、 「神戸市の玄関口なのに、空き店舗ばかり。よくこんな状態で放置しているな」 とあきれた口ぶりで首を振った。 フロアガイドを見ると、地下1、2階は閉鎖中。3階は21区画中10区画、2階は18区画中5区画、
羽田空港の再開発が迷走している。新施設は閑散とし、設備の統一感もなく、複数の運営主体が乱立。国際拠点としての期待とは裏腹に、現場では連携不全と機能分断が顕在化している。 ウェブサイトにも空港施設にも案内がほとんどない。この連動性のなさの背景には、羽田空港周辺施設の運営主体のバラバラさがある。運営会社を見てみると、以下のように完全に分かれている。 ・羽田イノベーションシティ:羽田みらい(鹿島建設、大和ハウス工業、京浜急行電鉄、日本空港ビルデング、空港施設、JR東日本、東京モノレール、野村不動産パートナーズ、富士フイルムなどの共同出資) ・羽田エアポートガーデン:住友不動産商業マネジメント ・第1・第2ターミナル:日本空港ビルデング ・第3ターミナル:東京国際空港ターミナル(日本空港ビルデングが過半数の株を保有) 第3ターミナルに関しては、日本空港ビルデングとの資本関係により、ある程度の連携は
全国交通系ICカードの取り扱いを中止した熊本県の交通5社。代替として導入されたタッチ決済型クレカの利用率はわずか9.7%にとどまる。影響を大きく受けたのは、高齢者ではなく10代の学生だった。制度設計の盲点が、移動の自由を奪っている。 2024年11月、熊本県の鉄道・バス事業者5社(産交バス、九州産交バス、熊本バス、熊本電鉄、熊本都市バス)が、一斉に全国交通系ICカードによるキャッシュレス乗車を中止した。これは地方都市の交通事業者にとって、更新費用の高さが大きな負担となったためである。 代わりに導入されたのが、 「タッチ決済対応のクレジットカード」 だ。近年、三井住友カードが主導し、多くの交通事業者がこのシステムを採用している。成長著しい新たな決済手段といえるが、熊本県の5社が導入したタッチ決済システムが、交通系ICカードの代替として機能しているかは疑問が残る。 現状では、状況は必ずしも順調
宇都宮LRT「500万人突破」が示す地方都市の逆襲──なぜ岐阜・京都で“路面電車復活”が急浮上したのか? 宇都宮ライトレールの成功が全国の地方都市に波及し、2040年までに那覇市や京都市でLRT導入が具体化している。人口減少・高齢化の中、交通網再編と都市再設計の切り札として、初年度500万人超の利用実績が示す多面的な経済効果と環境負荷軽減に期待が高まる。 宇都宮ライトレール(LRT)の成功は象徴的な事例となり、岐阜や京都をはじめとする地方都市で、かつて撤退や見送りとなっていたLRT導入構想が相次いで再浮上している。 高齢化、車依存、バス路線の限界といった構造的課題が臨界点に達するなか、都市の再設計を迫られる地方自治体にとって、LRTは交通手段ではなく、持続可能なまちづくりの切り札として再び注目されている。 本稿では、宇都宮市でのLRT新設を契機として再び注目される全国的なLRT再評価の流れ
スカイツリーは「埼玉」に建つはずだった? 東武鉄道も絡んだ争奪戦、124万人署名むなしく幻に終わったワケ 東京スカイツリーの建設候補地は14地域に及び、自治体や地元経済団体が競って誘致を進めた。2004年にはさいたま新都心で124万人超の署名が集まるなど熱狂的な動きもあったが、電波障害や経済的持続性の課題が指摘され、最終的に墨田区押上が選定された。東武鉄道の全額出資による新会社設立を経て完成した同タワーは、観光を超えた地域経済の活性化とインフラ機能を両立し、墨田区の経済構造に新たな価値をもたらしている。 2012(平成24)年に開業した東京スカイツリーは、現在地の墨田区押上に決定するまでに、公式・非公式あわせて14の地域が誘致に名乗りを上げていた。建設予定地をめぐっては、各地で自治体や地元企業、住民有志による多様な動きが見られた。 例えば、台東区は2001年11月に誘致準備会を結成。隅田公
