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新内閣発足
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「あなたは、そろそろ、対談のゲストじゃなくて、ホストをやらなきゃいけなくなると思うんですよ。“奈美の部屋”をね」 そう言ったのは、糸井重里さんだった。 2024年、前橋BOOKFESの公開対談でのこと。その場にたくさんのお客さんもいたので「いやです……」と逃げ回って終わった。 いやいや!対談なんて、まだやらなくていいでしょ〜! と、思ってた。 その後、ラジオプロデューサー・石井玄さんのpodcastに呼ばれて話しに行くまでは。 終了後、石井さんが衝撃の一言を放った。 「岸田さん、会話のキャッチボールできてないです」 ええーっ!? 「そんなバカな!ちゃんとボール投げ返してますよ!」 「いえ、ぼくのボールを奪って、そのまま公園の端っこまでオリャーーーーーーッて走り去って、ジャグリングしながら遊んでるのを見せつけているのが岸田さんです」 それは、もう、バケモンじゃないですか? 気絶するほどショッ
結婚しました。 わたしが一番びっくりしてます。 夫のことは、どこの誰に話しても、 「どういうこと!?!?!?!」 つって、笑われるんですよ! 真剣な言葉で説明すればするほど、実態から砂ぼこりを上げながらマッハで遠ざかっていく現象……。 ということで、結婚について、忘れられないことを書きます。 どんな時も、読んで支えてくださった皆さんへの感謝とご報告に代えて。 このnoteへの感想をSNS(わたしの投稿への引用等)に書いていただくのはめーっちゃ嬉しいです!家族で大ッ切に読ませていただきます!
大阪・関西万博に行ったことを走り書きしました。ワーワー言うてるだけで、参考になるような情報はここにはないです。 絶対に損をしたくない万博には疲れた!なんも調べとうない!でもなるべく楽しみたい!そんなわたしのような人がいれば、まず、思い込んでほしいことがある。 「ここってテーマパークなんでしょ!ユニバーサル・スタジオ・ジャパンみたいな!わ〜〜〜っ、楽しみ!」 ちがうよ。 たぶんデケェ公園だよ。 以上です。 もっと言えば、超ナウい公園なのでかっこいい建築物があって、ちょうどお祭り期間中なので、その軒下で陽気な町の住人がいろいろ出し物してる。 テーマパークっていうと、どうしても「わたしを楽しませてくれるんでしょ……?」って思っちゃうので、その姿勢でいくと呪われる。 万博がショボいというわけではない!万博はただただ何もかもが、広すぎて、多すぎて、カオスすぎるだけではないかと! たとえば、高校の文化
わたしは、情強じょうきょうとして生きてきた。 情報収集に長け、他人より一歩も二歩も先をゆく、選ばれし者のことである。 パソコンもスマホも、学校の誰より早く使いこなし、検索の申し子だった。 今に至るまで、ホテルの最安値も、並ばずに切符を買う方法も。家族や友人の窮地には、かならずわたしが駆けつけ、最新の知恵を授けた。 絶対に損したくない! 絶対に楽しみたい! そうやって生きてきたし、これからもそうやって生きていくって。 信じてた。 大阪・関西万博が開かれるまでは。 せっかく関西に住んでるんだし、ローカルテレビでもコメンテーターやってるし、2025年の万博は行ってみよう。 そうと決まれば、さっそく情報収集である。 とりあえず入場チケットだけ購入し、公式WEBサイトを見た。 わから……ない……! あっ、ここでパビリオン展示館の詳細が読めるのね。万博の花といえば、やっぱりパビリオン…… わから……な
