Nという少年がいた。彼には際立った特徴があった。それは感受性が豊かということだった。特に彼は絵が抜群に上手くて、ちょっとクレヨンを振るえばそれでもう大人たちはこぞって誉めてくれた。凄いとか抜群だとか褒めそやした。彼はそれがイヤだったわけではない。ただそれほど誇りにも思わなかった。彼にはそういうところがあった。どこか傲慢だったのかも知れない。他人の評価というものにほとんど興味がなかったのだ。 Nは小学校に上がった。そこで忘れ得ない先生との出会いを果たす。その先生の名前はS。もう五十代後半のベテランの女性教師だった。後数年で定年を控えていた。そうして、同僚からも保護者たちからも信頼の厚い、また非常な尊敬を集める人物であり教師であった。 NとS先生とのあいだには忘れ得ぬ思い出がある。一つは国語の授業の時のことだ。その頃、国語の授業では朗読が行われていた。クラスの端から順にみんなの前で国語の教科書