東京の鉄道駅に広がる標高差は、単なる地形の違いではない。六本木駅の地下42.3mから、大展望台駅の標高881mまで──その背後には、交通政策、土地利用、事業者戦略など多層的な判断が潜む。交通網の「高さ」を読むことが、都市の構造と未来を読み解く鍵となる。 日本の地下鉄駅で「最も低い駅」としてよく話題に上がるのは、都営大江戸線の六本木駅だ。地表からの深さは42.3mである。ただし、これはあくまで地表からの深さを指す。地形散歩ライターの内田宗治氏による著書『地形で解ける!東京の街の秘密50』(実業之日本社)では、六本木駅は台地上に建設されているため、地表からの深さでは最も低いが、海抜では麻布十番駅(地表から32.5m)の方が低いと指摘している。 一方、東京の地下鉄駅で「最も高い駅」は、地上から14.4mの高架上にある日比谷線の北千住駅である。
都営新宿線が千葉県市川市まで延びた背景には、未完に終わった直通計画の痕跡がある。幻となった千葉ニュータウン直結構想と、今も輸送力を支える設備投資の遺産。そのギャップが、路線計画と都市開発の“現在地”を照らし出す。 都営新宿線は、都心を東西に貫く地下鉄路線である。東京に住む人にとって、日常的に利用する機会の多い路線のひとつだ。 その東の終点は、東京都ではなく千葉県北西部・市川市にある本八幡駅だ。都が運営する地下鉄でありながら、県境を越えて隣の千葉まで延びている。冷静に考えると、やや異例な構造といえる。 全国の公営鉄道のなかで、都道府県の境界を越えて走る路線は、この都営新宿線だけである。本八幡駅は、 ・JR総武線の本八幡駅 ・京成線の京成八幡駅 と縦に交わるように配置されており、交通結節点としても独特な構造を持つ。 この路線が整備されたことで、市川市は船橋市と並ぶ首都圏のベッドタウンとして発展
JR発足から38年。分割民営化によって露呈した地域間格差と制度疲労をどう克服するか。8400億円超の黒字と612億円の赤字が同居するJR7社体制の限界を前に、国主導による再編の是非と持株会社設立の現実性を問う。 筆者・大塚良治(経営学者)は、当媒体で以前に「北陸新幹線延伸を阻む「JR7社体制」という制度疲労──米原か、小浜か、湖西か? 利便性・費用・スピードを巡る三つ巴の迷走」(2025年6月22日配信)という記事を執筆した。そのなかで、北陸新幹線を新大阪駅まで1日でも早く延伸すべきだと指摘した。そのためには、最も早期に実現可能なルートを選択すべきであり、「JRグループの再編」も必要になると述べた。 本稿では、1987(昭和62)年4月1日の発足から38年が経過したJRグループの再編について、あらためてその必要性を検討する。 日本の鉄道事業は、1869(明治2)年11月10日の開業から19
2024年以降、日本のEV市場は「失速」と報じられるが、世界全体では前年比24%増の成長が続く。日本は緩やかな燃費基準でEV普及が遅れ、輸入車が8割を占める。国際競争力維持には制度改革とインセンティブ強化が急務だ。 2024年春以降、日本のメディアは「電気自動車(EV)失速」という言葉を頻繁に使い、EV市場の減速を繰り返し報じてきた。テスラや比亜迪(BYD)など大手EVメーカーの販売減少を、その象徴として取り上げる例が目立った。ただし、それは一面的な切り取り報道であったことも否定できない。 現在もなお、多くのメディアはこれを既成事実として扱い、販売の伸び悩みを強調する一方で、ハイブリッド車(HV)やエンジン車の延命を有効な対策とする論調が目立つ。EV普及を妨げる要因としては、 ・車両価格の高さ ・航続距離への不安 ・充電インフラの不足 ・バッテリーの安全性 などが挙げられ、もはや決まり文句