なんでもかんでも逃すまいとして、慌てふためいているわたしに、いったん話忘れてええでなと言うつもりで、書き留めている。脳の外付けHDDだ。 宿題も部活も、なーんも続けられんかったわたしが、2019年に作家という看板をオリャーッと掲げてから、ずっと続けられている。ちょっとうれしいので、聞いてもらいたい。 わたしの味方は、1冊の手帳と、3冊のノートと、2件のアプリです。使い道が全部、違います。ややこしや〜! ノートはこれで持ち運ぶ、ドラえもんの体重ぐらい重い エッセイメモ(Simplenote)これが一番、書く量も、書く頻度も多い。 エッセイメモと名づけてるけど「エッセイ=この目で見た現実」ってことにしてるので、見かけたり、思いついたりしたことは、残したいと感じた瞬間になんでも書く。歩いてる時は音声入力もする。 5年間で17万文字に増えてた。もうクセになってんだ、これ書くの。 写真に映ってる箇所
わたしには、良太という弟がいます。ダウン症です。ええやつです。ええやつじゃない時もありますが、それでも、ほんまにええやつです。 なぜ良太が、良太として生まれてきたかなんて、どうでもいいことでした。この人生とこの家族でよかったと思うたびに、生きとって丸儲け〜〜〜って思えました。 この運命しかあらへんのや!どんとこい! そういう大ざっぱで前向きな諦めが、何度もわたしを救いました。 ほんなら、昨日、こんなニュースが。 ダウン症の原因になる染色体が除去できることが、研究でわかったそうです。人間に応用できるかは、まだわかりませんが、将来はそうなるんでしょう。 ……えっ、それにしても、早くね? も、もう、そんな感じ? わたしったら、いま、むっちゃくちゃ動揺しとります。ちょっと涙も出てきます。なんも言いたくねえし、ちょっと考えんようにしとこ〜って思ってたんですが。 昨日から、メールとかメッセージとか、届
パリは、車いすの母と行けるとこと、行けないとこの差が、めっちゃ激しい。 バリアフリーとやらは、あらへんよ。 地下鉄にも、エレベーターはない。一割の駅にはできたらしいけど。一割て!一割て! 築300年、なんたら遺産級の建物がまわりにウジャウジャしてるから、どうにもこうにもファインディング・ニモ的な感じで、工事できないらしい。 地面に謎の車いすマークあったけど、頭がなかった。暗示かな。 パリでの移動は、バスかUber(ライドシェア)を使った。でも、通行禁止や渋滞が、ま〜〜〜〜〜多いので、となりの区に移動するだけで、40分ぐらいかかる。 時間も、料金も、東京の2倍ぐらい。 「オカネ、ナクナッチャウ、ヨ!」 パリはね、道も、ガッタガタ。 石畳やからね。オシャレなんやけどね。スーツケースやヒールで歩いたら、もっていかれる。 こういう裂け目に、何度、命(タマ)を取られたか。 お店もねえ、歴史的な建造物
なんとかしてもらって、なんとかなった。 これで、車いすテニスの決勝戦が観れる! パリに着いて、いざ! ここが、スタッド・ローラン・ギャロス。 全仏オープンも開催される、歴史ある会場。 壁が一面、ギャロスギャロス!ローランド!スタッドローランド!ギャロスギャロスギャロス!と叫んでる。よくわからんが、すごい。 ここで、日本の上地結衣選手がメダルをとる瞬間を、観れる……! 車いすテニスの競技場は、一階席、二階席、三階、四階席があり、コートに近いほど、チケットの値段も高くなる。わたしと母は、奮発して、二階席を買っていた。 チケットには、 二階席 11ブロック 4列 97番 車いす席 と、書かれていた。 「ワーッ!」 競技場の中から、ものすごい歓声が聞こえる。選手の紹介がはじまったのだ。もうすぐ試合開始だ。身震いした。 入り口で、青緑色の爽やかなポロシャツを着たスタッフが、ニッコニコで待っていた。彼
