こんな得点の仕方ができるチームは強い…。今更ながらそんなことを思ったのは1点ビハインドの6回だ。先頭・近本光司が中前打を放つ。すかさず盗塁を決めて無死二塁。2番・中野拓夢のバントは絶妙な転がりを見せ、内野安打に。これで無死一、三塁だ。

同点は固いと思った。打席には1回に二塁打を放っている森下翔太である。その平行カウントからの5球目に今度は中野がスタート。盗塁成功し、無死二、三塁に場面が変わった。

ソフトバンク対阪神 6回表阪神無死二、三塁、森下の遊ゴロの間に三塁走者が生還し同点に追いつく(撮影・岩下翔太)
ソフトバンク対阪神 6回表阪神無死二、三塁、森下の遊ゴロの間に三塁走者が生還し同点に追いつく(撮影・岩下翔太)

これは同点どころか森下で一気に逆転も…。そう思ったが結果は違った。フルカウントから森下の放った打球は遊撃へのゴロ。これで三走・近本がかえり、追いつく。「三振だけはしない」という打撃に見えた。

「なにかコトを起こせば1点入ると思っていた。フォークもツーシームも対応できるようにしていた。遊撃手の位置は見えていた。でも、どこに打とうとかではなく自分のスイングをしようと思った」

そう振り返った打撃で追いつくと主砲・佐藤輝明が勝ち越しの二塁打を放つ。森下のシブい、オトナの打撃が生きた瞬間だ。看板選手2人に打点がつき、結果同様、雰囲気も盛り上がった瞬間である。

なにしろ、大舞台だ。雰囲気が違う。それを象徴したのは1回、先発・村上頌樹がソフトバンクの先頭打者・柳田悠岐に四球を与えた場面だ。今季はシーズン26試合に先発登板した村上は14勝4敗、防御率2・10の好成績。その上で最多勝、最優秀防御率、最多奪三振の「投手3冠」を獲得した。そして今季与えた四球は「25」。1試合に1つの四球も与えないほどの制球力だ。

ソフトバンク対阪神 6回表阪神無死1死三塁、佐藤輝の適時二塁打で生還し、ナインに出迎えられる森下(撮影・藤尾明華)
ソフトバンク対阪神 6回表阪神無死1死三塁、佐藤輝の適時二塁打で生還し、ナインに出迎えられる森下(撮影・藤尾明華)

その村上が今季、1回の先頭打者に四球を出したケースは26試合で一度だけ。6月6日、オリックスとの交流戦。その1回表に智弁学園の1年先輩である広岡大志に出した。それ以外は安打、本塁打を許すことはあったが四球はなかった。15日に投げたCSファイナルでも同様だ。

ソフトバンク有原航平も四球の少ない投手だ。この試合で阪神は有原を含む4投手から四球を奪えなかった。だからこそ、それを補ってあまりある足攻が効いたし、それを生かした森下の打撃には意味があった。

エースからブルペン、主力野手。それぞれが持ち味、いや、それ以上のモノを発揮してもぎ取った1点差勝利。これは大きい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

【イラスト】阪神、みずほペイペイドーム日本シリーズ連敗ストップ
【イラスト】阪神、みずほペイペイドーム日本シリーズ連敗ストップ