このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。 X: @shiropen2 1873年にクルックスが放射計で実証した「光泳動」という現象がある。これは光が当たると希薄な気体中で物体が動く現象であるが、その実用的な応用は長らく困難とされてきた。なぜなら、従来の方式では飛行体のサイズが平均自由行程よりも小さくなければならず、成層圏では10nm、中間圏でも1cm程度に制限されていたためだ。 研究チームが開発した新技術は、「熱遷移」(thermal transpiration)と呼ばれるメカニズムを活用している。100nmという極薄の酸化アルミニウム膜を2枚、間隔を開けて配置し、その間を垂直の柱でつなぐ構造を採用した。各膜には微細な穴