パラリンピック観たさに大枚はたいてフランスへ飛んだら、すべてのチケットを直前でキャンセルされてしまい、あわてている人間の記録です。 一度でいいから、夏のパラリンピックを観たい。 生で!熱狂しながら! 2021年、東京パラリンピックのコメンテーターの中継の仕事をした時に、思った。あれは無観客での開催になった。 一度でいいから、ヨーロッパに行きたい。 同じく2021年、清水買いした飛行機のチケットは、母が入院したので紙きれになった。 そして、2024年9月。 パリパラリンピックの開催。 行くっきゃ騎士ないと! ってなわけで、わたし、やりました。 パリ行き飛行機のチケットを、取りまして。 レギュラー出演してる番組「newsおかえり」の撮影陣も、来てくれることになりまして。 よし、よし、いい感じやぞと。 あとは競技のチケットを取るだけやぞと。 ここで、歴史的な円安という濁流に飲まれまして。 た……
わたし、岸田奈美。 ひとり暮らしの33歳。 スマートロックなるものを、買いました。 カギの上を、機械でカバーする仕組みのやつ。 ネジ穴が開けられない賃貸でも、強力粘着テープでくっつけたら大丈夫って話で。口コミも2500件ぐらいついてるし。知人にも好評だし。 すっげえ、便利! スマホ持ってるだけで、玄関に近づいたら、勝手にカギが開く。離れたら、閉まるようにもできる。機械が、内側からカギ、ひねってくれるの。 もうカバンの底で、カギ、探さなくていい! でも、機械だから。 なにがあるか、わかんねえから。 説明書には、 『外出時には物理カギ(今まで使ってるカギ)をお持ちください』 って書いてた。カギを挿しても、普通に開くからね。保険で持っとけよってこと。 だから、カギは持ち歩いてた。 持ち歩いてた、はずだった。 8月14日(水)、13時。 スポーツジムに行くので、家を出た。ギュイイイン。カギが自動で
その日は、東京でラジオの収録だった。 映像ディレクターの高橋弘樹さんの番組で。2時間近くもみっちりトークできるってことで、そりゃもう、ワクワクしてたわけ。 前夜、即入眠。 今朝、即起床。ガバ起き。 昭和の戦後間もない映像かなってぐらい、テキパキ動きまくって、支度した。わたしにしちゃ順調すぎて。 全日本早起き選手権大会、二位以下に大差をつけ、余裕の表情で新大阪駅行きの電車に乗った。優雅にスマホを見た。 『東海道新幹線、始発から運転を見合わせ』 なんですって? 名古屋あたりで、新幹線、完全に止まってた。 あらかじめ買っといた、わたしの大切な切符、紙切れと化してた。寝てる間に紙切れと化してた。これが競馬の恐ろしさ。 しかも、なんか、見合わせの原因が。 保守車両に、保守車両が、激突したっていう。 そ、そんな、ウルトラマンとアンパンマンが空中で追突するみたいなこと、あるんだ……。 亡くなった人がいな
【重要】 7/22 (月)15時現在、敦賀発〜東京着に乗り換えなし(紙のきっぷなし)の便が、最終便以外満席になってるので、下記の方法はもう役に立たないかもです。ごめんなさい! 7月22日(月)11時現在、東海道新幹線が「名古屋〜浜松」区間で運休していて、運転再開は夕方以降とのこと!なんてこったい! 飛行機も今日中の便は満席! ラジオ収録がせまるので、なんとしてでも、わたしゃ陸路で新大阪駅から東京へ行かねばならん! 東海道新幹線運転見合わせに関連し10:40の現状をまとめました。(公式見解ではなく日テレ鉄道部としてのまとめです) JR東海によりますと夕刻まで復旧作業が続く見込みのため、運転再開見込みは立っていないという事です 西側方面へのアクセスは混雑やダイヤ乱れが予想されます。慎重に行動されて下さい pic.twitter.com/26oZhQHk7F — 日テレ鉄道部 (@ntv_tet
2021年に路上で紛失した指輪を、フリマアプリで転売されてしまった時の話です。とてつもなく長い文ですが書いてあることは、 ・自分で指輪を買い戻した ・出品者は警察で書類送検された ・出品者の立場を想像して思うこと あとがき以外は無料で全文読めます。警察や会社とのやりとりは、一部要約や編集してあります。ネコババ出品、ダメ、ぜったい! 亡くなってしまった父は数年に一度、母の誕生日になると、給料をはたいて、シルバーのアクセサリーを贈っていた。 わたしがまだ小学生だったときも、神戸からはるばる東京の表参道まで、父がCOACHのブレスレットを買うのに付き合わされた。 買っている姿をわたしに見られるのが恥ずかしかったようで、 「俺は用事があるから、お前はここで待っとけ!なっ!」 ジュースを渡され、小学生なのに、表参道の人混みで置き去りにされた。マジでとんでもねえ父である。 ただ、母はそれをたいそう喜ん