なぜ日本の鉄道オタクは“孤独な消費者”になったのか──「鉄道趣味」の社会的接続をめぐる国際比較【連載】純粋鉄オタ性批判(4) 撮り鉄を中心に鉄道オタクのトラブルが増加し、社会的評価が低下している。ネット普及から30年、拡大した「注目欲求」が過激行動を助長。一方、欧米では鉄道趣味が地域連携や保存活動を通じ共創文化として成熟。日本でも参画型の趣味活動や公共空間の再整備が急務であり、鉄道文化の持続的発展にはオタクの社会的役割の再定義と教育改革が求められている。 鉄道は、単なる移動手段ではない。そこには、技術、歴史、文化、そして人々の記憶が凝縮されている。しかし、近年、一部の鉄道オタクによる過激な行為や偏った言動が、この豊かな世界を歪めてはいないだろうか。本連載「純粋鉄オタ性批判」では、本来の鉄道趣味の姿を問い直し、知的好奇心と探究心に根ざした健全な楽しみ方を提唱する。万国の穏健派オタクよ、団結せ
デジタル社会の「縁の下の力持ち」データセンター。日本市場が4兆円超に拡大するなか、千葉県印西市では市税収の51%を占める一方で、駅前開発を巡り住民の反対が噴出。なぜ、不可欠なインフラが「街の不協和音」となるのか。その深層に迫る。 国内でデータセンターの建設が加速している。データセンターとは、膨大な情報を保管・処理・管理するための専用施設であり、インターネットやクラウドサービスの根幹を支えるインフラだ。施設内にはサーバー、ネットワーク機器、ストレージ装置などが集中的に設置され、これらを365日24時間体制で安定稼働させるため、電源供給、冷却設備、耐震・防火構造、セキュリティ体制などが整備されている。Google、Amazon、マイクロソフトのほか、国内ではNTTやソフトバンクが自社・顧客向けに運営する。SNS、動画配信、オンライン会議、電子決済、クラウドストレージなど、私たちの生活に不可欠な
「置き配標準化」で都市物流のルールが変わる。対象は約3,400万世帯。だが本当に必要なのは、制度の先祖返りかもしれない――再配達を有料化し、人が動けば都市全体の輸送効率が変わる。 2025年6月、宅配のしくみが静かに、けれど確実に変わろうとしている。「置き配の標準化」という国土交通省の方針は、もはや消費者の便利さや配達員の負担といった話を超えて、都市での暮らしのかたちそのものを変えようとしている。 しかし、制度をつくるうえで、本当に確かな考え方とは、案外むかしに立ち返ることなのかもしれない。 例えば、「不在なら荷物を持ち帰る」という、かつての宅配のルールを復活させる。誰もいない家の前に荷物を置いて立ち去るよりも、荷物を持ち帰って不在票を入れる。そして、荷物を受け取りたい人は営業所まで取りに行くか、もう一度届けてほしいときはお金を払って再配達を申し込む。 考えてみれば、しくみはとても単純であ
高田馬場駅前で「不法占拠」とされた店舗群が排除された。背景には、地価49.4%上昇や再開発計画、鉄道会社の資産戦略転換があると考えられる。だが、都市の隙間に宿った零細商業と市民の支持は、単なる違法性を超えた社会的実態を築いていた。 東京・高田馬場駅前の飲食店が「不法占拠」とされ、解体工事が始まったことで話題となっている。解体されているのは、高田馬場駅前の寿司店(昼は立ち食いそば店)などが含まれる一角だ。これらの店舗は長年営業を続けてきたが、「不法占拠だったとは知らなかった」と驚きの声があがっている。 2000年代以降、都心部の再開発の進展にともない、戦後の混乱期にできた「街の怪しげなエリア」や店舗の解体事例が増えている。こうした場所は法的には「不法」状態でありながら、社会的には長らく黙認されてきた。しかし、契約関係を重視する現代社会では、これが許容されなくなった。 それでも、なぜ長年続いた
EVを積んだ自動車運搬船が沈没──再び問われる海上輸送の構造的脆弱性。3048台のうちEVは70台。大量輸送の経済性が火災リスクを高める今、競争軸は「安全に届ける」構造改革へと移りつつある。 太平洋を航行していたリベリア船籍の自動車運搬船「モーニング・ミダス」が、アラスカ沖で沈没した。積載されていた車両は計3048台。このうち電気自動車(EV)が70台、ハイブリッド車が681台を占めていた。 出火は6月3日。デッキから煙が噴き上がり、乗組員22人は全員退避した。その後、火災は収まらず、6月23日に船体は完全に水没した。長引く炎上と悪天候による浸水が原因である。 火災の発生源は特定されていない。EVだったかどうかも不明である。ただし、リチウムイオン電池による爆発や有毒ガスの発生が懸念され、消火活動は大きな困難をともなった。 EVの本格普及が進むなかで、輸送インフラの脆弱性がまたひとつ、海底に