おこんばんは。 ついに家で赤ペンを耳に挟むようになりました、もっぱら両手ふさがりがちな岸田奈美です。 とつぜんですが、休みます! 漏水、引っ越し、健康診断の追試的な検査で、てんやわんやですが、意外とかなり元気です。 元気なのに、休むんです! 先月のnoteで、極限地帯を走り抜けてるせいか、元気が止まらなくて困ってしまわい!という弱音を吐きました。新感覚!強すぎる弱音!!! 家におるだけで、山づみの段ボール、親の仇ほどあるゴミ袋、皿の剥がしそびれた値札シールなどが、目に入って、目に入って! ずっと動いてる!小忙しく!しんどい! 「ちくしょ〜〜〜!ネタにしたろか!」 メモを取る手も止まらなくて。耳に挟んだ赤ペンでキュキュキュッと。何万文字も貯まりゆく、どうしようもねえ文章。 このままでは……! 死ぬまで泳ぎ続けるマグロになる……! なんもせんで、よくなりたい。 なんも見んで、なにも書かんで。
タイムラインにいつでもいつもいるあの人が、いなくなっちゃうのってさみしい。 岸田奈美が最近あんまり話せてないあの人に「どないしてますのん?」と、近況をおたずねする勢いで雑談をしかけるTwitter Space配信。 配信の音声も、全部聴けます。 >Youtube >Spotify podcast >Apple podcast 雑談のお相手は、病理医ヤンデル先生。 本当にやばいとき、冷や汗ではなく血が流れる岸田 お医者さんの学会って、えらい人ほど『素人質問で恐縮ですが』って腰を低〜くして入ってくるって本当ですか? ヤンデル 半分本当で、半分ウソですね 岸田 ウソ? ヤンデル そう。あのね、中途半端にえらい人は、すごくえらそうに発言します。でも本当にね、本当に、きら星のようなごく一部のマジのえらい人がさ。 岸田 きら星のような……? ヤンデル そういう人が低姿勢で入ってくるときは、もう、背中に
ラーメン屋の行列に並んでいた。 京都の自宅へ遊びにきた母が 「ラーメン食べとうて、しゃあない」 と、眼をかっ広げて言うのである。 母はたまに、そういう猛烈な天啓が下る。 車いすなので、こぢんまりした店にはひとりでフラッと入れないからだ。 ならば、どうしても食べさせたいラーメンがある!京都の名店! 麺屋猪一! いつ来ても行列で、ミシュランにも載り、外国のお客でごった返してる。 おっ。 本店近くの“離れ”なら、今日は20分ぐらいで入れそう。 天啓!!! というわけで、並んだ。 待ってる間に、メニュー表を見る。 「1400円!?!?!?!!」 ビビった。 2年前に初めて食べたときは、900円。 昨年は、1000円だったのに。 つ、強気ィ! 原材料の高騰で値上げするのは、まあめずらしくもないけど、なかなかにウッとなる金額である。 観光で来た人、それも外国からなら、ぜんぜん出せるか。そっか。え〜〜〜
半年前、ふるさと納税で、桃を5キロ注文した。 がめつさを全面に出してけー、出してけー、1年生も声出してけー!って感じに出してって、いちばんポイントが還元されるWEBサイトにしたら、 システムバグで、桃が無限決済された。 80キロ越えてた。 池中玄太? 管理会社に問いあわせたら、 「うちのバグなのは認めますけどもォ、もう自治体に注文入れちゃってるんでェ、返金されるかは自治体と交渉してくださァい」 的なこと言われて、あのさ、こないだVIVANT観たときに堺雅人が同じ目に遭ってて、すげえ親近感わいた。あっち130億円。こっち80キロ。 「税金っていうのは、返金不可が基本ですのでェ」 これがまかり通るなら、ジェフ・ベゾスが日本でレンタカー借りてETC通過する直前に高速料金を1300兆円に値上げして国家負債を一撃でチャラにするみたいな方法も許されてしまうだろ!ばかっ! んで、すったもんだの末、返金し
スタジオジブリ『君たちはどう生きるか』を観た。 これだけを伝えたくて書いてるようなもんだけど、 なんも読まんといて。 なんも聞かんといて。 楽しみたいならば、今すぐチケットを買って、映画館へお行きなすって。 ツイッターも映画.comも、開くんじゃない! ネタバレがどうとかいう次元ではなく、映画にまつわる、どんな人のどんなささいな言葉も、なんぼの点数の星も、あなたの体験を汚してしまう。 子どものころに図書室で、だれにもなにも言われず、手にとった本がある。まっさらな心を掴んで引きずり込んで離さなかった、そんな本がある。 あるでしょうよ。 あれです。 あのときと同じ。 あなたは今、本棚の前に、ひとりで立ってる。 おもしろかったらとか、つまんなかったらとか、考えたらあかん。子どもを連れて行って楽しめるかも、どうでもいい。 楽しんでもいいじゃん。寝てもいいじゃん。 体験のほうがだいじ。何十年か先で、
子どものころ、大人気のお歌があった。 「奈美ちゃん、奈美ちゃん、どっこですか〜♪」 先生が歌えば、 「ここでっす、ここでっす、ここにいます〜っ♪」 子どもらは大喜びで、返事をする。 母が歌う。 「良太くん、良太くん、どっこですか〜♪」 弟はいつもどこかにいたけど、それは絶対に、ここではなかった。 ジッとしてられない弟だった。 だまってられない弟だった。 保育園でも、小学校でも、歩道でも、公園でも、どこでも無尽蔵に跳ねまわっていた。軌道がまったく読めないので、スーパーボールみたいだ。 捕まえられるのは、母だけ。 母が弟を取り押さえるときの爆発的な初速は、ご近所の間で「神戸市北区のフローレンス・グリフィス・ジョイナー」と褒め称えられていた。 小学校へ入学すると、弟はさらに速く、そして給食によって重くなり、体当たりでしか止められなくなった。 母はまもなく「神戸市北区のリーチマイケル」の称号も得た
生まれてはじめて、スタジアムでサッカー観戦をすることになった。 ことの始まりは、ワールドカップである。 ド深夜、煌々と光る液晶の向こうで、次々と強豪をブチ破っていく日本代表に感動し、エイヤでツイッターを開いた。 4年後のために、われわれニワカは何が…何ができるんだ…何かやらせてくれ… — 岸田奈美|Nami Kishida (@namikishida) December 5, 2022 書いたら、バズった。 バズらせたのは、Jリーグのサポーターたちだ。 「選手たちを育てた地元クラブをぜひ応援してください!」 「お金を払えば、なんと試合が観れてしまうので実質無料です!」 「将来の日本代表選手を、その目で見極めましょう!」 カッパの子たちが、沼の底から次々と飛び出し、手を引くかのよう。勢いに…勢いに飲まれてしまう……! 数日後、レギュラーコメンテーターをやらせてもろとる『newsおかえり』に出
「うちの子は、良太くんみたいにはなれへんと思うから……」 先週はるばる山を越えてサイン会に来てくれた友人が、ポロッとこぼした一言が突き刺さった。 良太とはわたしの弟だ。ダウン症で知的障害がある。友人の3歳になる娘さんも同じだった。 「良太が3歳やったときより、ずっとお利口さんに見えるで」 それでも、友人の顔は曇ったままだ。 「この子な、人にあんまり興味がないねん。おしゃべりもほとんどない。わたしにとってはカワイイけど、わたしがおらんところで、誰からも愛してもらわれへんかったらどないしようって想像すると、怖くなる……」 困らせてごめんと泣きそうに謝る友人を見て、わたしはうまい返事がとうとう見当たらなかった。 彼女に手を引かれる娘さんは、じっと窓の外を走る電車を見つめる瞳は、あんなにも愛しかったのに。 弟との日々を書くことは楽しく、読んでくれる人がいるのは嬉しい。いつか弟がひとりで生きていくか