東京の丸ノ内線は、地下鉄と呼ばれながら茗荷谷から後楽園まで地上区間を走る異例の路線である。1950年代の復興期に、限られた予算や地形制約の中で建設費を抑えるため、開削工法と新設道路の利用が選ばれた。後楽園駅の高架も路面電車との共存や東西線接続計画に基づく。制度上は地下鉄と認められつつも、住民の認識とずれがあり、乗換利便に影響を与えている。丸ノ内線は戦後東京の都市政策と制度の歴史を示す象徴的存在である。 東京の移動を支えるしくみのなかで、丸ノ内線は少し変わった存在である。地下鉄とされているが、茗荷谷駅から後楽園駅のあいだでは、なぜか地上を走っている。後楽園駅は高い場所にある駅であり、鉄道にくわしくない人でも、そのようすに違和感をおぼえることがある。 しかし、このような光景を「東京の地下鉄はおかしい」と笑ってすませることはできない。この事実のなかには、戦後の東京で進められた道路や鉄道の整備、交
北陸新幹線延伸を阻む「JR7社体制」という制度疲労──米原か、小浜か、湖西か? 利便性・費用・スピードを巡る三つ巴の迷走 北陸新幹線の延伸ルートを巡り、「小浜」か「米原」かで議論が再燃している。年間1200万人超の移動需要と、JR西・東海あわせて168億円の減収試算。今なお未着工の敦賀~新大阪間を巡って、採算と利便の両立、そしてJR体制の限界が改めて問われている。 2025年5月12日、東京都内で開かれた北陸新幹線建設促進大会は、「小浜・京都ルート(以下、小浜ルート)」による新大阪までの早期整備を国に求める決議を採択した。これに先立ち、石川県の馳浩知事は「米原ルート」を含めた再検討を求める文書を会場で配布していた。決議の採択時には、石川県選出の国会議員の一部が退席した。沿線地域が一枚岩でない現状が浮き彫りになった(『福井新聞電子版』2025年5月13日付け) 2024年3月16日、JR西日
なぜEVは「日本で嫌われる」のか? 充電インフラ・航続距離だけじゃない「アンチ」の根深さ! 語られない不安の正体とは 日本の新車販売に占めるEV比率はわずか約2%。普及が進まない背景には、価格やインフラの課題だけでなく、産業構造の硬直性やエネルギー政策の矛盾、さらには技術覇権を巡るナショナリズムまでが絡んでいる。産業と社会の深層に根ざす「EV忌避」の実態を検証する。 SNSやネットニュースには、依然として電気自動車(EV)に否定的な言説が多く見られる。よく指摘されるのは、車両価格の高さや、一回の充電で走行できる距離の短さ、走行中のバッテリー切れへの不安などだ。さらに、集合住宅を含めた充電インフラの未整備も問題として挙げられている。 こうした批判がある一方で、EVの技術的な課題は着実に解決されつつある。欧州や中国では、すでにEVの普及が進んでいる現状がある。 それにもかかわらず、否定的な意見
中国の上陸戦や米軍来援を前提に「戦車不可欠論」を主張する声が根強い。だが、それらは現実性を欠いた想定にすぎない。戦史と軍事合理性を踏まえれば、平時の戦車整備は必要性に乏しい――元自衛官が冷徹に切る「戦車信仰」の危うさ。 戦車に関連する記事は反響が大きい。以前の「軍事オタクはなぜ“戦車”に執着するのか? 「いいえ、航空機・艦船にも執着します」(2025年5月11日配信)にも多くの反応を得た。元中級幹部自衛官の筆者(文谷数重、軍事ライター)としても好評を得られて何よりである。 そのなかには「戦車は不可欠である」旨の意見もあった。 ・敵は日本本土に上陸してくる ・100%の海上撃破は不可能である ・米軍来援までの持久が必要だ といった内容だ。これらの指摘は妥当なのだろうか。 残念だが、反論となるものではない。いずれの前提条件も非現実的だからだ。「『戦車不要論』は間違い」の結論から、無理に戦車が不
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