ダウン症の弟が、いっそう流暢にしゃべりはじめた。 半年前までは 「あー、ええ、おうですね、あい」 だったのが 「あーあ、また雨や。東京は雪やって。いやんなるわ」 になった。 26歳にして魅せる急激な成長に喜ぶ一方、逃げ出したオウムが知らん言葉を大量に覚えて戻ってきた時の怖さもある。 理由は言わずもがな、春からグループホームで暮らしはじめたからだ。 実家の和室をアジトに、悠々自適をかましていた弟にとって、はじめての共同生活。同居人にマナーを注意され、ベソかいて電話をしてきた夜もあった。 そんな弟にも、大切な友だちができた。 彼もまた知的障害があるのでお互いうまく話せないが、一発ギャグを交えつつ、楽しんでいるらしい。 いま最もアツいギャグは、ダンディ坂野の「ゲッツ!」なのは置いといて。彼がいちばん好きなものは野球だという。 「あんな、野球、いきたいねん」 ある日、大谷翔平選手の形態模写をしなが
2023年2月3日、日付が変わるギリギリで思い出した豆をひとりで、鬼のお面をしながら、四方八方にまき散らしていたときでした。鬼みずから。少子化。 「岸田奈美さんのエッセイが、難関中学の今日の入試問題に出ました!」 なんですって! 調べたところ、東京の筑波大学附属駒場中学校だった。都内……偏差値……1位……!? 昨年は、京都大学医学部の入試でミャンマー行きのエッセイを、灘中学校の模試でバズった母のエッセイを使ってもらった。偏差値が、偏差値が軽々とスキップでわたしの頭を飛び越えていく。 出題されたのは、光村図書「飛ぶ教室 第65号(2021年4月発行)」に寄稿し、「ベスト・エッセイ2022(2022年8月発行)」に転載されたエッセイ。 ダウン症の弟が、ガラスを割った罪を、近所の子どもからなすりつけられそうになったときのこと。なつかしい。 設問も一緒に、読ませてもらったから、解こうとした。 結果
週刊少年ジャンプの『友情・努力・勝利』だけでは、どうやらどうにもならないことがあると知ったのは、大人になってからだ。 苦境から一歩を進むために、わたしがひとつ足すとすれば『時間』である。 映画『THE FIRST SLAM DUNK』に、緻密な『時間』の物語をみた。 原作・脚本・監督の井上雄彦さんは『時間』を表現する境地にたどりついた漫画家だ。人間の本質を描こうとするほど『時間』の表現が自然と組み込まれていくのかもしれない。 漫画が視線の創作だとすれば、映画は時間の創作。 物語の体験速度をコントロールするのは、漫画ならページをめくる読み手にも委ねられるが、映画では完全に作り手だ。 映画の制作資料集の では、たった一秒か二秒のワンカットに対して、井上さんが「一瞬うれしさこみあげる」「落ちながら目線はリング方向、球と脚を伸ばすのは同時」「喜びで眉をわずかに動かす」と、納得するまで何度も直してい
あなたの“あかん”は、どこから? わたしは、2週間から! なんかなあ、と思いはじめたのは、母の入院から1週間すぎた頃だった。 母は総胆管結石の手術が終わって、あともう1週間もすれば帰ってこられるだろうということで、わたしが実家の番をしていた。 パソコンと減らず口さえありゃどこでもできる仕事で、よかった。 犬の梅吉の世話と、隔週の土日にはグループホームから弟が帰ってくる。 梅吉は留守番ができず、散歩も吠えまくって苦手なので、わたしたちは家にずっといた。広いお庭で走り回らせてくれる犬の幼稚園があって、そこで週2回の朝から夕方まで、梅吉を預けた。 お迎えのカゴに入れられて 「なんでや!ワシがなにをしたんや!おい!説明せえ!」 という目で見てくる梅吉に「すまん」と謝り、わたしはルンルンで街に出かけた。わざわざめかしこんで、わざわざ百貨店のエルメスに並んで、わざわざ一番安い4,000円の爪やすりを買
『いたいよー』 入院している母からのLINEだ。 早朝、朝、昼、晩、深夜。時報のように送られてくる。 『いたい、なんもできない、つらいー』 開腹手術を受けて、一週間。まだ傷がじくじく痛むという。 『わたしがいま一番やりたいこと、わかる?』 『わからん』 『寝返り』 ごろんごろんもできず、車いすにも乗れず、ひたすら腹の痛みを耐える母。 『起きるのもしんどい、ごはんも見たくない。ずっといたい。ちょっとでも気を抜いたら病む』 病んでるから入院しとるんやで。お見舞いも禁止されている今、わたしにできることは『そうかあ』『かわいそに』と、相槌を打つぐらいだ。 それぐらいしか。 相槌すらもバリエーションが枯渇しはじめた。励ますために新しいLINEスタンプを買ってみた。根気よく励ます方も、なかなかしんどい。 そんなある日。 入院先の病院の厨房に、緊急の修理が入った。 ただでさえ、そうそう美味しいとは言えな
キレ散らしてる人の声を“聞く”のは嫌いだが、“読む”のは嫌いじゃない。 なぜか惹かれてしまうこともあった。人に誇る衝動では、絶対に無いが。 病気にかかる家族が多かったせいで、あちこちの病院にわたしもよく付き添ってきた。 待ち時間が長いと、暇つぶしに院内をうろつく。 廊下に 『患者様のお声コーナー』 があると、必ず足を止める。 患者が自由に要望を投書し、病院がそれに答えたものが張り出されている掲示板だ。そこで何分も、何十分も、わたしは釘付けになる。 これこれ。これが読めるから、付き添いはやめられんのよ。 似たような掲示板はスーパーなんかにもあるけど、病院のは飛び抜けて、感情の剥き出し具合がエグい。 剥き出しで言えば、縁切りで有名な安井金比羅宮の絵馬置き場もえげつない。感情どころか呪いたい不倫相手の勤め先住所まで剥き出しになっていた。眺めてるだけで得体の知れない高熱が出そうだったので、早々に立
幡野広志さんへ。 この間は、写真の撮り方を教えてくださって、ありがとうございました。 幡野さんと、高校生と、三人で京都を歩いているだけでも、笑いっぱなしで楽しかったです。 京都はあいにく、秋冷えする雨でしたね。わたしは一族きっての晴れ女なので、大切な予定の日に雨が降るという慣れない無念さにズゥゥゥンと沈んでいましたが、幡野さんは気にも留めませんでした。 「雨が降った日に歩いたんだから、雨が降ってる写真がいいんだよ」 ビッチャビチャの参道、ドロドロの枯山水、グジュグジュの靴などを想像してしまいましたが、幡野さんが言った意味を知るのは、もう少し後のことです。 わたしは幡野さんに、ズバッと教わりたいことがありました。 “写真って、なんのために撮るんだろう?” わたしはこの頃、写真を撮りたいというより、写真を撮らされているような気がするんです。 スーパーマーケットの入り口で、たまに、屋台が出ていま
今日、たぶん、神様に会った。 よく澄んで晴れた、秋の午後だった。 総胆管結石で入院している母からLINEで連絡があった。 「退院、来週明けやって」 もともとは何週間か入院するかもと聞いてたので「あらま!」と弾んだ返信を打っていたら。 「肝臓が回復したらすぐに、また入院やって」 わたしは「あらま!」を「あらま…」にサッと打ち直した。 3日前に内視鏡での手術を終えたばかりの母だったが、結石が大きく、取り去れなかった。年内にもできるだけ早く、お腹を開く手術を受ける。この病気では、よりにもよって一番難しい手術だ。 「命にかかわるようなことはないんやって」 母の連絡を受けて、わたしはまず、年末の旅行のキャンセルに取りかかった。母が行きたいと願った場所だった。 レンタカー、飛行機、ホテル、次々と予約を取り消す。キャンセル料で3万円ほど引かれた。母からは、ドラえもんが天を仰いで大泣きしているスタンプだけ
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